「総合戦じゃ勝てない」美大卒・元公務員が暗号資産特化を選んだ訳
分離課税への備えと、AI時代を生き抜く「掛け算」戦略

カオーリア会計事務所 代表 税理士 藤本 剛平
異色キャリアから暗号資産特化へ
美大出身税理士が語る独自の生存戦略
藤本先生は美大から公務員という、税理士として非常に異色の経歴をお持ちですね。
初期のキャリアについてお聞かせください。
最初に歩んだキャリアは品川区役所での公務員生活です。武蔵野美術大学に入ったはいいものの、美術の世界って才能の有無がすぐに分かってしまう残酷な世界なんですよ。アニメクリエイターを目指していましたが、自分は「作る側」の人間じゃないと早々に見切りをつけました。そこで、公務員なら自分の経歴でも拾ってくれるだろうという思いで入庁し、8年ほど働いていました。当時は税理士になるなんて全く考えていませんでしたね。
安定した公務員生活から、なぜ未経験の税理士を志したのでしょうか。
長く働くうちに、組織にいるより個人で働く方が自分の性格に向いているなと思ったのです。そこで独立できる仕事として税理士を選びました。区役所を辞めて税理士法人に入るとほぼ同時に、大阪経済大学の大学院へ進学しました。暗号資産税務への強い関心があったため、働きながら大学院に通って税法論文を書き、その後に税理士資格を取ったという流れです。最初に入社した税理士法人はM&Aなどをメインにしていて、正直なところ独立の基礎を学ぶにはあまり適さない環境でした。相続税法や法人税法などの知識が必要になる中で、当時の自分のスキルでは荷が重すぎて、1年ほどで一度ギブアップしています。次の事務所で普通の法人税法などを1年半ほど学ばせていただき、そこから独立に至りました。

独立にあたり、あえて「暗号資産への特化」を選ばれた理由を教えてください。
僕は30歳手前で税務の世界に入った人間なので、20代から税務にどっぷり取り組んできた税理士一本の方々と同じように、全般的な税務を請け負う形では彼らに到底勝てないと冷静に判断したのです。ホームページで「税務全般引き受けます」とアピールしても、Google検索で上位に表示されるわけがありません。専門分野に特化するしか生きる道はないと結論づけました。
当時、エイダ(ADA)という暗号資産を個人的に触っていて、価格がめちゃくちゃ高騰したタイミングと重なったこともきっかけになりました。すぐに暴落したので何の利益も得られなかったのですが、その時に「暗号資産の税金は非常に高い」という当事者としての問題意識を持ちました。暗号資産バブルに伴い申告のニーズが高まっていたのに、対応できる税理士が業界に全然いなかったことも大きな追い風でしたね。
美大出身という背景は、現在の業務にどう活きていますか。
現在、お客様の中にNFTなどを扱うクリエイターやアーティストの方も多くいらっしゃいます。そういった方々から経理や税務を頼まれる際、自分自身が美術の道を志した経験があるからこそ、クリエイターの皆さんの気持ちや価値観を自然に理解できるという強みがあります。また、母校の武蔵野美術大学のキャリアセンターで、アーティスト向けのフリーランス独立講座の講師なども務めています。また、才能側の人間でなくてもさまざまな生き方があるよというリアルな話もできるため、業界の中でも独自の立ち位置を確立できていると感じています。
暗号資産税務の光と影
独立を支えた出会いとリスク
非常に難易度が高いとされる暗号資産の損益計算の壁を、どう乗り越えたのでしょうか。
独立して初めて担当したお客様の損益計算がびっくりするほど難しくて、本当に必死になりました。その時、Twitter上で独自の計算ツールを開発して発信していたフリーランスのエンジニアの方を見つけたんです。そのツールを使いながら「ここがわからない」と直接相談に乗ってもらっているうちに彼と意気投合して、一緒に本格的なシステムを作ろうという話に発展しました。それが現在の「クリプトーチ」という自社開発システムにつながっています。今の事務所の体制としては、税理士業務を行っているのは僕1人で、システムの開発やメンテナンスはそのエンジニアに任せるという、極めてミニマムな体制です。拠点もマンションの一室ですし、時折大学院の教え子がアルバイトで手伝いに来てくれるくらいですね。
2022年4月に独立されていますが、その前に書籍を出版されています。
これはどのような経緯で実現したのでしょうか。
これについては、完全に運と出会いに恵まれた結果です。2022年の2月に、僕がTwitterで積極的に発信していた暗号資産の税法論文が、出版社の方の目にたまたま留まったのです。暗号資産の大家である泉先生からも直接ご連絡をいただき、やりとりを進めるうちに「じゃあ書籍を書きませんか?」と。そこから4月中に猛ダッシュで初稿を書き上げ、自分が独立開業する前に中央経済社から書籍を出版するという異例の経歴を持つことができました。
暗号資産特化のメリットと同時に、デメリットやリスクはどう感じていますか。
専門特化は生き残るための強力な道ですが、同時に「諸刃の剣」だとも痛感しています。市場が落ち込む「冬の時代」などの化学的変化が起きると、新規のお客様が全然来なくなって事務所の経営が困難になる可能性があります。それに、暗号資産で利益を得たお客様は普通のビジネスと違って、毎年継続して依頼してくださるとは限りません。詐欺にあったり、大損して相場から退場してしまったりする人も多いため、顧客基盤は非常に不安定です。業務の性質としては、相続税のようなスポット業務にかなり近いのではないかと思います。現在の顧客は、そのほとんどが、暗号資産に関する全ての申告を一貫して依頼してくださるクライアントで、残り約10%がセカンドオピニオン的な利用です。僕は他の税理士事務所のお客様を積極的に奪おうという意図は全くありませんし、そこにメリットも感じていません。顧客獲得も主にTwitterでの発信やメディア掲載、DMでの問い合わせによるもので、積極的な営業活動は一切やっていないですね。
市場の不安定さがあるからこそ、拡大路線はとらないという経営判断なのですね。
その通りです。自分のブランディングが「暗号資産専門」として確立してしまっているので、市場が完全に冷え込んだ時に別のブランディングをつけ直すのは結構大変なんですよ。だからこそ、従業員を安易に増やして固定費を上げるようなことはせず、マンションを拠点としたミニマムな体制で、いつでも撤退できたり最悪の事態に耐えられたりするようにリスクヘッジを最優先しています。
専門外の受任は命取り!DeFiは黄色信号
分離課税で複雑化する実務と事前の対策とは
税理士が暗号資産の相談を受けた際、受任の判断基準はありますか。
お客様から相談された際、最初の判断基準として確認すべきことは、DeFi(分散型金融)の利用有無です。お客様が「DeFiをやっている」と答えた時点で、完全に「黄色信号」です。次に取引件数を正確に把握し、5,000件以上や1万件を超えてくるような場合は、専門外の税理士の先生は安易に引き受けず、専門事務所へ送客することを強くお勧めします。また利益額についても、例えば、4億円規模で5,000件程度の取引といった高額な利益が出ている複雑なケースは、正確性の観点から絶対に受けない方がいいと考えます。暗号資産特化の僕自身でさえ、そういう案件は細心の注意を払います。複雑な取引を不慣れな税理士が計算して、結果的に税額が100万円もズレてしまったら、お客様からの信頼を完全に失うことになりますからね。
一般的な街の税理士事務所が対応するのは難しい領域なのですね。
先生の年齢やITリテラシーによって対応能力が大きく異なりますが、特に70代や80代の先生方にとっては、理解すること自体が非常に困難だと思います。暗号資産税務は相続税や国際課税と同じくらい新規参入が極めて難しいジャンルで、専門用語の理解や実務経験がないとそもそも対応ができないのです。
令和8年3月31日に改正所得税法が成立し、暗号資産の申告分離課税(税率20%)が導入されました。
実務はどう変わるのでしょうか。
多くの方が「税率が一律になってシンプルになる」と思っていますが、実際には非常に複雑化すると考えています。これまでは最大55%の課税率でしたが、改正後は国内取引所での取引に対して20%の分離課税が適用されるようになります。一方で、海外取引所の利用やマイニング、DeFiなどの取引には50%の総合課税が適用されたままになります。僕も最初はシンプルになると思っていましたが、実際には20%と50%の税率を完全に分けて考える必要があるので、むしろ実務はややこしくなりましたね。そのため、システムがないと対応が非常に困難になります。でも当事務所が開発した「クリプトーチ」なら、国内取引所の20%適用分とそれ以外の総合課税分を自動的に分離して正確に計算できます。この制度下において、我々のシステムは非常に強力な武器になります。
法人の消費税への影響はいかがでしょうか。
2028年の税制改正で、暗号資産が課税売上に含まれることになります。これまで暗号資産は課税売上割合の計算から除外されていましたが、改正後は個別対応方式などを適用する場合に税額が増える可能性があります。なので、本業の事業と並行して暗号資産を扱っている法人の場合、消費税の負担が重くなる可能性があります。暗号資産のみを専門に扱う法人の場合は影響を受けません。
分離課税を見据え、お客様には事前アナウンスとして、今年2026年の4月1日の段階で、2028年の税制改正について噛み砕いて説明し、事前アナウンスを行いました。お客様の多くはご自身でアクティブに取引されているので、比較的容易に理解していただけます。今のアドバイスとしては、改正前に適切な利益を計上して分離課税への移行に備えましょうと伝えています。例えば、昨年がマイナス200万で今年500万の利益が出た場合、今の総合課税なら相殺できますが、分離課税の改正後は500万全額に対して課税されます。だから、10万円や20万円程度でも構わないので、事前に意図的に利益を出して分散させることが非常に重要なんです。
AI時代を生き抜く
「権威性」の構築法と「掛け算」戦略
AI台頭の時代において、藤本先生は、税理士はどう生き残るべきだとお考えでしょうか。
単純な専門特化だけでは難しいと思います。知識が「オワコン化」する可能性がある中で、第三者からの「権威性」の構築が絶対に不可欠になります。AIやGoogleがその人物を専門家かどうか判断する際、出版社やテレビ局など信頼できる外部メディアからどう評価されているかを非常に重視します。ですから、メディアへの寄稿が専門性の構築において極めて重要です。ホームページを作って誰かが来るのをただ待っているだけでは、これからの営業競争では確実に負けてしまいますから。
権威性を高めるための具体的な方法にはどのようなものがありますか。
何も発信していない状態では、メディア掲載のきっかけ自体が生まれません。まずは掲載率が比較的高めであるネットメディアへの寄稿から始めるのをお勧めします。複数の記事に取り上げてもらえれば、それを見た人が仕事を依頼してくれる可能性が高まり、結果として権威性が上がります。まず記事を書いて実績を作り、次のステップに進むことが重要です。武器がないなら、YouTubeを始めるとか、Xで1万フォロワーを獲得するのも有効な手段ですね。Xの発信から直接的にお客様が来ることは多くないですが、間接的に自分の存在をアピールする補助材料として非常に機能しています。僕は特に「うなぎ」を食べた話題など、平和的なトピックスを使って税理士界隈で人脈を作っています。税理士と会計士の違いみたいな業界のセンシティブな話はすぐ炎上するので、徹底して避けるのが大事ですね。また、真面目な税法の情報ばかりだと実はバズりにくくて、分かりやすい情報やユーモアを交えた発信の方がインプレッション数は伸びます。Xで知り合った先生方と「リアルで会いましょう」と飲み会を開いたりして、そこで強固な人脈を構築しています。
若手税理士が専門分野を見つけるには、どうすればよいでしょうか。
駆け出しの先生には、まず「掛け算」から始めることをお勧めします。勤務税理士時代に培った経験と、新しいトレンドを組み合わせることで、誰もやっていないニッチな専門分野が作れます。例えば、勤務時代に建築関係や社会福祉法人などを多く扱っていたなら、そこに「AI」や「暗号資産」を掛け合わせてみるのです。また、「吹田市×暗号資産税務」といった地域的な掛け算も、Google検索で拾ってもらえる確率が格段に上がるので有効ですね。自分の持っているものを棚卸しして掛け算を考える戦略がとても大事です。
最後に、暗号資産特化の将来性について教えてください。

正直な話、市場の不確実性が高すぎるので、今から暗号資産税務のみを専門にすることはリスクが高すぎます。1~2年前なら強くお勧めしていたのですが…。2028年の分離課税導入で、国内取引所のみの簡単な案件は増えるでしょうが、我々が扱うような複雑な案件は減る可能性があります。国の方針で暗号資産が全て非課税にでもなったら、事務所の経営が根本から崩れてしまいますからね。「暗号資産とともに死ぬ」くらいの覚悟がないと厳しいので、リスク回避の観点からも、他の安定したビジネス分野を組み合わせた「2足のわらじ」が極めて重要です。これからの時代なら、AIの導入サポートまでカバーできるような税理士になることで、市場の激しい変動にも柔軟に対応できるはずです。税理士としての価値を再定義して、常に新しい技術と掛け合わせていく視点が求められていると強く感じています。
| プロフィール |
|---|
|
