日本は借金大国だという。でも、どこから借金しているのか。

日本は借金大国だという。でも、どこから借金しているのか。

「日本は借金大国だ」との言葉を耳にするたびに、暗い気持ちになる方も多いかもしれません。政府債務の残高は1,000兆円を超え、新聞やテレビでは「将来世代へのツケ」や「破綻寸前」といった表現をよく見かけます。

しかし、そもそもこの「借金」は誰が、誰から、どのようにして借りているものなのでしょうか。今回は、国の借金、つまり国債について、その歴史や仕組み、そして将来の展望について、税理士・会計士の方々に向けて、整理してみたいと思います。

目次

日本の借金とは何か

まず確認しておきたいのは、「日本の借金=政府の借金」であるという点です。企業や家計のように、日本という国がどこかほかの国から借金をしているわけではありません。正確には「政府の借金」、つまり「国債」(国の発行する債券)の残高を指して「日本の借金」と呼んでいるのです。

国債残高は、国民一人あたりに割り戻して「国民一人あたり約◯万円の借金」と表現されることもありますが、これはあくまで比喩的な言い回しにすぎません。実際に国民個人に返済義務があるわけではありませんし、その借金の相手すなわち国債の引き受け先もまた「国民」である場合がほとんどなのです。

国債の歴史

国債の起源は古く、明治時代にさかのぼります。明治政府は国内の産業基盤を整備するため、主にインフラや軍備に必要な資金を調達するために「公債」を発行しました。日清・日露戦争では戦費調達のため、海外にも国債を発行し、外貨を集めた経緯があります。

戦後の復興期には「復興国債」が発行され、昭和40年代以降は高度経済成長の後押しとして財政投融資を含む形での国債発行が活発になりました。

そしてバブル崩壊後、1990年代の長期不況期には「景気対策」としての国債発行が加速します。現在では、毎年の税収ではまかないきれない予算を補うために、赤字国債が常態化している状況です。

日本の国債は発行しすぎなのか

2025年2月、国債と借入金、政府短期証券を合計した、いわゆる「国の借金」は2024年12月末時点で1317兆6365億円だったとの財務省の発表がありました。24年9月末から7兆1980億円増加しており、その主な要因は国債の発行です。

2024年12月末の国債発行残高は約1,173.5兆円。日本の名目GDP(約560兆円)の約2倍近い水準となっています。これは先進国の中でも際立って高い数字であり、OECD加盟国の中でもトップクラスの債務比率(216.2%)です。

国債残高の推移を見ると、1990年代に入り急速に上昇し、2008年のリーマン・ショック以降も一層の増加を見せています。新型コロナウイルス対策による大規模な補正予算の影響で、2020年以降も急激に積み上がりました。現在もなお過去最高を更新し続けていることになります。

一方で、金利が歴史的な低水準に抑えられてきたことで、利払い費は抑制されてきました。しかし、日銀の金融政策変更や物価上昇に伴う金利上昇が続けば、利払い負担の増大は避けられないでしょう。

破綻した国の話―ギリシャの例

国債が増えすぎると破綻する――そんな懸念を強くさせたのが、2010年前後の「ギリシャ危機」です。ギリシャはEU加盟国でありながら、財政赤字の隠蔽や過度な歳出により、国債の信認を失いました。

当時のギリシャでは労働人口の約25%が公務員で、55歳から年金受給可能、所得代替率(現役時代の所得との割合)は90%超と手厚すぎる制度があり、財政悪化の下地となっていました。

2009年の政権交代を機に財政赤字が隠蔽されていたことが発覚、財政健全化計画が発表されるもこれが信用できないとして、ギリシャ国債は格下げになりました。ギリシャ国債を多く保有していたドイツの国債も下落、似たような財政状態のイタリアやスペインの国債も下落、通貨ユーロも下落、ほかの国まで巻き込んで大混乱となったのです。結果、金利は急騰し、市場からの資金調達ができなくなり、IMFやEUからの金融支援を受けることになりました。

IMFは支援の代償としてギリシャに非常に厳しい改革を求めました。年金、公務員、公共事業、すべて見直されかつてない規模での緊縮財政と構造改革が行われます。

ギリシャ国民が経験した影響は深刻です。年金の大幅カット、公務員の大規模なリストラ、最低賃金の引き下げなど、生活に直結する痛みを強いられました。また、銀行の預金引き出しが制限され、1日に引き出せる金額が60ユーロ(当時約8,000円)に制限される「資本規制」が導入されたことで、経済活動が著しく停滞しました。

医療現場でも混乱が発生し、医薬品の不足や診療の遅延が常態化。社会的混乱によりデモや暴動が頻発し、国民生活は大きな打撃を受けました。

しかしIMFとEUの支援の代償として構造改革と緊縮財政に取り組んだ結果、問題発覚から5年後の2014年にはGDPがプラスに転じたことを書き加えておきます。

一つの国家の債務残高が信認を失った先に何が起こり得るかの実例として十分に議論されるべきでしょう。

このままだと日本は危ないのか

では、日本もギリシャのように破綻するのでしょうか。現時点での答えは「可能性は極めて低い」です。その最大の理由は、日本の国債の約9割が国内で保有されている点にあります。特に日銀や金融機関が大きな割合を占めており、海外投資家に依存していない構造が、国債の安定性を支えています。

また海外の格付け会社による日本国債の評価も過去十年ずっと「A」以上であり「投資適格」と判断されている状態が続いています。ギリシャ危機のように海外の国債保有者から不安がられる要素はほぼないということです。

また、日本は自国通貨である円建ての国債を発行しており、極端な話、財源が不足すれば通貨を発行して賄うことも理論上は可能です。

麻生太郎氏の談話「日本は破綻しない」

2014年10月16日 参議院 財政金融委員会における元財務大臣の麻生太郎氏の発言が動画となっており現在でも視聴可能です。ここで麻生氏は次のように述べています。

「日本の場合は間違いなく国債は自国の通貨でやっている国なのであって、他の国のドルでやってるとかユーロでやってる国とは違って円でやってる。日本の売れてる国債はすべて円建てですからそういった意味では財政破綻とかいうことは物理的には考えられんという理解をしている。」

同氏は、2012年から2021年にかけて、複数回にわたって「日本は破綻しない」との見解を示しています。たとえば2013年の国会答弁や財政演説、また財務省主催の記者会見などで、繰り返し次のような主張を述べています。

  • 国債の約9割は国内で消化されており、海外依存が低い
  • 自国通貨建てである以上、理論上はデフォルトのリスクがない
  • 日銀が国債購入を通じてセーフティネットとなっている

麻生氏の発言は一部で楽観視との批判もありますが、財政の現状を冷静に見つめるうえで、重要な材料の一つといえるでしょう。

現代貨幣理論(MMT)の反撃

近年、経済学界や政策論争の中で注目されているのが、現代貨幣理論(MMT:Modern Monetary Theory)です。MMTの根幹にあるのは、「自国通貨を発行できる主権国家は、理論上、財政破綻することはない」という考え方です。

この理論に基づけば、日本のように自国通貨(円)建てで国債を発行している国は、中央銀行が通貨を新たに発行することによって、その借金を返済できるとされます。つまり、外貨建ての債務を抱える新興国のように、外貨不足でデフォルト(債務不履行)に陥るという事態は、日本には基本的に起こり得ないというのがMMTの立場です。

実際、日銀は近年、量的緩和政策の一環として国債を大量に購入しており、その結果として日銀のバランスシートには580兆円あまりという巨額の国債が計上されています。これはある意味で「中央銀行による国債の引き受け=通貨発行による財政資金の供給」が既に現実として行われているとも言えるでしょう。

しかし、ここで注意すべきは、MMTが「借金はいくらしても問題ない」と主張しているわけではないという点です。MMTにおいて最も重視されるのは「インフレ率」であり、通貨の供給が過剰になれば、当然物価が上昇し、国民生活を圧迫するリスクが生じます。そのため、財政支出の拡大も「インフレ率が安定している範囲内であれば可能」という条件付きです。

また、MMTでは、インフレが加速した場合の制御手段として、「課税」こそが政府の最大の財政ツールであると位置づけられています。つまり、政府支出によって供給された通貨は、将来的には税金という形で回収する必要がある、というわけです。

日本においてこの議論が注目されている背景には、長期的なデフレと金利の低迷があります。こうした状況下では、財政赤字拡大に伴うインフレリスクが相対的に小さいため、MMT的なアプローチを支持する声も根強いのです。

とはいえ、MMTを全面的に採用することには多くの批判もあります。たとえば、「インフレになるまでいくらでも通貨を発行してよいなど極端すぎる」「どうやってインフレを抑えるのかという視点が欠けている」といった懸念です。したがって、MMTはあくまでも一つの理論枠組みであり、現実の政策運営に取り入れるには、従来の財政規律とのバランスを慎重に図る必要があるでしょう。

税収を増やすには増税か景気浮揚策か

財政健全化のためには、歳出の見直しとともに歳入の確保が求められます。歳入増加の選択肢としては、「増税」か「経済成長による税収自然増」がありますが、どちらにも長所と短所があります。

増税は即効性がある反面、経済活動へのブレーキとなりかねません。一方、景気浮揚策は税収増に時間がかかるものの、持続的な経済成長につながれば、長期的な税収の底上げが可能です。過去には、消費税率引き上げによって一時的に税収が増えたものの、消費の落ち込みによりトータルでの効果は限定的だったという評価もあります。

前段のMMTの理論の説明では、通貨発行でインフレが生じたときにそれを抑えるのが「課税」の役割だということでした。したがって、まずは景気浮揚策をとり所得が上がってから増税して税収を増やすというのが筋道であるというように考えられます。

まとめ

そもそも国債は政府の歳出を税収だけで賄えない場合に発行されるのはご存じの通りです。現代の日本で歳出のすべてを税収だけで賄えない理由を考えたとき、たどり着く答えは次の2つです。

  • 社会保障費が年々増加している。
  • 景気が低迷して税収が伸びない。

たびたび言われていることではありますが、上記2つの根本原因には少子高齢化があると思われます。

財務省を主犯とする陰謀論や政府与党の責任にする論調が拡散されがちな「日本借金大国論」ですが、その究極の原因は日本の少子高齢化にあり、ともかくもこの問題の解決に力を注がなくてはならないということになるのでしょう。

この問題は構造を正しく理解することが重要です。借金大国の破綻リスクは低いとはいえ、債務残高の拡大が永遠に許されるわけではありません。

税理士・会計士の立場としては、財政の健全性と税制の在り方について、単なる危機感の共有ではなく、実証的な視点から議論に参加することが求められています。

税務に携わる者はそれを担当する企業に置き換えて、それを支える健全な税収構造――そのバランスをどのように取るのか考える。

今後も私たちの専門性が問われ続けるテーマです。

税理士.ch 編集部

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