中小企業が直面する危機とSDGsとの関係<中小・中堅企業のためのSDGs入門 Vol.5>

金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎

2021/7/17

Vol.5 日本の中小企業が直面する危機とSDGsとの関係①(人材不足の危機)

これまで「SDGsとは何か」を3つのキーワードから説明してきました。それでは、このSDGsは中小企業にとって、どのような意味を持つのでしょうか? 私は、日本の 中小企業が直面する5つの危機を乗り越えるために、SDGsに取り組むことが有効だと考えています。現在、日本の中小企業は、3Cとして知られる「自社」、「競合」、「市場」の3つの視点、それに加えて「ビジネスの前提となる社会の変化」という視点から、大きな危機に直面しています。

これらの視点から見えてくる5つの危機とは、自社に紐づく「①人材不足の危機」、競合に紐づく「②コスト競争の加速による危機」、市場に紐づく「③市場縮小による 危機」、ビジネスの前提となる社会に紐づく「④取引条件変更による危機」と「⑤地球規模課題による危機」の5つです。もちろん、これらの危機の全てをSDGsが完全に解決してくれるわけではありません。しかし、有力な解決手段の一つであることは確かであり、既に成果を上げている日本企業が現れている状況です。

今回は、「人材不足の危機」について、概要と先行企業事例について簡潔にお伝えしましょう。いま多くの中小企業が人材不足に苦しんでいます。新型コロナウイル ス拡大により、一時的に人手が余る状況も発生していますが、経済が回復していくにつれて、改めて人手不足が問題視されていくことでしょう。

それでは、若者はどのような企業に所属したいと思っているのでしょうか? 実は、いまの若者は未来に希望を持てていません。デロイトグループによるミレニアル年次調査(2018)によると、1983年以降に生まれたミレニアル世代の内、76%は親より経済的に豊かな人生が送れない、83%が親より幸福になれないと考えていると回答 しています。なぜならば、生まれてから今までの間で経済が右肩上がりに成長していく状況を目にしたことがないからです。そうした状況下で、個人個人の幸せを応 援してくれる企業に人が集まる傾向があります。

例えば、ウェディング事業を主として展開する株式会社CRAZYでは、定期的に社員一人ひとりの人生を語る機会を設けています。各社員の思いを重視し、業務に関係ないことでも、会社が協力するのはもちろんのこと、社員間でお互いの人生を応援しあえるように促しています。一人ひとりに向き合った経営をすることは、従業員の モチベーションの向上や生産性の向上や優秀な人材の採用につながります。

実際に、株式会社CRAZYのように一人ひとりの人生に向き合い、SDGsに真摯に取り組む地方の中小企業には、続々と東大・早慶・同志社・立命館等を優秀な成績で卒業した人材が入社してきています。彼ら彼女らはリクルーティング媒体に影響を受けず、SDGsをキーワードに、企業のウェブサイトや取材記事等を元に積極的に情報を 収集し、人生を共にしたい企業を選んでいます。

SDGsのゴール8「働きがいも経済成長も」に示されている通り、社員一人ひとりの人生に向かいあうことと、企業の成長を両立することが必要です。そして、その実現に本気で取り組む企業には優秀な人材が集まってくる時代が到来しているのです。

登録後送られる認証用メールをクリックすると、登録完了となります。

「税理士.ch」
メルマガ会員募集!!

会計人のための情報メディア「税理士.ch」。
事務所拡大・売上増の秘訣や、
事務所経営に役立つ選りすぐりの最新情報をお届けします。