今年も税理士試験が終了 相続税法の問題を解いてみた<気になる税務トピックVol.15>
白井税理士事務所 所長・税理士
白井 一馬 先生
2023/8/25
『税理士のための相続税Q&A 小規模宅地等の特例』など多数の著書を持ち、研修講師としても活躍する白井一馬先生が、税理士業界注目のニュースや気になる話題をピックアップ。独自の視点も交えながら、コンパクトに紹介します。
届出額との差額を雑損失で処理
常に失敗事例の教材とすべきが国税庁HPで公表される懲戒処分事例だ。7月に公表された最新の事例をひとつ紹介したい。
関与先の法人税の申告に当たって、法人が事前確定届出給与に関する届出額を超える金額を支給したため、超過部分を税理士が雑損失に振り替えて損金算入した。これが不正に所得金額を圧縮した真正の事実に反する申告書の作成だとして9月の税理士業務の停止となっている。
事前確定届出給与について届出額を超えて支給してしまうと、支給した全額が損金不算入になる。差額を雑損失にして懲戒処分となったわけだ。社長に懇願され雑損失で処理したのだろう。同じ処理をしてしまう税理士は結構いると思う。
過大申告は関与先から損害賠償請求されるリスクがあるが、無茶な過少申告は懲戒処分の対象になるということだ。
今年も税理士試験が終了相続税法の問題を解いてみた
税理士試験の相続税。小規模宅地特例が出題されている(間違っていたらごめんなさい)。
以下敷地はすべて被相続人名義である。
① 被相続人の孫(生計別)の居住の用に供されていた
家屋の敷地を配偶者が取得
② 被相続人と配偶者が居住の用に供していた
家屋の敷地を同一生計の子が取得
③ 被相続人と同一生計の子が居住の用に供していた
家屋の敷地を子(②と同一人物)が取得
①は、被相続人あるいは被相続人と同一生計親族の居住用宅地にそもそも該当しないので誰が取得しても小規模宅地特例は適用できない。
②は、被相続人の居住用宅地なので同居特例が適用できると思わせるひっかけ問題か。しかし③を確認すると被相続人とは別居だと分かる。そうすると家なき子特例が適用できると誤解する受験生がいるのかも。配偶者がいるため本問で家なき子特例は適用不可。実務では「配偶者が取得すれば小規模宅地特例が使えますよ」とアドバイスすべき事案。
③は、生計一親族の特例が適用できる。しかし実務ではほぼ登場しないのが生計一親族の特例だ。別居で同一生計となると仕事をしておらず被相続人の仕送りが生活の糧となっている子供ということになる。相続人が未成年だったり、引きこもりだったり、失業中だったりという事例でない限り適用できない。
もう1題が一般社団に関する問題。家族で理事を固める一般社団に対し、亡父親が生前に現金を一般社団法人に贈与しているという事例。なんと遺産はゼロだという(笑)。租税回避と考えざるを得ない事例だ。
そうすると、①贈与時においては相続税等の不当減少と認定され相続税法66条第4項によって一般社団法人を個人とみなして贈与税課税。そして、②父親の相続時には一般社団法人の純資産(被相続人含めた理事の数で頭割り)に対して相続税課税(ただし算出された相続税からは①を控除)ということになるのだろう。あとは贈与時に経済利益の供与があるかもしれないから65条も回答した方がよいのかもしれない。