情報流通プラットフォーム対処法<ネット時代に必要な企業防衛の極意vol.31>

昨今のサイバー攻撃強化で改めて注目度が高まっているセキュリティ対策。2022年4月に施行された改正個人情報保護法でも、個人情報の利用や提供に関する規制が強化されています。一方で、ネット上の情報漏洩や誹謗中傷といった事例も近年、急増しています。当コラムでは、こうしたネット上のリスクや対応策について詳しく解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.135(2025.1)に掲載されたものです。


弁護士法人戸田総合法律事務所 代表
中澤 佑一 先生

インターネット関連の紛争解決を主力業務とする私の2025年注目法令は、情報流通プラットフォーム対処法です。2024年の通常国会で成立した法律で、2025年5月までに施行することになっています。

この法律は、インターネット上での権利侵害が発生した際に、被害者が行使できる情報開示請求権とその手続き、情報を削除する場合のプロバイダの免責などを規定していたプロバイダ責任制限法に、権利救済のための体制構築を促進するための義務を大規模なウェブサイトの運営者に課す規程を追加する形の法律です。形式的にはプロバイダ責任制限法の改正なのですが、法令名も変わりますし、それまで全く存在しなかったウェブサイト側への行政的な規制も創設されますので、新しい法律と考えた方が実態に近い印象です。

情報流通プラットフォーム対処法では、「大規模特定電気通信役務提供者」という用語を新たに作り、これに対して主にウェブサイト上に掲載された記事の削除の観点から義務を課しています。具体的には総務大臣による指定に委ねられていますが、電子掲示板やSNSについて、国内の月間の発信者+閲覧者が1,000万人を超えるサイトが指定される見込みです。1,000万という数字がどの程度かですが、有名どころの利用者数を調査しますと、X、食べログ、Yahoo!ニュース、YouTube、Googleマップ、メルカリ、Instagram、Facebook、はいずれも優に1,000万を超えていました。Threadsが2023年11月の利用者約1,000万人強となっており、この辺が分かれ目になってきそうです。

「大規模特定電気通信役務提供者」に指定されますと、削除対応の迅速化のための措置として、

① 削除手続に関する窓口の整備・公表
② 削除の申出に関する迅速な調査の実施
③ 侵害情報調査専門員の選任・届出
④ 削除の申出者に対する結果の14日以内の通知

削除手続きの透明化に関する措置として

① 削除に関する基準等の公表
② 削除した場合の発信者への通知
③ 削除措置実施状況等の公表

という義務が課されます。

いずれの義務も削除請求を行う側からすると大きな影響があるものではないのですが、ウェブサイト側としては、業務フローや人員を整える必要性があり、対応が必要となってきます。ユーザーからコンテンツを投稿させるタイプのウェブサイトを運営する場合は、サイトが大きくなってくると、この種の義務が課されることになることを念頭に置く必要があります。

また、「大規模特定電気通信役務提供者」に指定されると、運営者や代表者の届出が必要となります。現在、運営実体を明らかにしていない大規模匿名掲示板サイトがいくつかあり、これらのサイトに対して削除や発信者情報開示の裁判を行おうとする場合にハードルがありますが、新法施行後はこの辺の改善が期待されています。

中澤 佑一

なかざわ・ゆういち/東京学芸大学環境教育課程文化財科学専攻卒業。 上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。2010 年弁護士登録。2011 年戸田総合法律事務所設立。 埼玉弁護士会所属。著書に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(単著、中央経済社)、 『「ブラック企業」と呼ばせない! 労務管理・風評対策Q&A』(編著、中央経済社)など。

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