税理士業界が注目した <気になる税務トピックVol.39>

『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.143(2025.9)に掲載されたものです。


白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生

社労士の雑所得認定

副業としての社会保険労務士業務の赤字が事業所得でなく雑所得と判断され、損益通算を否定された事案は、高裁でも納税者敗訴となった(週刊T&Amaster No.1083 2025年7月21日)。

東京高裁は、3社からの給与所得の大半を補填に費やさなければ継続できないほどの損失が5年連続で計上されていたことや、反復継続して遂行する意思や社会的地位が客観的に認め難いことを理由に、事業所得該当性を否定した(令和7年7月10日判決)。

わずかな売上はあったが、調査中に取引先を明示せず、経費は交際費・広告宣伝費・通信費が中心で接待内容も不明確だったという。本業縮小で経費のみが残り副業と所得が逆転する例はあるが、その類型なのか。それとも当初から節税狙いだったのか。事業の実態を示す証拠をどの程度準備していたのか、そもそも残すことができない実態だったのか。

PGM事件は高裁判決でも国敗訴

PGM事件は、グループ内の休眠子会社の青色欠損金を2段階のテクニカルな合併で承継した処理が否認され争われたもの。ゴルフ場運営グループで、納税者は休眠会社と完全支配関係がなく、そのままでは完全支配要件による適格合併ができないため、事業実態のある会社を使った2段階の合併を実施した。

具体的には、休眠会社を完全支配下の別会社と適格合併し(事業の引継・継続要件が不要)、その後に納税者がその別会社(事業あり)と50%超の支配要件による適格合併を行い、結果的に休眠会社の青色欠損金58億円を引き継いだ。

これに対し、国は組織再編成の行為計算否認を適用して争いとなった。争点は、完全支配要件の合併に事業の承継・継続が必要か否かであったが、東京地裁は必要ないと判断し納税者勝訴。東京高裁も7月23日、国側の控訴を棄却し、地裁同様「完全支配要件の適格合併には事業承継・継続は必須ではない」とした。

事業目的の説明が納税者勝訴につながったのだろう。判決では、国の「事業目的が節税目的を上回る必要がある」との主張を退けた。節税目的と事業目的を量的に比較することには違和感がある。そのような比較は税法にそぐわない。否認されるのは、経営目的ゼロで節税目的100の事例のはずだ。問題は事業目的があるかないか。本件はグループのビジネスモデルで説明可能な範疇の合併だったのだろう。そこに節税目的が加わるのは租税回避ではない。

白井 一馬

しらい・かずま/石川公認会計士事務所、 税理士法人ゆびすいを経て独立。『顧問税理士のための相続・事業承継スキーム発想のアイデア60』 『一般社団法人一般財団法人信託の活用と課税関係』『一般社団法人・信託活用ハンドブック』ほか 著書多数。

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