SDGsを経営戦略に活かすために<中小・中堅企業のためのSDGs入門 Vol.10>

金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎

2021/7/17

Vol.10 SDGsを経営戦略に活かすために求められる経営者の秘めた能力の開花

これまで日本の中小企業が直面する危機とSDGsとの関係性について、自社に紐づく「①人材不足の危機」、競合に紐づく「②コスト競争の加速による危機」、市場に紐 づく「③市場縮小による危機」、ビジネスの前提となる社会に紐づく「④取引条件変更による危機」と「⑤地球規模課題による危機」の5つを紹介してきました。

それでは、これらの危機を紹介してきた企業事例のようにビジネスチャンスへと変換していくにはどうしたらよいのでしょうか? SDGsを経営戦略に取り入れ、危機をビジネスチャンスへと変換するためには、SDGsに貢献する新規事業の創造と、SDGsに向き合うために必要な意識・組織改革の両輪が必要です。しかしながら、焦って 新しい事業を生み出そうとすると、意識・組織がついていかず、表面的な話となり継続的には成功しません。他方で、意識・組織だけ変えようとしても、具体的な事 業やアクションに落とし込まれなければ、心の底から納得し行動を変化し続けることはできず、一過性の変化や精神論に留まってしまいます。中途半端に取り組んで も効果は出ないのです。本気でSDGsに向き合うとともに、両方の変化を同時に起こしていくことが必要なのです。そして、こうした二種類の変化を並行して進めるた めには、経営者自身が新しい時代に合わせて秘めた能力を開花させ、成長・変化する必要があります。

経営者自身がSDGs時代に適した成長・変化をするためにまず必要なことは、優先順位の変更です。具体的には、「安定よりも変化を優先」・「競争よりも共創を優先 」・「優れたオペレーションノウハウ・技術よりも独自の付加価値を優先」と3種類の優先順位の変更を行う必要があります。

これまで日本企業の中で重視されてきた「安定」・「競争」・「優れたオペレーションノウハウ・技術」は、これまで日本市場が有していた3つの前提条件が揃った際に、企業の成長を促してくれる原動力となってきました。3つの前提条件とは、国内のルールを守って活動していればよいこと、市場規模が人口増加とともに確実に拡大すること、過去に鎖国をし、非言語能力を重視してきた島国であるがゆえにニーズが比較的単一的であること、の3つです。

しかしながら、それらの前提条件が全て失われてきたことは、これまで5つの危機の紹介を通じてお伝えをしてきました。これからの市場は、変化が激しくビジネスの前提となるルールが世界規模で変わる、気候変動やパンデミックのように人類全体への危機に向き合わないと生活していけない、AIやロボットには真似できない独自 の価値を生み出し続けることが必要である、という3つが新たな前提条件になります。その前提条件にあわせて優先していくべきことが「変化」・「共創」・「独自の付加価値」といった考え方なのです。

次回から、これらの3つの優先順位の高い考え方について詳細をご紹介していきます。

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