【令和7年度税制改正】中小企業経営強化税制の見直し・延長について詳細解説

【令和7年度税制改正】中小企業経営強化税制の見直し・延長について詳細解説

2024年(令和6年)12月27日、令和7年度税制改正大綱の中で、法人課税の分野において、中小企業経営強化税制の見直し及び適用期限の延長が公表されました。

今回の改正では、本制度に係る適用条件の改定や項目が一部廃止されるとともに、売上高100億円超をめざす成長意欲の高い中小企業等の設備投資に対して、更なる減税措置が講じられています。

売上高100億円を超えるような中小企業等は、輸出や海外への事業展開で旺盛な域外需要を獲得するとともに、域内でも新たな需要を生み出して地域経済の中核となり得る重要な存在です。

そうした成長性が高く地域の経済に大きな影響をもたらす企業を育成するため、今回、中小企業経営強化税制の見直し・延長がなされました。

本記事では、中小企業経営強化税制の見直し及び延長について、改正された内容の概要を中心に詳しく解説します。

目次

中小企業経営強化税制とは?

中小企業経営強化税制とは、青色申告書を提出する中小企業者等(資本金1億円以下の法人、協同組合等、商店街振興組合)が、2027年3月31日までの期間に、工業会または経済産業局から認定を受けた経営力向上計画に基づき、一定の機械設備等を新規に取得・制作して指定事業の用に供した場合、即時償却または取得価額の10%(資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%)の税額控除を選択適用できる制度です。

中小企業経営強化税制は、2017年(平成29年)税制改正において「中小企業投資促進税制」の上乗せ措置として創設された税制で、中小企業投資促進税制も令和7年度税制改正で見直し及び2年間の延長が決められましたが、本税制も同様に2025年3月31日としていた適用期限を2027年3月31日まで2年間延長されました。

中小企業経営強化税制の見直し及び延長に係る条文

中小企業経営強化税制の見直し・延長の条文については、財務省資料にてその詳細が確認できます。一方、今回の見直しは改正内容が多岐に渡り量的にも多いので、本記事では詳細の表記を省略します。

以下で参照先を示しますので、条文の詳細を知りたい方はアクセスしてご確認下さい。

参照先:中小企業経営強化税制の見直し・延長(P35~P38)|法人課税(地方創生や活力ある地域経済の実現)|令和7年度税制改正の大綱|財務省

中小企業経営強化税制の改正の概要1

令和7年度税制改正において中小企業経営強化税制については、内容の一部を見直しした上で、対象となる設備4類型のうち、デジタル化設備(C類型)を除外し、適用期限をさらに2年延長しました。

(※)下線部分は今回の見直しで改正された箇所です。

生産性向上設備(A類型)収益力強化設備(B類型)(従来)経営資源集約化設備(D類型)
対象企業青色申告書を提出する中小企業者等(資本金1億円以下の法人、協同組合等、商店街振興組合)(※1)
対象事業(指定事業)製造業、建設業、小売業、卸売業、サービス業等(電気業、熱供給業、水道業、娯楽業等一部の事業は対象外)
適用要件①特定経営力向上設備等の取得・制作をして指定事業の用に供すること
指定要件②1.経営強化法の認定
2.生産効率等の指標が旧モデルと比較して年平均1%以上向上している設備
生産効率等の指標は、単位時間当たり生産量、歩留まり率または投入コスト削減率のいずれかにより評価することとする
1.経営強化法の認定
2.投資利益率が7%以上の設備投資計画に係る設備(改正前は5%)
1.経営強化法の認定
2.修正ROAまたは有形固定資産回転率が一定割合以上の投資計画に係る設備
対象設備・機械及び装置の取得価額(160万円以上)
・工具、器具及び備品等の取得価額(30万円以上)
・建物付属設備の取得価額(60万円以上)
・ソフトウェアの取得価額(70万円以上)
適用対象範囲国内への投資であり、生産等設備を構成するものであること(除く中古資産・貸付資産)
暗号資産マイニング業の用に供する設備は今回対象外とする
税制措置即時償却(※2)または取得価額の10%税額控除(資本金3,000万円超の法人は、即時償却または取得価額の7%税額控除)
※ただし控除の上限額は中小企業投資促進税制と合わせて法人税額×20%(1年間繰り越し可)
適用期限本税制の適用期限を2年延長し2027年(令和9年)3月31日までとする

(※1)中小企業者等の範疇から以下の法人を除く。
同一の大規模法人が発行済株式等の2分の1以上を所有している法人、2以上の大規模法人が発行済株式等の3分の2以上を所有している法人、適用事業年度前3年間の平均所得が15億円を超える法人等。

関係法令の改正を前提に、みなし大企業の判定における大規模法人の有する株式または出資から、その判定対象である法人が農地法に規定する農地所有適格法人である場合で、かつ、一定の承認会社がその農地所有適格法人の発行済株式または出資の総数または総額の 50%を超える数または金額の株式または出資を有する場合におけるその株式または出資を除外する。

(※2)即時償却とは、設備の費用全額を、設備を取得または制作した年度の経費として計上する方法です。普通償却限度額との合計でその設備の取得価額が上限(特別償却限度額)になります。

参照先:中小企業経営強化税制(中小企業等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)|国税庁

中小企業経営強化税制の改正の概要2

今回改正の中小企業経営強化税制については、前章の税制措置と合わせて、売上高100億円超をめざす中小企業に対する拡充措置を創設しました。

(※)下線部分は今回の見直しで改正された箇所です。

収益力強化設備(B類型)(拡充措置)
対象企業青色申告書を提出する中小企業者等(資本金1億円以下の法人、協同組合等、商店街振興組合)(※1)
対象事業(指定事業)製造業、建設業、小売業、卸売業、サービス業等(電気業、熱供給業、水道業、娯楽業等一部の事業は対象外)
適用要件①特定経営力向上設備等の取得・制作をして指定事業の用に供すること
指定要件②1.経営強化法の認定
2.年平均の投資利益率が7%以上かつ経済産業大臣が定める経営規模拡大要件に適合し確認を受けた投資計画に係る設備3.本制度の対象となる金額の上限は60億円
経営規模拡大要件1.売上向上のための施策及び設備投資時期を示した行程表(ロードマップ)を作成していること 
2.基準事業年度の売上高が10億円超90億円未満であること 
(注)上記の「基準事業年度」とは、経営力向上計画の認定を申請する事業年度の直前の事業年度をいう 
3.売上高100億円超を目指すための事業基盤、財務基盤及び組織基盤が整っていること 
4.売上高 100 億円超及び年平均 10%以上の売上高成長率をめざす投資計画であること 
5.次の要件を満たす設備投資を行う投資計画であること 
a 導入予定の設備が売上高の増加に貢献するものであること 
b 経営力向上計画の認定を受けた日から2年以内に導入予定の設備の取得価額の合計額が1億円と基準事業年度の売上高の5%相当額とのいずれか高い金額以上であること 
c 生産性の向上に資する設備の導入に伴い建物及びその附属設備の新設または増設をするものであること 
5.投資計画の計画期間中において、給与等の支給額を増加させるものであること
6.上記のほか、売上高100億円超をめざすために必要とされる要件を満たすこと
対象設備・機械及び装置の取得価額(160万円以上)
・工具、器具及び備品等の取得価額(30万円以上)
建物及び付属設備の取得価額(合計額1,000万円以上)
・ソフトウェアの取得価額(70万円以上)
適用対象範囲国内への投資であり、生産等設備を構成するものであること(除く中古資産・貸付資産)
税制措置①【建物及び付属設備の場合】
以下のどちらかを選択適用
・特別償却の場合:給与増加割合(※2)2.5%以上15%、給与増加割合5%以上25%
・税額控除の場合::給与増加割合2.5%以上1%、給与増加割合5%以上2%ただし、建物及び付属設備の共用年度において、給与増加割合が2.5%未満の場合は、特別償却及び税額控除は適用できない

【機械及び装置、工具及び器具備品、ソフトウェアの場合】
以下のどちらかを選択適用
・即時償却
・取得価額の10%税額控除(資本金3,000万円超の中小企業者等は取得価額の7%税額控除)
税制措置②経済産業大臣の確認を受けた中小企業者等は、その確認を受けた投資計画の計画期間中は、中小企業投資促進税制及び中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の適用を受けることができない
適用期間本取扱いについては、2027年(令和9年)3月31日までとする

(※1)については、前章の表記(含む改正分)と内容は同じです。
(※2)給与増加割合を出す算式は以下の通りです。
(その事業年度における雇用者給与等支給額(※3)-その事業年度の前事業年度における雇用者給与等支給額)÷その事業年度の前事業年度における雇用者給与等支給額。
(※3)「雇用者給与等支給額」とは、法人の所得の金額の計算上、損金の額に算入される国内の事業所に勤務する雇用者に対する給与等の支給額をいいます。

その他の改正点

今回の中小企業経営強化税制の改正では、その他として以下の項目も追加されました。

「食品等の流通の合理化及び取引の適正化に関する法律の改正を前提に、中小企業者等が中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定があったものとみなされる改正後の食品等の流通の合理化及び取引の適正化に関する法律の認定を受けた持続的供給事業活動計画(仮称)に記載された経営力向上設備等の取得等をする場合のその経営力向上設備等について、改正後の本制度の対象とする。」

すなわち本項目の追加で、食品等を取り扱う事業者がワンストップで中小企業経営強化税制を活用できる仕組みが構築されました。

中小企業経営強化税制の見直し延長に係る留意点及び評価点

今回の中小企業経営強化税制の見直し及び延長を踏まえ、最後に本件に係る留意点及び評価点を解説します。

留意点

本税制の見直し及び延長に係り、留意すべき点としては以下の3点が上げられます。

  1. 従来の制度から、生産性向上設備の経営力向上指標が見直されたこと、収益力強化設備の投資利益率が引上げされたこと、C分類のデジタル化設備が適用対象から除外されたこと等に伴い、従来に比較して対象となる設備範囲が縮小することに留意が必要です。
  2. 共用年度の給与増加割合が2.5%未満の場合は、建物及び付属設備について特別償却及び税額控除が適用できません。適用を受ける場合には、給与支給予定額及びその増加率が必要要件内に入っているか、十分な事前確認が必要です。
  3. 今回の改正は、財務省資料にも明記されてるように、中小企業等経営強化法の改正が前提になっており、同法の改正動向を注視する必要があります。

同じく、今回構築された食品等の事業者がワンストップで中小企業経営強化税制を活用できる仕組みについても、関連法規の改正が前提であり、関連法の改正動向の注視が必要です。

評価点

一方、本税制見直し及び延長に係る評価点として以下の点が上げられます。今回、売上高100億円超をめざす中小企業に対しては、本税制の拡充措置が創設されました。

これは成長意欲のある地域の中小企業にとって会社として成長するための大きな追い風であり、本税制を利用してより積極的に大胆な設備投資を行うチャンスです。

また、売上高100億円超をめざす企業には、別途、大胆な設備投資の支援を目的として、「中小企業成長加速化補助金」も利用できます。

こちらは、2025年(令和7年)5月8日から1次の公募開始が予定されています。

参照先:【1次公募】令和6年度補正予算/中小企業成長加速化補助金|jGrants(デジタル庁)

該当する中小企業等には、今回の改正を企業として大きく成長するための絶好の機会ととらえ、設備投資にあたり綿密な経営力向上計画を策定して申請することが望まれます。

まとめ

令和7年度税制改正に係る中小企業経営強化税制の見直し・延長について、改正点を中心に詳しく解説しました。

中小企業経営強化税制の適用を受けるためには、企業が設備を新しく取得・制作する前に、所管先より経営力向上計画の認定を受け、提出する確定申告書に特定経営力向上設備等に該当することを称する書類の添付が必要です。

一方で改正内容も含め本税制を深く理解するには相当の専門的知識が必要で、企業単独で対応するにはかなりの困難が予想されます。

その点、中小企業庁が認定した経営革新等支援機関を利用して専門家に支援を依頼すれば、本件に係る経営力向上計画の策定も容易かと考えます。

税理士.ch 編集部

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