介護施設経営に不可欠なダイバーシティ対応の実務ポイント<小濱道博先生の介護特化塾 vol.07>

本コラムでは、介護経営コンサルタントとして、日本トップクラスの小濱道博先生が、介護業界の「知って得する」トピックスを取り上げて解説します。会計事務所の皆様に、介護マーケットの魅力・重要性のほか、介護特化を進めるためのヒントや戦略などを毎回お届けします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.142(2025.8)に掲載されたものです。
小濱介護経営事務所 代表
C-SR(一社)介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 最高顧問
小濱 道博 先生
わが国の介護施設は、少子高齢化の加速と慢性的な人材不足という二重の課題を抱えている。この人材不足を補うため、外国人材の活用が進んでいるが、単なる人手不足対策にとどまってはならない点を、顧問先にはぜひ再確認いただきたい。外国人材は異なる文化、宗教、言語、そして性的指向・性自認(SOGI)を持つ多様な人材であり、その背景を理解し、受け入れる体制を整えなければ職場での定着は難しい。
たとえば宗教上の理由で特定の食事を避ける職員や、礼拝時間を必要とする職員に対しては、施設側が柔軟に勤務時間を調整するなどの対応が必要である。また、外国人材の日本語力向上を支援する教育体制や、多言語での情報共有ツールの導入も検討すべきである。SOGIについても同様であり、職員の性的指向や性自認に対する差別を防ぐために、基本知識の研修を実施し、相談体制を整えることが大切である。
利用者側の多様性にも十分に目を向けたい。特に性的マイノリティやトランスジェンダーの利用者は、異性介助に心理的な抵抗を感じる場合が多い。しかし現場は慢性的な人手不足であり、必ずしも同性介助が可能とは限らないのが実態である。この現実を踏まえたうえで、施設としてはまずSOGIに関する職員教育を定期的に行い、利用者のアセスメント時に多様なニーズを把握し、ケアプランに反映させることが重要となる。可能な範囲で職員配置やシフトを工夫し、同性介助の希望に応えられる体制を整える努力が求められる。
こうしたダイバーシティ対応を属人的な判断に委ねず、組織として制度化することが経営リスクを防ぐうえでも重要である。就業規則には差別禁止を明文化し、対応を任せきりにしない仕組みを整えるべきである。相談窓口の設置や、匿名での意見集約の仕組みも有効である。採用書類の性別欄を廃止し、公正な選考を徹底することや、同性パートナーを法律婚と同等に扱う福利厚生を整えることも、職員の安心感につながり離職防止に寄与する。
顧問先には、これらの取り組みが単なる理念ではなく、将来の安定経営に直結する実務であることを改めて伝えたい。多様性を受け入れ、外国人材や多様な背景を持つ職員が安心して力を発揮できる環境があってこそ、質の高いサービスが提供でき、施設の評判と信頼性は向上する。ダイバーシティ推進は経費ではなく投資であり、結果として人材確保と定着に結び付く経営戦略である。
会計事務所としては、介護施設の労務管理や制度設計、研修体制の整備を含めた助言がこれまで以上に重要となる。顧問先が持続可能な経営を実現できるよう、制度整備と現場実務を結ぶ橋渡し役としての役割を果たしていきたいものである。

小濱 道博
こはま・みちひろ/介護経営コンサルタントとして、全国各地で介護事業全般の経営支援、コンプライアンス支援に 特化した活動を行う。2009年にC-MAS 介護事業経営研究会の立ち上げに関与。 税理士、社労士など200を超す専門士業事務所との全国ネットワーク網を構築し、 国内全域の介護事業経営者へのリアルタイムな情報提供と介護事業経営の支援活動を行う。 介護経営セミナーの講演実績は、全国で年間300件以上。 書籍の大部分はAmazonの介護書籍で第一位を獲得。