歯科医院が直面する“労務倒産”リスク
いま会計事務所に求められる経営支援とは?

いま、歯科医院を取り巻く経営環境は大きな転換期を迎えています。人材の確保が一段と難しくなり、働き方も多様化するなかで、これまで成果を上げてきた成功モデルですら、もはや安定的な経営を保証するものではなくなってしまいました。こうした中、単に売上を伸ばすだけでなく、収益性を高め、持続可能な経営基盤を築いていくことが歯科医院の重要な課題となっており、会計事務所に求められる役割も大きく変化しています。そこで、歯科コンサルタントの木村泰久先生に、歯科医院経営の現状の問題点や、会計事務所に求められる役割などについて、アドバイスも含めてお話を伺いました。

トップコンサルから見た「歯科医院の経営環境」

――歯科医院経営の現状について詳しく教えてください。東京商工リサーチの調査によると、2025年に発生した歯科関連(歯科医院+歯科技巧所)の倒産は39件で、これは過去最高ということです。また、帝国データバンクの調査でも、歯科医院の倒産は25件で過去2番目に多い件数でした。

各所で歯科医院の倒産件数が報じられていますが、受け止め方には注意が必要です。全国に約68,000件ある歯科医院のボリュームからすれば、倒産件数は統計的には”誤差”の範囲とも言えます。歯科医院の経営には診療報酬というベースの収入が制度的に保証されているため、倒産件数だけで経営環境の厳しさを測ることはできません。

ただ、一方でショッキングなデータもあります。政府が取りまとめている医療法人経営情報データベース(MCDB)によると、2024年度には歯科診療所の41.4%が赤字だったことがわかっています。したがって、倒産件数として表れてはいないものの、実態として厳しい局面が続いていることは間違いありません。

――経営の厳しさが増しているのはなぜでしょうか。

大きく2つあります。ひとつ目は、人件費の高騰です。歯科医院の倒産というと「患者が来ない」ことをイメージされる方が多いかもしれませんが、近年は人件費が経営を圧迫して資金繰りが立ち行かなくなる、いわゆる”労務倒産”や”人手不足倒産”が急増しています。その一因が、勤務医や歯科衛生士の人件費の高騰です。とくに勤務医の給与はこのところ急激に上昇しており、臨床研修を終えたばかりの1年目のドクターでも、初任給が月40万円を超えるケースが珍しくありません。それから、採用エージェントへの手数料など採用コストの高騰も、経営悪化に拍車をかけています。採用コストはいわば中間コストであり、本来であれば必要のない費用です。医療機関でこのコストが経営を圧迫しているという現状は、非常に残念と言わざるを得ません。

ふたつ目の要因は、診療報酬の構造的な問題です。従来、歯科医院は虫歯の患者に対して「削って埋める」治療を中心に行ってきました。しかしこの治療に対する診療報酬は、20年以上にわたって据え置かれたままです。近年、診療報酬全体としてはプラス改定が続いていますが、その恩恵を受けているのは主に「予防」の領域であり、処置系の点数には反映されていません。一方、人件費や材料費といったコストはこの20年間で大きく上昇しました。つまり、予防中心の診療モデルへ移行できず、従来どおり「削って埋める」治療を続けている歯科医院は、コスト上昇分を診療報酬で回収できない構造に陥っているのです。

イラン情勢で医療資材が不足中 在庫確保に走る医院も

――イラン情勢の影響はいかがでしょうか。

現場レベルでは、すでに資材・消耗品の供給不足という形で影響が出始めています。

わかりやすい例がグローブです。ラテックス製グローブは不足が続いており、サイズやメーカーが不揃いのまま使用せざるを得ない医院が増えています。患者1人あたり1枚に制限したり、滅菌・清掃には医療用以外のグローブで代用するケースも出てきており、衛生管理の面で懸念が生じています。

また、麻酔薬(オーラ注・エピリド)も入荷しづらい状況が続いており、節約しながら対応している医院が少なくありません。エタノールやガーゼ、アルコール綿といった「これがなければ診療ができない」基本資材についても、先行して在庫を確保する動きが広がっています。

歯科材料に目を向けると、コンポジットレジンやレジンセメントの供給不安も出てきました。将来的な入荷減少を見越して、すでに使用量を絞り始めている医院もあります。それから、経営への直接的な打撃という意味では、ライオン社製の子ども用歯磨き粉の入荷停止による物販収入の減少も見逃せません。規模は小さくとも、積み重なれば経営に響いてきます。

イラン情勢に起因する歯科医院の資材・消耗品不足の状況

・ラテックス製グローブが不足。サイズ・メーカー不揃いのまま使用する医院も。
・滅菌パックの入荷が減少。滅菌シートへ切り替える医院が増加しており、衛生管理への影響が懸念される
・コンポジットレジン(CR)・レジンセメントが供給不安。使用量を節約する医院が増加している。
・マスクの使用を「1日1枚」に制限する医院が増加。
・麻酔薬(オーラ注・エピリド)が入荷困難に。各医院が節約しながら対応している。
・エタノール・紙トレー・紙コップなど衛生補助資材も入手困難。先行確保の動きが広がっている。
・アルコール綿(ワッテ)、ガーゼも在庫を先行確保する医院が増加中。
・ライオン社製の子ども用歯磨き粉が入荷停止。物販収入に影響する懸念も。

――影響は多岐にわたっているようですね。長期化しないことを祈るばかりです。さて、ここまで伺った限り、予防型への移行が経営改善の重要なポイントだと思いますが、これが進まない理由はなぜですか。

予防治療は、ドクターが担う必要はありません。歯科衛生士が行うことが認められており、もちろん診療報酬もいただけます。ですから、ドクターよりも人件費の安い衛生士に予防を任せ、ドクターは治療に集中するのが、予防型の基本的な考え方であり、収益構造を改善するうえでの合理的なモデルです。実際、衛生士の人数が増えるほど、ユニット1台あたりの医業収益が大きくなることがわかっています。衛生士が1人の医院に比べ、5人以上いる医院では医業収益が84%高いというデータもあります。衛生士を増やすことの経営的な意義は明らかです。

しかし現実には、歯科衛生士がゼロの医院が全国の約4割を占めています。問題は採用コストと賃金水準です。東京23区の求人データを見ると、常勤の歯科衛生士の募集賃金は30万円以上が全体の4分の3を占めており、件数として最も多いのが30万円台、次いで33万円台となっています。さらに、年間休日120日・駅近・家賃補助・奨学金返済補助といった待遇面も求められる。予防型に移行したくても、その要となる衛生士を採用・維持するコストが経営を圧迫するという、構造的なジレンマがあるのです。

「ユニット台数」による収入格差が顕著に

――これだけ各種コストが高騰すると、流行りのビジネスモデルでも上手くいかないものが出て来そうですね。

ええ、これまで代表的な成功モデルとされてきた「インプラントセンター」や「駅前の矯正歯科」は軒並み採算が悪化しており、撤退に追い込まれるクリニックも出てきています。たとえば、2021年に年間売上86億円を記録し「日本一の歯科医院」と称された「東京プラス歯科矯正歯科(医療法人社団友伸會)」は、わずか2年後の2023年に倒産しました。同法人はアライナー矯正を主力商品とし、契約単価は70〜80万円と高額でしたが、勤務医の給与が高騰したことや、駅前の好立地で家賃が高く、さらに広告費用も膨らみ続けたことで収益性を確保できなかったと見られています。

それから、分院を展開して苦戦を強いられている歯科医院も増えています。分院長や勤務医の高額な給与が重くのしかかっており、売上の大部分が人件費で消えてしまうため、規模が大きいにもかかわらず利益がほとんど残らないというケースが少なくありません。実際、秋田県を拠点に関東・関西圏まで13院を展開していた「みちのく政宗デンタルクリニック(医療法人幸歯ノ会)が、2022年に負債総額9億円を抱えて倒産しました。2021年8月期の売上は13医院合計で約8億円に達していましたが、人件費負担の増大や分院展開に伴う固定費の膨張、広告費などの支出増加によってキャッシュフローが悪化。売上が立っているにも関わらず、資金繰りに行き詰まった「利益なき拡大」の典型例といえるでしょう。

――多くの問題が歯科医院の成長を大きく阻害している状況ですが、改善の見込みはあるのですか。

ひとつの明確な指標として、ユニット台数があります。公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会の「歯科経営指標」を見ると、ユニット台数が増えるほど年間医業収益が大きく伸びることが明らかになっています。ユニット6台の医院の年間医業収益の中央値は、2018年は106,698千円でしたが、2024年は173,058千円で、実に62%も増加しました。

実際、業界全体でも大型化の流れは着実に進んでいます。同データによると、2018年にはユニット3台以下が全体の44.8%を占めていましたが、2024年には34.8%まで減少し、ユニット6台以上の医院は10.2%から19.6%へと倍増しました。

これから開業・移転・増床を検討するなら、ユニット6台以上を確保できる物件を選ぶことがひとつの目安になります。さらに、駅から徒歩5分以内、駐車場がユニット台数以上確保できる、近隣に小中学校がある——こうした立地条件が、集患だけでなく歯科衛生士の採用にも直結します。厳しい環境の中でも、戦略的な立地と規模の選択によって、成長の可能性は十分にあると考えています。

2026年診療報酬改定の影響

――今年は診療報酬の改定がありましたが、その影響はいかがでしょうか。

令和8年度の改定は、表向きは+3.09%のプラス改定ですが、その内訳を見ると、賃上げ分・物価対応分・食費光熱費分などを合わせた79.6%が、いわば「使途指定」の財源です。これらを除いた正味の改定率はわずか+0.25%にすぎません。しかも、実態としてはマイナス改定とみるべき側面があります。再診時を例にとると、歯科疾患管理料の減点を考慮すれば、改定前の158点から150点へと▲8点の減少になります。ベースアップ評価料や物価対応の加算をきちんと算定しなければ、今回の改定の恩恵をほとんど受けられないのです。

そのベースアップ評価料ですが、国がスタッフの賃上げ原資を負担するという前代未聞の施策であるにもかかわらず、歯科医院での算定率は4割にとどまっています。算定できる対象も今回の改定で事務スタッフなどを含む「当該医療機関に勤務する職員」全般に拡大され、以前より算定しやすくなりました。さらに、前年から継続して賃上げを行っている医院には上乗せの点数が設定されており、令和9年6月以降は初診時52点、再診時10点と段階的に引き上げられていきます。早くから取り組んできた医院ほど有利になる仕組みです。それでも6割の医院が算定していないというのは、非常にもったいない話です。今回の改定で恩恵を受けられるか否かは、この加算を算定しているかどうかで大きく変わってきます。

ドクターが会計事務所に求めていることとは?

――ここまで、歯科医院の経営が非常に難しくなっているということでしたが、そんな中で、会計事務所にはどのような支援が求められているのでしょうか。

売上が伸びていても、思ったほど資金が残らないという悩みを抱えるドクターは少なくありません。そのため、会計事務所には「正しい申告をする」だけでなく、資金繰りや経営判断の支援が期待されています。ただ、残念ながら、歯科医院の経営に詳しい会計事務所が少ないのが現実です。ユニット数と売上・利益の関係、さらにはそれに見合った人員配置や給与バランスといった、歯科医院特有の経営構造を踏まえた視点が欠けていると、アドバイスの内容も表面的になりがちです。こうした理解の浅さは、現場の実態とのズレを生み、ドクターとの信頼関係を築くうえで大きな障壁になります。それから、私のクライアントの中には「節税についてアドバイスをしてくれない」と不満を抱えているドクターが少なくありません。期末を迎える数か月前から節税の提案を行ってくれる会計事務所は意外と少ないようで、それができる事務所は非常に高く評価されています。

――会計事務所にとって当たり前に求められる役割が意外とできていないならば、それを“やり切る”だけでもアドバンテージになりそうですね。

そうですね。いま会計事務所に本当に期待されているのは、「経営をともに考えてくれる存在」であることです。単に数字を処理するだけでなく、日々の判断や悩みに寄り添いながら、ドクターと一緒に医院の未来を考える姿勢が、これからの時代に選ばれる会計事務所の条件となってくるのではないでしょうか。

――いまお話しいただいた以外に、ドクターから喜ばれるサービスがあればぜひ教えてください。

私がお勧めしたいのは、競合分析のレポートです。

競合分析は、経営改善や集患戦略の立案といった場面では大変有効で、医院の現状を客観的に見直し、地域の中でのポジションを再確認する大切なプロセスです。最近は、人口動態データ、たとえば年齢構成や世帯数、昼間・夜間人口などの情報をもとに、競合医院の患者数や売上などをシミュレーションしてくれるソフトがありますが、個人的にはこれだけでは不十分だと思います。定性的なデータに加え、競合医院のホームページを確認し、診療内容や価格帯、スタッフ数、ドクターの専門分野などを調べる。またGoogleストリートビューを活用して、医院の立地条件や駐車場の有無、周辺の生活動線を確認する。こうした調査によって得られる情報は、数字では見えない“現場感”を補ってくれます。「橋を渡った先は集患が弱い」「駅前でも駐車場がないと患者が来ない」といった現地ならではの知見は、非常に実用的です。

さらに、実際の現場では、受付で患者の住所を手作業で集計し、どのエリアから来ているかを地図にプロットするといったアナログな方法が今なお有効です。こうしたデータは、診療圏の可視化や、エリアごとの集患傾向の分析に役立ちます。このように、競合分析とは、統計データと現場で得られる情報の両方を活用して、自院の立ち位置を見極め、戦略を立てるための重要な取り組みです。「この地域で勝つにはこの戦略でいきましょう」といった診療方針、マーケティング、人材戦略が一体となった提案こそが、医院にとって何より心強いサポートになります。生きた競合分析はまさに“武器”になるので、ドクターはとても喜んでくださいますよ。

今年も「歯科経営コンサルタント養成講座」の開催が決定!

――さて、木村先生は7月22日からスタートする「歯科経営コンサルタント養成講座」で講師を務めていただくことになりました。これはどのような講座でしょうか。

本日ご説明したように、現代の歯科医院はさまざまな経営課題に直面しており、そのような中で成功するためには、将来の歯科医療ニーズも踏まえた緻密な戦略が必要です。しかし、ドクターが日々の治療と経営を両立することは困難ですから、適切なアドバイスができる歯科医院経営のスペシャリストが求められています。

この「歯科経営コンサルタント養成講座」は、クライアントを成功医院に導くための専門知識や技術がマスターできる、本格的なスペシャリスト育成プログラムです。具体的には、歯科医院の増患対策や自費率アップの方法、経営戦略の立案など、私が現場で実践しているありとあらゆるコンサルティング技術をお伝えします。先ほどお話しした競合分析についても、私と一緒になって実際に作ってみる時間を設ける予定です。また、今回の受講者の皆様には、私のクライアント医院を見学していただき、全体ミーティングやスタッフの仕事ぶり、朝礼の様子など、成功医院の雰囲気を実際にご覧いただける機会を用意する予定です。

本当に貴重な機会ですので、ご期待いただければと思います。

――最後になりますが、読者の方へメッセージをお願いいたします。

今回の講座は、まさに私の活動の集大成となるものです。これまで培ってきた、経営学のエビデンスに基づく確かな方法論を多くの方にお伝えしたいと思っておりますので、歯科医院に対して高付加価値なコンサルティングを提供したいとお考えの事務所様は、ぜひ受講をご検討ください。

――本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。

歯科経営コンサルタント養成講座
セミナーのご案内 7月22日(水)開講(全6回)

歯科経営コンサルタント養成講座

物価高騰、人件費の上昇、そして深刻な人材不足。歯科医院の経営環境はここ数年で大きく変わりました。こうした構造変化の中で、ドクターが求めるのは数字の管理にとどまらない、経営にまで踏み込んで一緒に考えてくれるパートナーです。この講座は、会計事務所が“月次+α”で提供できるテーマだけに特化し、その技術を集中的に学習する全20時間の実践研修です。

木村泰久 先生

株式会社M&D 医業経営研究所 代表取締役
認定登録医業経営コンサルタント。公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会 元理事、歯科経営専門委員会委員長、調査企画提言委員長。 日本歯科医師会『歯科医療白書2008、2013』執筆委員。日本歯科医学会回新歯科医療提供検討委員会委員。著書に『成功する歯科経営戦略的リニューアルマニュアル』『歯科医院コンサルティングマニュアル(共著)』『成功する歯科経営最強のマーケティング』『患者を呼び込む医院看板のつくりかた』『病医院キャッシュフロー経営成功の秘訣60』、『医療経営白書2007、2006』などがある。

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