“提案できる若手職員”はどう育つ?会計事務所の成長を後押しする育成のしかけ

“提案できる若手職員”はどう育つ?会計事務所の成長を後押しする育成のしかけ

「最近の若手、なんだか頼りない」――そう感じるのは、育成の仕組みが原因かもしれません。入所3〜10年目の若手職員は、実務にも慣れ、後輩指導やチーム連携も担う存在。しかし、思うほどの成長が見られない…。

実は、そんな若手こそ伸びしろの塊。しっかりと育てれば、事務所の提案力や空気がガラッと変わります。

本記事では、若手職員の育成に効く研修の中身や導入後の変化について、人材開発コンサルタントであり、のべ10万人以上への研修を実施した実績を持つ、潮田、滋彦先生にお話を伺いました。

潮田 、滋彦

大手エンジニアリング企業で海外営業を担当後、人材開発部門において研修講師および部門マネジメントを担い、独立。講師として35年以上一貫して第一線で活動し、300社超の実績を持つ。毎年200日以上登壇の人気講師。 参加者のやる気を引き出し、個性や影響力を伸ばす参画型研修を得意とする。新人から管理職までの全階層研修だけでなく、ロジカルシンキングや創造性開発などの思考力研修、プレゼンテーション研修などが専門。 現在、トゥ・ビー・コンサルティング株式会社代表取締役。『仕事がデキる「新人・若手社員」になる!潮田式 “1on1” ビジネス基礎研修』『新版“思考停止人生”から卒業するための個人授業』など著書多数。

― まず、若手職員(若手社員)とはどういった人たちを指し、組織の中でどのような立ち位置なのかを教えてください。

若手職員とは、一般的に入所3年目から10年目程度、年齢で言えば20代中盤から30代前半にあたる人たちを指します。業務にある程度慣れたうえで、仕事の幅や関わる人の範囲が広がってくる時期です。自分より経験の浅い後輩ができ、教える・支える立場にもなりはじめます。
つまり、若手職員は、与えられたことをこなす段階を超え、主体的に動き、周囲と連携しながら成長していく過渡期にいる存在といえます。

― なぜ、会計事務所に若手向け研修が必要なのでしょうか。

会計事務所では、個々が幅広い業務を任されるうえに、予想外の対応を求められることも少なくありません。こうした「任せる文化」の中では、人材育成の仕組みが整っていないと、若手は自己流のやり方に頼るようになりがちです。そして、自己流が定着すると、やり方を見直す機会が減り、成長が鈍ったり、時代の変化に乗り遅れたりする原因になってしまいます。
だからこそ、仕事に対する姿勢や進め方を見直す研修が、若手の仕事力の土台を築くうえで必要なのです。

― 若手向け研修では、どのようなことを学ぶのでしょうか。

新人研修が社会人としての基本を学び、目の前の業務に前向きに取り組む姿勢を育てるものだとすれば、若手向け研修は「仕事に自分なりの工夫や責任を加えていく力」を育てるもの。上司の指示を待つのではなく、自ら考えて動く自発性、チーム内での役割意識、後輩へのサポートやクライアントとの信頼関係づくりなど、人との関わり方も問われるようになります。
若手向け研修は、こうした変化に対応できるよう、自分の役割や仕事の姿勢を見直し、「ただ作業をこなす人」から「価値を生み出す人材」へと成長するためのきっかけを提供します。

― 若手向け研修で身につくスキルを教えてください。

若手向け研修で重視されるスキルは、大きく3つあります。1つ目はコミュニケーション力。報連相の基本や、論理的に情報を伝える技術を学びます。2つ目は問題解決力。仕事上の課題に対して、原因を明らかにし、どう改善するかを考えて行動に移す力を育てます。そして3つ目は、自己理解を深める力です。自分の特性や価値観を見つめ直し、他者との違いを受け入れる姿勢を養います。
さらに、今後のキャリアを設計する「キャリアデザイン」の視点も得られます。これにより、自分の成長に主体的になり、クライアントやチームによりよい影響を与えられるようになっていくのです。

― 若手職員が十分に研修を受けていない場合、事務所にどのようなリスクがありますか。

研修ではよく、「自分の当たり前は他人には通用しない」と伝えています。自分の感覚だけで動くと、無意識に相手に押しつけてしまうことがあるからです。
たとえば、顧客の会社やその業界にも独自のルールや文化があります。それを配慮せずに接すると、「話を聞いてくれない」「事情をわかってくれない」と感じさせてしまい、関係がこじれかねません。
顧客の課題を解決するためには、相手の立場に立つ視点が不可欠です。これが欠けると、クレームを受けたり、場合によっては解約につながってしまったりする恐れがあります。

― 最近の若手の傾向と、雇用側が意識すべき点を教えてください。

会計事務所に限らず、最近の若手に共通する傾向として、「働く理由」や「成長実感」を重視する点が挙げられます。何のために働いているのか、自分はこの環境で成長できるのか、という目的や意義を明確にしたいと考える人が多くなっています。
これに対して雇用側が気をつけるべきなのは、「当たり前」の押しつけを避けること。雇用者や教育担当者の常識が必ずしも現代の若手に通用するとは限りません。若手が納得し、自分ごととして業務に向き合えるような環境作りが必要です。
若手向け研修では、自分の業務を客観視し、「なぜこの仕事をしているのか」と向き合うことで、仕事に対する腹落ち感やモチベーションを高める機会を提供しています。それが、受け身の仕事からの脱却につながるのです。

― どのような会計事務所が若手向け研修を取り入れるべきでしょうか。

教育の体制がまだ整っていない事務所や、人材育成についてあまり体系的に考える機会がなかった事務所には、若手向けの外部研修がとくに効果的です。
外部の考え方や育成の基本に触れるなかで、若手自身が成長するのはもちろん、事務所全体としても「若手を育てるとはどういうことか」を改めて見つめ直すきっかけになります。また、業界全体の流れやクライアントの視点にも気づけるようになります。

― 若手職員が成長することで、会計事務所にはどのような良い影響がありますか。

若手職員が育つと、事務所全体の提案力や仕事の質が向上します。たとえば、若手が業務の効率化や顧客満足の向上を意識し、自ら改善策を提案するようになると、組織に前向きな変化が生まれます。その姿勢が周囲に良い刺激となり、チームの雰囲気や連携が活性化するのです。
こうした好循環を生み出すには、若手が気づいたことを安心して発言できる環境が欠かせません。提案力と周囲を巻き込む力を持つ若手が増えることが、事務所の成長を力強く後押ししてくれます。

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