SDGs時代に必要な優先順位の変更<中小・中堅企業のためのSDGs入門 Vol.11>
金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎
2021/7/17
Vol.11 SDGs時代に必要な優先順位の変更 ~安定よりも変化を優先~
前回、SDGs時代において経営者は3つの優先順位の高い考え方として「変化」・「共創」・「独自の付加価値」を取り入れていく必要があることをお伝えしました。今回は、そのうちの「変化」について詳しく説明したいと思います。
これまでは、一般的に安定的な経営が理想だと考えられてきました。しかしながら、変化しなくても安定的な経営ができるということ自体、実社会ではあまり存在し ないということが経営学の進歩によってわかってきました。例えば、2000年前後にテキサス大学のティモシー・ルエフリとチューレーン大学のロバート・ウィギンズ という二人の経営学者が発表した研究成果がその実態の一端を表しています。彼らは、米国の6,772社を調査・分析した結果から、例えば10年程度といったような一定期間に他社と比べて安定して好業績を実現している企業は、業績が落ちかけても、すぐに新しい手を打って業績を再度向上させていることを明らかにしました。すな わち、外部から見ると安定的に成長しているように見える企業でも、実際には内部で変化を繰り返すことで、その安定的な成長を維持していることが実態であり、そ の企業の経営者は常に変化を求め続けているのです。皮肉なことに、現在のように変化が大きい時代においては、変化を望む企業が安定し、安定を求める企業は悪い 状況へと変化していく、そういった現象が主流になりつつあるのです。
さて、SDGsには、これから起こる世界中の様々な変化が内包されています。ゴール3に組み込まれているパンデミック対策はまさに私たちが直面している大きな変化です。多くの企業が早く新型コロナウイルス感染拡大が収まり元の生活に戻ってほしいと願っている中で、SDGsに真摯に向き合っている組織やその組織の経営者は、自 組織の変化を促すことに注力しています。
私が事務局代表を務めるジャパンSDGsアワード受賞組織が所属する同窓会ネットワークであるジャパンSDGsアワードアルムナイネットワークにおいて、コロナ禍にお けるアワード受賞組織の考え方・活動を調査したところ、業種・業態問わず、ほとんどの組織が今回の大きな変化を組織の成長に結び付けていることが分かりました 。(詳細は、金沢工業大学ウェブサイト参照 www.kanazawa-it.ac.jp/sdgs/topics/2020/1225.html)
こうした組織では、SDGsに取り組むことで変化に対して柔軟性・強靭性を有する組織を作ることを実現しています。具体的には、変化した社会・市場の「現地・現物 ・現実の理解」を迅速に行い、組織内での「目線の改善」を行うことで多様な情報が混在する社会における行動の優先順位を再設定し、「迅速な決断・行動」によっ て変化する環境に自ら働きかけることを通じて、現場の生の情報が集まりやすい状況を作るといった好循環を能動的に生み出していることが共通点として見られます 。特に、変化が大きい、すなわち変化による被害が大きい脆弱な人々に寄り添った活動を積極的に行うことで、他組織が理解できない問題の本質を迅速に見極めてい ることも特徴的です。
変化の時代だからこそ、変化し続けられる組織づくりが経営の安定化を生む。そうした新しい常識を備えることが経営者に求められているのです。
※ジャパンSDGsアワードアルムナイネットワーク「コロナ禍におけるSDGs先進企業・団体の意識と取り組みに関するレポート」、カール・E・ワイク「センスメーキン グインオーガニゼーションズ」、Chun Wei Choo “Innovation in Knowing Organization: A Case Study of an e-Commerce Initiative”、入山章栄「世界標準の経営 理論」を元に筆者作成