訪問介護における外国人材活用の最前線
<小濱道博先生の介護特化塾 vol.09>

本コラムでは、介護経営コンサルタントとして、日本トップクラスの小濱道博先生が、介護業界の「知って得する」トピックスを取り上げて解説します。会計事務所の皆様に、介護マーケットの魅力・重要性のほか、介護特化を進めるためのヒントや戦略などを毎回お届けします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.144(2025.10)に掲載されたものです。
小濱介護経営事務所 代表
C-SR(一社)介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
小濱 道博 先生
2025年4月、訪問介護分野において外国人技能実習生と特定技能人材の受け入れが解禁された。これは、深刻な人材不足が慢性化する訪問介護にとっては大きな転機となった。
実際の事例として、沖縄県の有料老人ホーム併設型事業者では制度解禁を契機に技能実習生を訪問介護に移行させた。同事業者はすでにデイサービスで4人の実習生を受け入れ、1年以上の経験を積ませていたため要件を満たしていた。そのうち2人を訪問介護へ配置転換し、利用者が同一敷地内にいるため移動負担が少なく、さらに施設職員との協力体制が機能していたことから導入は円滑であった。このような併設型モデルは訪問介護における外国人材活用に適合する最も現実的な形である。
一方、千葉県の法人では、複数拠点を活かした循環的な育成を導入している。技能実習生をまずデイサービスに配置し、1年間の経験を積ませた後に訪問介護へ移行させる方式である。デイサービスにおける集団指導や生活援助の経験を基盤とし、個別対応が求められる訪問介護に進ませる流れは、規模を持つ法人にとっては有効な適応策といえる。
しかし、課題も浮き彫りになった。まず、訪問介護に従事するためには介護職員初任者研修修了と1年以上の実務経験が必要であり、加えて国際厚生事業団による適合確認申請を経る必要がある。さらに、調理支援への対応は文化的背景に左右されやすく、日本独特の食材や味付けの理解には時間と研修が欠かせない。宗教的制約を持つ場合には調理内容の調整も必要であり、利用者満足度に直結するため課題は軽視できない。
移動手段の問題もある。都市部では自転車で対応可能だが、地方では自動車が必須である。外国人材は来日時に免許を持たないことが多く、日本での取得には時間と費用がかかる。特にミャンマー人材は国際運転免許制度の対象外であり、日本での免許取得が難しい。
住宅確保の困難さも定着を阻む大きな要因である。都市部では外国人という理由で入居を断られる事例が依然として存在し、地方では住宅そのものの不足が課題となる。法人契約であっても拒否されることが多く、小規模法人にとっては深刻な負担となる。
また、送り出し国によって訪問介護への適合性に差がある。フィリピンは英語力やICT親和性、ホスピタリティ文化から最も高く評価されているが、ベトナムやインドネシア、ミャンマーはそれぞれ宗教的制約や借金問題、給与送金制度などの課題を抱える。これらの特性を理解した上で採用戦略を構築する必要がある。
訪問介護における外国人材の活用は、単なる労働力の補填ではなく、将来的に介護福祉士として成長する人材を育てる過程でもある。その前提を踏まえ、制度的制約や生活基盤の課題を一つずつ解消していくことが不可欠である。

小濱 道博
こはま・みちひろ/介護経営コンサルタントとして、全国各地で介護事業全般の経営支援、コンプライアンス支援に 特化した活動を行う。2009年にC-MAS 介護事業経営研究会の立ち上げに関与。 税理士、社労士など200を超す専門士業事務所との全国ネットワーク網を構築し、 国内全域の介護事業経営者へのリアルタイムな情報提供と介護事業経営の支援活動を行う。 介護経営セミナーの講演実績は、全国で年間300件以上。 書籍の大部分はAmazonの介護書籍で第一位を獲得。