「挨拶しない部下」の本当の理由とは? 業種・階層問わず必須の「問題解決力」で事務所にプラスのスパイラルを生み出す方法

日々の業務で「また同じ問題が起きている」「部下が主体的に動かない」と感じることはありませんか。それは個人ではなく、組織における「問題解決力」が不足しているサインかもしれません。
今回は、多くの企業・組織で「問題解決力向上研修」を担当する宮本いずみ講師に、その本質を伺いました。
宮本 いずみ
人材育成コンサルティング サプロース 代表 ジャパンアクションクラブ養成所(千葉真一氏創設)入所をきっかけに俳優の活動を開始し、舞台やドラマなどに出演。その後、練習中の怪我をきっかけに転職しセゾングループに入社するも、阪神淡路大震災にて事業所が閉鎖、その後父親の出身地である鳥取県に拠点を移す。1998年から人材育成の仕事をスタートし、現在は地元のみならずリモート・オンラインを活用し全国の受講者の方々に向けて研修を実施中。保有資格は、(一財)生涯学習開発財団認定コーチ、国家資格キャリアコンサルタント、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種。
― はじめに、「問題解決力」とは具体的にどういうスキルなのでしょうか?
一言でいえば、「そもそも何が原因なのか」を深掘りし、真因に迫る力です。仕事では大小さまざまな問題が次々と起こりますが、それをゼロにすることはできません。だからこそ、業種・階層を問わず、全ビジネスパーソンが身につけるべき“世界共通の王道スキル”といわれています。
研修でよく紹介する事例に、「社員が挨拶をしない」という企業からの相談、通称「挨拶案件」があります。「社員が挨拶をしない」理由には、2つのパターンがあります。
一つはテクニックを知らないだけの場合。「どのタイミングで声をかければいいかわからない」という若手には、「自動ドアが開いて一歩入られた、今の瞬間だよ」と具体的に指導すれば解決します。しかし、多くの場合、原因はテクニックではありません。「職場環境への不満」や「評価に満足していない」という心理的要因が背景にあるケースが非常に多いのです。つまり「挨拶ができていない」という表面的な問題にとどまらず、背後にある真因にたどり着けるかが、問題解決力なのです。
― 問題解決力は「能力」ではなく「スキル」なのですか?
その通りです。「才能」ではなく「スキル」なので、難易度による個人差はありますが、プロセスを理解すれば誰でも習得できます。“王道のプロセス”は次の3つです。
Where(どこで) …問題の発生地点=真因を特定
Why(なぜ) …原因を多角的に分析
How(どうやって) …解決策を立案し実行
この流れはシンプルですが、実践し続けるのは簡単ではありません。なお、「Why」の分析では、全データをやみくもに調べる必要はありません。例えば家電ショップで売上が落ちたという問題の場合、レジ担当者に「体感として、どの商品が出なくなったと感じる?」と聞く方が早く真因にたどり着けることもあります。そして最も重要なのは、問題解決は必ず「トライアンドエラー」が前提であること。「これをやれば絶対OK」というものはありません。やって、検証して、修正する。だからこそ、難しいからと問題を棚上げすることは、最も避けるべき行動です。
― 研修ではどのように「王道プロセス」を身につけさせるのですか?
新人であっても管理職であっても、基本の流れは同じです。まずは、現状把握、原因分析、対策立案、実行、検証という基本のプロセスを学び、その後、実際の業務課題を題材にしたケーススタディ演習で徹底的に使いこなせるようにします。特に演習で重視しているのは、決めつけを壊すことです。経験がある人ほど、バイアスがかかりがちで、「挨拶ができない=挨拶を知らない」と過去の成功体験で安易に判断しがちです。
演習では「内部要因/外部要因」「地域別/年代別」など、さまざまな切り口で問題の全体像を洗い出します。この「多角的な切り分け」の力は、最初は個人差が出るものの訓練で必ず伸びるものです。研修は「自分の視野がいかに狭かったか」を自覚する絶好の場なのです。
― 導入企業で見られた変化の事例はありますか?
十数年継続して研修を行っている企業での例です。
当初からポテンシャルを感じていた社員の方がいらっしゃったのですが、問題解決のプロセスを知らず、成果につながらない時期がありました。研修後、その方は営業現場で大小さまざまな問題解決に取り組み、成果の精度が上がったことで自信がつきました。自信がつくとお客様への向き合い方も変わり、仕事はよりスムーズに。結果、「自信のある人から買いたい」という顧客心理も働き、評価が高まりました。さらに大きかったのは、本人に結果が出るまで諦めないという姿勢が身についたこと。トライアンドエラーを恐れずにやり抜く武器として問題解決力のプロセスを使いこなすようになったのです。
― 個人の変化は、組織全体にどう影響したのでしょうか?
その方の実践がロールモデルとなり、若手や新人の成長スピードが別部門と比べて格段に上がりました。一人の変化が点から線になり、問題を放置しないという姿勢が組織全体に広がっていく。これがまさにプラスのスパイラルです。最終的に、「皆がご機嫌で働ける」組織文化が醸成されました。個人のスキルアップが、組織文化をも変える好例です。
― 明日から現場で実践できる「問題解決力の鍛え方」はありますか?
最も重要なのは、「大局観」を持つこと。つまり、「自分の仕事の目的」と「全体像」を理解する意識です。
例として「請求書の作成」であれば、「報酬を受け取る」「経理が入金精査をする」「期限内入金を促す」など、全体像を理解したうえで、目的を把握して請求書作成を行うことが必要です。自分が「全体の中のどの部分を担っているか」が見えると、例えば「ここまでは自分の守備範囲だが、ここからは専門家に相談すべきだ」といった判断も早くなり、主体性が自然と生まれます。
― 「部下が主体的に動かない」という悩みは、どう捉えれば良いでしょうか?
実は、原因は部下ではなく「指示を出す側(上司)」にあることが非常に多いのです。上司が目的や全体像を伝えず「これだけやって」と作業指示だけを渡すと、部下は主体的に動けません。「この仕事は何のためにあるか」「全体の中でどの位置か」をセットで伝えることが大切です。
改善が必要な場合は、「1週間スパンで振り返ろう」と上司が寄り添い、部下側も「1週間後に自分から報告する」という責任を持つ。このように上司が部下のチャレンジを後押しすることで、組織の問題解決力は大きく高まります。 問題解決力とは、単なるスキルではなく、組織文化そのものを形づくる土台です。真因を探り、トライアンドエラーを続け、大局観を持つ――この積み重ねが「問題を放置しない組織」をつくり、個人と組織の双方にプラスのスパイラルをもたらします。研修は、その第一歩を踏み出す絶好の機会となるでしょう。
