特定路線価の設定<税理士事務所 四方山話vol.10>

本コラムでは、日常の業務を通じて遭遇するお客様の反応や現場での出来事など身近なトピックに焦点を当てます。セミナーや研修で講師を務める経験豊富な江﨑光行先生が、これらの話題をわかりやすく、そして実用的なアドバイスを交えて解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.138(2025.4)に掲載されたものです。
江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
江﨑 光行 先生
「路線価が無いようです。」
相続のご依頼を受けた当初ヒアリングの際、相続人の方からご相談がありました。今回ご依頼された相続では、相続財産に路線価が付された地域の土地が含まれており、その相続人は、予めご自身で路線価を調べようとされ、冒頭のご質問となりました。
路線価地域内において、土地の相続税評価額を計算する際、評価対象の土地に接する路線価を調べる必要がありますが、路線価の設定されていない道路のみに接している場合もあります。このような場合は、所轄税務署長へ「特定路線価設定申出書」を提出し、路線価(特定路線価)の設定の申出をすることができます。
設定にあたっては、下記の要件を満たしている必要がありますので注意が必要です。
1つ目は、特定路線価の設定が必要な理由が、相続税又は贈与税の申告のためのものであることです。「特定路線価設定申出書」には、相続開始日や受贈日を記載する箇所がありますので、相続発生に備えて事前に設定しておくということはできません。
2つ目は、評価する土地が路線価地域内に存在することです。倍率方式により評価する地域内に存在する場合には、固定資産税評価額に所定の倍率を乗じて評価しますので、特定路線価の設定を行うことができません。
3つ目は、評価する土地は路線価が無い道路のみに接していることです。2つ以上の道路に接していて、どれか1つの道路に路線価が設定されている場合は、特定路線価の設定はできません。
他にも、特定路線価を設定したい道路は、評価する土地の利用者以外も使用するものであること、建築基準法上の道路であることが挙げられます。
特定路線価の具体的な申請についてですが、申請書は納税地の所轄税務署長宛てに提出することとなります。特定路線価の設定は、その地域を担当する評価専門官が行うのですが、複数の税務署を管轄することから、納税地の税務署に評価専門官がいない場合もあります。その場合でも申出書の提出先は納税地を管轄する税務署長となります。(急ぐ場合は、郵送先は評価専門官のいる税務署へ行うのが良いでしょう。)
特定路線価の回答は、申出書を提出してから1か月程度かかります。また、特定路線価の設定が必要な年分の路線価の公表前の申し出の場合は、回答が公表後となります。
申告期限が近い相続税や贈与税の土地評価について、特定路線価の設定の申し出を行う場合は注意が必要です。申し出が却下されることもありますので、申請内容や回答時期の確認を事前に評価専門官へお問い合わせされることをお勧めします。
冒頭のお客様については、特定路線価設定の申し出を行い、3週間ほどで回答を得られました。
なお、特定路線価設定の申し出を行い、特定路線価が設定された場合には、特定路線価を用いて評価を行わなければなりません。設定の申し出は検討の上で行うことが必要です。

江﨑 光行
えざき・みつゆき/江﨑光行税理士事務所 所長・税理士
大原簿記学校税理士講座講師、税理士法人古田土会計、川鍋直則税理士事務所を経て独立。
現在は、月次決算書、経営計画書の作成指導経験を踏まえ、
ビズアップ総研アシスタント養成講座などでセミナー講師を務める。