九州から日本全国、そしてその先へー
DIGグループが描く、会計事務所の「リボーン」戦略

DIG 税理士法人 代表社員・公認会計士・税理士 小西 慎太郎 先生 × 株式会社ビズアップ総研 代表取締役・税理士 吉岡 高広
M&Aを機に踏み出した「社名変更」の舞台裏
吉岡 高広(以下吉岡):小西先生、本日はお忙しい中、誠にありがとうございます。前回お話を伺ったのが2023年7月ですから、約2年ぶりになりますね。この短期間でDIGグループとして新たなスタートを切られたということで、その経緯から詳しくお聞かせいただけますか。特に社名変更について、2025年5月1日から全面的に変更されたと伺いましたが、なぜこのタイミングだったのでしょうか。
小西 慎太郎 先生(以下小西):こちらこそ、今日はお時間をいただき、本当にありがとうございます。おっしゃる通り、この2年間はDIGグループにとって、まさに激動の時期でした。一番大きかったのは、去年、東京にオフィスを出したことと、税理士法人Besoさんとの合併です。これによって急に東京、大阪、奈良と拠点が増え、組織が予想以上に急速に拡大していきました。その中で、私自身が「うちの会社って、一体どんな存在なんだろう?」と、少し立ち止まって整理したいという気持ちが強く芽生えたのです。もともと私たちは「九州トップを目指す」という目標を掲げていたのですが、環境の変化や、社内の成長、そして本当に優秀なメンバーがどんどん増えてきた中で、「果たしてこの方向性が社内でしっかり共有されているのか?」「みんな、本当にそう思ってくれているのか?」という点を、きちんと明確な言葉にしておきたいと考え、社内でプロジェクトを立ち上げました。

吉岡:なるほど。そのプロジェクトは、何名くらいで進められたのですか。
小西:プロジェクトメンバーは10名くらいでした。全社員を対象にアンケートを実施したり、去年の8月頃からは「うちの会社らしさって何だろう?」「うちの会社の良いところってどこだと思う?」といったテーマで、外部ゲストを招いてワークショップなどを重ねてきました。
吉岡:そのプロセスを通じて、皆さんの目指す方向性が整理されていった、と。
小西:ええ。プロジェクトを進める中で、社員からは「私たちはもっと前向きに、まだまだ成長して、会社を伸ばし、社会に大きなインパクトを与えていきたい」という強い意欲が感じられました。同時に「今も人間関係は良いけれど、この良さを維持しながら、もっと会社を大きくしていきたい」という共通の思いが明確になったのです。こうした社内の思いがひとつにまとまったことで、「社名を変えて良いのではないか」という具体的な話が持ち上がったのが去年の10月から11月頃のことです。「これを機にリブランディングとして社名変更も合わせてやってしまおう」という形で動き出しました。
吉岡:Besoさんとの統合もその頃でしたよね。その統合が、今回の社名変更のきっかけのひとつにもなったのでしょうか。
小西:間違いなく、統合は深く考えるきっかけになりましたね。本格的に他の税理士法人さんと一緒になるのは今回が初めての経験でしたから。PMI(PostMergerIntegration:経営統合後の統合プロセス)をどう進めるか、いろいろと調べたり勉強したりする中で、「会社を一緒にするのはよく『結婚』とたとえられますが、実際には結婚というより『出産』、『新しい存在を一緒に生み出していく』、と捉えるべきだ」という考えに至ったのです。そこで、社内ではPMIのテーマとして「リボーン(生まれ変わり)」を掲げ、取り組みを進めていました。統合を通じて、この「リボーン」という概念を打ち出したことが社名変更にも少なからず影響しています。
「みんなの名前」としての「DIG」
ー属人化からの脱却と組織ブランドの確立
吉岡:「リボーン」の流れの中での名称変更だったのですね。「DIG」にはどのような意味があり、どのような想いが込められているのでしょうか。それから、決定した経緯について詳しくお聞かせください。
小西:「DIG」は「DreamIncubationGroup」の頭文字で、「ワクワクする未来を共に創り、次世代につなぐ」という当グループのミッションを表しています。また「dig」という動詞が持つ「掘る」「掘り下げる」という意味は、お客様の課題を深く理解し、根本的な解決策を見つけ出す私たちの姿勢を象徴しており、まさに私たちのミッションと経営スピリットが詰まった新社名です。この新社名の選定にあたっては、普段からWEB関係でお仕事をしているデザイナーさんとコピーライターの方々に専門家として入ってもらい、一緒に進めました。まず、社内で「どのような名前が良いか」という意識調査アンケートを実施し、そこで寄せられた声をベースに、コピーライターの方に多数の候補案を提案していただきました。それらの案をプロジェクトメンバーで議論を重ねて絞り込み、最終的に投票によって選ばれたのが「DIG」です。
吉岡:小西先生ご自身の強いこだわりというよりも、社内の意見を尊重されたのですね。
小西:現在の私たちの目標は「日本を代表する会計事務所グループとなる」ことです。ですから、私や役員だけの想いよりも、社員全員から愛され、親しまれる名前であるべきだと考えました。プロジェクトチームが中心となってこのプロセスを進めていったこと自体が、私たちが目指す組織像を体現しています。
吉岡:まさにその通りですね。社員が主体的に社名選定に関わることで、新たな社名に対する愛着が深まり、経営への参画意識も高まることでしょう。そして、「九州一」というかつての目標から、「日本を代表する税理士法人」へと進化されたことも、九州を基盤としつつも全国へと事業を拡大していく貴社のイメージと完全に合致しますね。
小西:はい。若いメンバーや新卒の社員もどんどん増えていますし、積極的に事業を展開していきたいという強い意欲があります。福岡だけに留まるのではなく、広域に展開することで、社員一人ひとりの成長機会も増え、より大きな目標に向かって邁進できる環境が生まれると考えています。実際、すでに東京に転勤で異動し、大活躍している人材もふたりいるのですよ。
吉岡:2年前と比較して、社員数も拠点数も増加し、貴社が捉える世界の広がりも大きく変化したと思います。もはや「福岡の事務所」という枠を超え、「日本を代表する」という意識へと明確に転換されているのですね。ちなみに「DIG」という名称に、何か決定的な決め手はありましたか。他にどんな候補が挙がっていたのでしょうか。
小西:全部で50個近くのアイデアを出していただいたのですが、覚えやすくて、響きが良いものが最終候補に残りました。また、由来や意味に「自分たちらしさ」があるかどうかも基準になっていたように思います。






156名の組織を支える盤石な体制:
人事・DX戦略の深化
吉岡:現在の貴社の立ち位置について、もう少し詳しくお聞かせください。WEBサイトでは3月時点で社員数156名とありましたが、4月、5月でさらに増えていますか。
小西:大幅な変動はありませんが、156名という数字は4月時点のものです。新卒は今年11名採用しました。弊社ではインターン生も多数受け入れています。早い学生だと大学3年生から来て、そのまま入社する頃には社歴が1年半くらいになっている人もいますよ。内定する前と後でインターンの目的や、やり方を変えています。内定するまでは本人の適性や能力を見る側面もありますが、どちらかというと会社を深く知ってもらう要素が強いですね。内定が決まってからは、もちろん内定辞退を防ぐ目的もありますが、実務を担当してもらっています。他のアルバイトをするくらいなら、弊社に来て実際に働いてもらった方が入社後もスムーズですから。
吉岡:それは非常に効率的ですね。さて、現在の貴社グループ全体の売上規模と、特に伸びているサービス分野についてお聞かせいただけますでしょうか。
小西:売上高は非公開なのですが、毎年30%前後の成長を目標とし、実際にここ数年それくらいの成長率を維持しています。特に成長が顕著なのは社労士部門です。社労士部門は税理士部門よりも後に設立しましたが、最近では従業員数200名から300名規模の企業様とのお取引が多くを占めており、お客様の規模においては税理士部門を上回っています。労務DX支援や、M&A後のPMI支援なども伸びていますね。
吉岡:DX支援サービスはいかがでしょうか。
小西:DX支援については、現在、再整理を進めている段階です。ツール導入型のDXはある程度一巡した感があると考えており、今後はAIの進化も踏まえ「AX(AIトランスフォーメーション)」という新たな文脈の中で提案を行っていく形になるでしょう。AIを活用するためには質の高いデータが不可欠であり、現状ではそのデータが不足しているケースが多い。そして、データがないのであればKintoneのようなツールを使ってデータを整備する必要があります。バックエンドのサービス自体は大きく変わりませんが、フロントエンドでは「AIを使いましょう」という提案を積極的に打ち出していきたいと考えています。
吉岡:AI活用に関して、具体的に試されているツールや、顧客への提案を考えているものはありますか。
小西:現在はさまざまなツールを試行錯誤している段階です。ChatGPTやClaude、GoogleのNotebookLMなど、複数のAIツールを並行して検証し、どの業務にどのツールを最適に組み込むことができるかを模索しています。
吉岡:組織体制について、前回はシステム担当者が3名、人事3名というお話でしたが、現状はいかがでしょうか。
小西:システム部門は増員しており、新卒を含め現在6名体制です。若干人数が多いようにも見えますが、AXといった新たな分野への取り組みや、対外的なサービス展開を見据えての増員です。人事部門も4名体制になりました。採用をメインで担当する者が2名、評価制度の運用や社内サーベイ、研修などを担当し、採用もマネジメントする課長が1名、そして部長が1名という構成です。
吉岡:人事部門で専任の担当者を置くことの重要性について、先生はどのようにお考えですか。正直、ピンとこない経営者もいるかもしれません。
小西:非常に重要だと考えています。ここがしっかり機能することで、優秀な人材がぐんと伸びるエンジンになり得ます。会社が100名を超えてくると評価制度が非常に重要になりますし、入社の段階からそういったことを仕切れる人材が必要不可欠です。本当に大変な業務ですよ。常に誤解や勘違いが生じやすく、トラブルとなりやすい領域ですから。
吉岡:評価制度について、小西先生ご自身が考える評価と、担当者が考える評価、あるいは社員が求める評価の間でズレが生じることもあるかと思いますが、軸や大切にしていることは何でしょう。
小西:最も重視しているのは「納得感の醸成」です。管理職以上には常々伝えているのですが、全員が100%納得する評価というのは現実的にあり得ません。限られた予算の中でどう配分するかという、ある種のプロセスですから。しかし、その限界の中でいかに公平に評価を行っているかということを伝えることはできます。そこの認識をすり合わせることが重要だと感じています。
吉岡:評価から昇給や昇進への反映は、どの程度まで先生が関わるのでしょうか。
小西:半期ごとに評価を行っているのですが、パフォーマンスがどうだったかという数値がメインの評価は、客観的な数値で決まるので原則的に私がタッチすることはありません。私が修正を加えることはありますが、そこは仕組みに任せています。しかし、等級を上げる、あるいは役職を付けるといった判断については、元々は私がひとりで決めていましたが、今は幹部会議、部長会議で議論して決めています。たとえば「会社の求める等級4の水準に、本当にその人が合っているか」といった点を横並びで見て、きちんと判断するようにしています。客観的な数字だけでなく、マネジメント力や人間性といった部分も評価に加わるため、複雑になりますね。
吉岡:なるほど。客観的な数値と、そうではない部分で、ひとりで判断するのではなく合議制も取り入れているのですね。
小西:そうです。良い時は誰も文句を言いませんが、厳しい時に下げるとなると、急に納得感が得られにくくなりますから。良い時に緩くしすぎると、下げる時に厳しくなる、というバランスも考慮しています。組織が60名体制になったあたりから、やはり距離感も生まれてきて、社員と直接話せる機会が減ってきますから、早めに状況を共有し、「このままだと少し物足りないと言われているよ」といったフィードバックを、部門長を通じて行うようにしています。
吉岡:経営企画部門も新設されたそうですね。その役割はどのようなものなのでしょうか。
小西:経営企画と称していますが、その役割は多岐にわたります。私やマネージャーが直接手が回らないKPI管理の業務や気付いた人が気付いたときに行うスタイルだった広報業務について、組織だって進めてくれています。今後はマーケティングも担ってもらう予定です。
吉岡:まさに「経営企画」の真髄を担う部署、ということですね。

7拠点体制でもブレない組織運営
属人化を防ぐ“提案型”マネジメント
吉岡:拠点が増えたことによるマネジメントの難しさや、それに対する対策についてお聞かせください。以前は福岡・北九州・那覇の3拠点だったと記憶していますが、現在は7拠点にまで拡大されたそうですね。小西先生おひとりで全てを把握するのは、さすがに難しいのではないでしょうか。
小西:やはり、実態が見えにくくなるというのはどうしても生じますね。そのため、私自身も定期的に各拠点に足を運びますし、私以外の幹部メンバーも定期的に訪問しています。また、入社したばかりのメンバーなど、現地メンバーだけでは対応しきれない場合には、オンラインでWEB会議を常時接続し、気軽に声がかけられるような環境を整備しています。そして、全社総会のような場では、全国のメンバーに集まってもらうなど、オンラインとオフラインをうまく使い分けてコミュニケーションを密に取るように工夫しています。
吉岡:そのような工夫が奏功し、拠点拡大が大きなネックにはなっていない、と。
小西:そうですね。ただ、まだ人数が少ない拠点が多いので、採用には課題を感じています。福岡ほどスムーズに採用が進んでいるわけではありません。拠点ごとの特色もあると思いますが、大阪もまだまだですし、これからもっと力を入れていかなければなりませんね。WEBサイトもリニューアルする予定なのですが、今後は「九州の会社」というイメージを薄め、全国展開していることを前面に出していくつもりです。
吉岡:Besoさんとの統合は、貴社にとって初の本格的な同業M&Aだったとのことですが、統合時の難しさや、逆に「これなら他のところもできるな」といった手応えはありましたか。
小西:初めての経験ではありましたが、結果的には、統合して本当に良かったと思っています。特に人事面ですね。私たちは「人」が何よりも大切な組織だと考えていますので、そこに認識のズレが起きないよう、人事部も含めてかなり意識的にコミュニケーションを取り、皆さんと話をしてきました。その結果、Besoのメンバーが非常にスムーズにオンボードしてくれたのは、私たちにとって大きな自信となりました。この経験を生かし、今後も機会があれば、積極的にM&Aを進めていきたいと考えています。
吉岡:若手の税理士法人がDIGグループに合流することには、大きな価値があると思います。今後、そういった動きは増えていくでしょうし、小西先生と一緒に、という方も増えそうですね。
小西:そのあたりはぜひ積極的に進めていきたいですね。特に採用面は年々厳しくなる傾向にあり、規模がある組織が強くなっていくということを肌で感じています。採用面で悩まれていたり、「もう少し仲間が欲しい」と考えている事務所さんも全国にたくさんいらっしゃると思いますので、そうした事務所さんをどんどん巻き込み、一緒に事業を拡大していけたら良いなと考えています。
吉岡:Besoさんの運営は、DIGグループの色に染まってきていますか。それとも、ある程度Besoさんのやり方を継続させている部分もあるのでしょうか。
小西:一部、Besoさん側の従来のやり方が残っている部分もありますが、いろいろと話をする中で、私たちが「うちはこういうふうにやっていますよ」と提案すると、「良いですね、そちらにします」という形で、自然とDIGのやり方を受け入れてもらっています。私たちは期限管理や品質管理のチェックフローなど、かなり堅固な仕組みを構築していますが、今回の経営統合に限らず中途入社してくる社員の中には、従来の属人化された管理体制に不安を感じていた方もいるのです。そのため、弊社の仕組みをしっかりお伝えすると、安心して私たちのやり方を選んでもらえることが多いですね。ある意味、従来の「人任せ」や「能力重視」のところが残っている事務所も多いので、その部分を仕組みでカバーできることが大きな強みになっています。
吉岡:指示や強制ではなく、提案を通じて、貴社の先進的なIT活用や仕組みを取り入れてもらう、というイメージですね。まさに、ITに精通した経営者が、うまく組織を包み込んでいく流れだと感じます。
小西:その通りです。そこはある意味、先行投資を兼ねているのですが、人事制度も然り、人事とシステムの部分というのは、一から構築するのは非常に労力がかかる部分だと考えています。ですから、「ある意味うちに乗っかりませんか」というのは、私たちが提供できる大きな価値だと考えています。
業界再編を見据え、
他士業も含めた広範なM&A戦略を推進
吉岡:なるほど。現在の貴社の組織はまさに投資フェーズにあると思いますが、利益に対する考え方はいかがですか。
小西:最低限、リスクヘッジをするための利益は必ず残しておかないといけないと思っています。たとえば、訴訟を起こされるような事態や、コロナ禍のような予期せぬパンデミックによって、急に売上が数か月間立たなくなる、といったこともあり得るでしょう。そうした事態に備え、内部留保はしっかり積んでおきたいと考えています。そして、中長期的には「事業価値を上げる」ことを非常に重視しています。将来的に私たち自身の再編といった話が出てくる可能性もゼロではありません。その際に、事業価値が高ければ、我々にとって有利な再編やアライアンスが可能となると思っています。逆に、事業価値が低ければ、いろいろ譲歩せざるを得ないですからね。
吉岡:2030年に300名体制という目標を掲げていらっしゃいましたが、スケールアップするための選択肢としては、他にどのようなものを考えていらっしゃいますか。
小西:M&Aは引き続き積極的に考えています。税理士事務所、税理士法人はもちろんのこと、社労士事務所、場合によっては司法書士事務所などの関連士業も主要なターゲットとなります。加えて、事業会社も選択肢としてあり得ると考えています。私たちは不動産仲介事業も行っていますし、人材紹介事業も手掛けているなど、多様な事業を展開しています。したがって、関連する業種を増やしていくことも選択肢として非常に有効だと考えています。もちろん、オーガニックな成長も並行して追求していきます。
吉岡:会計事務所の枠にとらわれず、ということですね。
小西:アメリカなどではファンドが会計業界に入ってくるケースも出てきています。もし、そういった潤沢な資金を持つ競合が現れた場合、私たち単独では太刀打ちできなくなる可能性も否定できません。そうなった時に、「私たちもどこかのグループと組むべきではないか」ということを、常に考える覚悟はしておかなければならないと思っています。
吉岡:常に単独ではなく、戦略的なアライアンスを意識しながら経営されているのですね。
小西:単独で自由に経営していきたい気持ちもなくはないのですが、それ以上に「会社が生き残るために、どこと組むのが最適なのか」という視点が重要です。最近は、銀行と私たちの業務の差が、税務申告と融資以外では、ほぼなくなってきていると感じています。銀行側がこちら(士業)の領域に入ってくる、といった話もあり得るとすれば、資金力で銀行には勝てませんから。もしそうなった時に、むしろ早めにどこか良いところと組むということを考えなければならないでしょう。
コミュニケーションと組織文化
人を「サポート」する仕組み
吉岡:組織が100名、150名規模になってくると、やはりターニングポイントがあると思います。以前も「雰囲気が変わってきた」というお話がありましたが、社員とのコミュニケーションや社内エンゲージメントについて、どのように意識されていますか。
小西:人員が110名を超えてきた2023年の10月から、毎月「全体朝礼」を実施しています。30分だけですが、私が直接全社員に話をするのです。以前は四半期に1回だけだったのですが、それを毎月実施するようにしました。そこで「目安箱」のような形で、私以外は誰から来たか分からない匿名質問システムを導入し、寄せられた質問にはきちんと答えるようにしています。社員とのコミュニケーション機会をどう作るか、というのは非常に気を使っている部分ですね。
吉岡:DX戦略について、大きく変わった点はありますか。
小西:ベースのサービスは大きくは変わっていませんが、現在、鹿児島の社労士法人であるHRトラストさんなど、一部の士業事務所と業務提携という形で、一緒にDXをお手伝いしたり、社内にノウハウを提供することを始めています。Kintone関連で言うと、弊社ではアプリを200ほど内製した経緯があり、十分にノウハウがありますので、このあたりを提供していきたいと考えています。さらに先ほどのAI活用に関して、Kintone上でもAIを動かす仕組みが出てきているので、「Kintoneに溜めた情報をさまざまな分析に活用できる状態を作りましょう」という提案を行っていく予定です。
吉岡:その提案は、お客様だけでなく同業にも行っていかれるのですか。
小西:どちらにも提案できます。たとえば、弊社は意外と顧問先の顧客データ周りの整備が弱かったのです。もちろん会社の住所などは全てありますが、純資産がいくらで、売上高がいくらで、社長の給料がいくらで、といった情報がパッと分析できるツールが社内にありませんでした。件数が少ない時は良かったのですが、増えてくると「所得が特に高い方に提案しよう」と思っても、どなたが所得が高いのか分からない。そのような課題がありました。そうした部分をデータ化しようということで、今進めているのが事業概況書を、AI-OCR等を活用して半自動で作る、というものです。やってみて面白かったのが、顧問先データをGoogleマップにマッピングしてみると、名古屋には1件もないな、とか、東北より北はやはりないな、とか、まさか西表島にいたとは、といった発見があるんですよ(笑)。
吉岡:会計事務所だからこそ持てるデータを活用して、新たな収益に結びつけるのは大きな強みになりますよね。
小西:はい。弊社はそのあたりが弱かったので、もしニーズがあれば、同業の方々にも提案できたら良いなと思っています。それから、BPO系のサービスも充実させていく予定です。ただ、人手不足の時代に、人がかかるBPOを無差別に受けるのは正直どうかな、という部分もあるので、そこはツールやAIの活用でレバレッジが効く、そのようなBPOができたら良いなと考えています。特に東京、大阪で案件を増やし、福岡にいる多くの人間で回す、という体制ができてきたので、それが可能になってきました。
吉岡:小西先生の「バックがフロントをエンパワーする」というお考えが随所に表れていますね。属人性に依存せず、フロントの力を最大化するためにバックを強化されている点が非常に印象的です。
小西:フロントのコミュニケーション能力や、社長に気に入られる力というのは、もちろんある程度は教育できると思いますが、半分は個人の適性の有無で決まってしまうと思うんです。だから、そこを伸ばしてスケールするのは正直難しい。そういう意味で、採用においては、特にフロント要員はかなり厳しく「適性」を見ています。入口さえ間違えず、ある意味コミュニケーションさえ取れれば、あとは後ろで構えている仕組みでなんとかなる時代になってきていると感じています。
吉岡:営業の価値が下がってきているという話も聞きます。AIで出たことを笑顔で話せる人の方が、相手には好かれそうだと。
小西:そうですね。たとえば顧問先との面談準備も、AIで5分、10分でできるようになったら、今までより格段に時間に余裕ができます。そうすれば、能力を使うのは「コミュニケーション」という部分だけになるわけです。

吉岡:前回のインタビューでは「人を信用しすぎない」という言葉がありましたが、それは「人はミスをするもの」という前提で、それを防ぐ仕組みを構築するということなのですね。
小西:ええ、そうです。私自身も自分のことを信用していませんから(笑)。自分が細かく覚えていられるわけがないし、ミスしないわけがないと思っています。私ですらミスをするのですから、人間誰でもミスをするものだと考えています。だからこそ、社員には嫌な思いをしてほしくないし、失敗してほしくない。そのために、仕組みで人間をサポートするのです。それが、社員が心地よく働いたり、生き生きと働けたりすることにつながれば良いなと。
吉岡:「楽して、きちんと稼げる」組織。その哲学が、これからの会計業界の勝ちパターンになっていくのかもしれませんね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
| プロフィール |
|---|
|
