令和6年度の高額特定資産を取得した場合の事業者免税点制度に関する改正とは?

高額特定資産の仕入れ等を行った場合は、取得した年を含めて3年間は、事業者免税点制度及び簡易課税制度を適用できないことになっています。

令和6年度の税制改正により、令和6年4月1日以後、事業者が金又は白金の地金等の仕入れ等を行い、その額の合計額が200万円以上となった場合も、事業者免税点制度及び簡易課税制度を適用できなくなりました。

まず、事業者免税点制度及び簡易課税制度とはどのような制度なのか、そして、高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例についておさらいしておきましょう。

目次

事業者免税点制度および簡易課税制度とは

事業者免税点制度と簡易課税制度は、中小・小規模事業者について、消費税納税を免除したり、納税の手間を簡素化するための制度です。

事業者免税点制度とは

個人の場合は、前々年度、法人の場合は前々事業年度の基準期間において、課税売上高が1,000万円以下であれば、その課税期間について、消費税を納める義務が免除される制度です。

基準期間がない新設法人については、資本金の額が1,000万円以上であれば、課税対象となりますが、資本金1,000万円未満の場合は、設立当初の2年間は消費税を納める義務が免除されます。

ただ、事業者免税点制度には、いくつか特例があります。

例えば、特定期間における課税売上高または支払給与総額が1,000万円を超えるときは、事業者免税点制度を適用することができません。

特定期間とは、個人の場合は前年の1月1日から6月30日までの期間、法人の場合は前事業年度の開始の日から6カ月間です。

簡易課税制度とは

簡易課税制度は、消費税の納税事務負担を軽減するための制度です。
消費税の納付税額の計算は原則として、課税期間中の売上げに係る消費税額から仕入れに係る消費税額を控除する形で行われます。

そのためには、売上げに係る消費税額を正確に把握することはもちろんですが、仕入れに係る消費税額も把握し、インボイスを保管しておく必要があり、一定の事務負担がかかってしまいます。

そこで、売上げに係る消費税額を基礎にみなし仕入率を乗じることで、仕入れに係る消費税額を算出してよいとする制度が、簡易課税制度です。簡易課税制度を利用し、みなし仕入率を90%とした場合は、納税すべき消費税を少なく抑えられることもあります。

簡易課税制度を適用するためには、基準期間における課税売上高が5,000万円以下である等の要件を満たした上で、納税地の所轄税務署長に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。

高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例とは

事業者が事業者免税点制度および簡易課税制度の適用を受けない課税期間中(つまり、原則課税方式の適用期間中)に、高額特定資産の仕入れ等を行った場合は、事業者免税点制度および簡易課税制度の適用が一時的に制限されてしまいます。

高額特定資産とは

「高額特定資産」とは、「一の取引の単位につき、課税仕入れに係る支払対価の額(税抜き)又は課税貨物の課税標準である金額が1,000万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産」のこととされています。

このうち、「調整対象固定資産」とは、棚卸資産以外のもので「一の取引単位につき、課税仕入れ等に係る支払対価の額(税抜き)が100万円以上の建物及びその附属設備、構築物、機械及び装置、船舶、航空機、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権等の資産」のことです。

高額特定資産の仕入れ等を行った場合の制限とは?

原則課税方式の適用期間中に、高額特定資産の仕入れ等を行った場合は事業者免税点制度と簡易課税制度を一時的に利用できなくなります。

具体的には、「高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の翌課税期間からその高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間」については、事業者免税点制度を利用できなくなります。

また、簡易課税制度についても、「高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までの期間」利用できなくなります。

高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例の趣旨

消費税の課税事業者が、高額特定資産を購入することで、消費税の納税額の減額や還付を受けられることがあります。のみならず、翌年以降に免税事業者になって消費税の納税を逃れることも可能となります。

このような形で、消費税の納税逃れが行われることを防止する目的で、高額特定資産を取得した場合は、事業者免税点制度を利用できないようにしているわけです。

改正前の高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例の抜け穴

実は、令和6年度税制改正前は、高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例に抜け穴がありました。この特例は、「一の取引単位」ごとに棚卸資産の額が1,000万円以上となるかどうかで、適用の可否が決まります。

そのため、二以上の取引単位で得た棚卸資産の合計額が1,000万円以上となっていた場合は、特例の適用を受けませんでした。特に、金又は白金の地金等の取引について、一回の取引額を1,000万円未満とすることで、高額特定資産に該当しないようにする形で、この特例の適用を回避できることが注目されていました。

改正前の特例の抜け穴を利用した金又は白金の地金等の取引例

事業者免税点制度を恣意的に利用した金又は白金の地金等の取引としては次のケースが想定されます。

まず、原則課税方式の適用期間中に、一回の取引額が1,000万円未満となる形で金又は白金の地金等を複数回に渡り、仕入れたうえで、仕入税額控除ができない部分について、消費税の還付を受けます。その後、免税事業者となった事業年度に、上記で仕入れた金又は白金の地金等を売却すれば、消費税の納税を免れることができます。

また、簡易課税制度を恣意的に利用した金又は白金の地金等の取引としては次のような方法が想定されます。上記と同様に原則課税方式の適用期間中に、一回の取引額が1,000万円未満となる形で金又は白金の地金等を複数回に渡り、仕入れたうえで、仕入税額控除ができない部分について、消費税の還付を受けます。

その後、簡易課税制度を利用できる事業年度において、上記で仕入れた金又は白金の地金等を売却し、みなし仕入率90%として消費税を納税することにより、消費税の納税額を最小限に抑えることが可能になります。このように金又は白金の地金等の取引を利用して、恣意的に消費税の還付を受けたり、免税事業者になったり、消費税の納税額を減らすことが可能である点が問題視され、税制改正が行われることになりました。

令和6年4月1日以後に改正された高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例とは

令和6年4月1日以後は、高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除等の特例が改正されました。

従来の制度はそのまま維持されますが、消費税の課税事業者が簡易課税制度又は2割特例の適用を受けない課税期間中に、金又は白金の地金等の取引を行った場合において、その課税期間における仕入れ等の合計額(税抜金額)が200万円以上となったときは、事業者免税点制度と簡易課税制度の利用が制限されます。

なお、この改正は、令和6年4月1日以後に行う課税仕入れ等から適用されます。その結果、現在では、金又は白金の地金等の一回当たりの取引額を1,000万円未満に抑えたとしても、年間で200万円以上となっている場合は、消費税納税義務の免除等の特例を回避できなくなりました。

金地金等の譲渡の対価の支払調書とは?

上記の改正とともに参考までに押さえておきたいことが、金地金等の譲渡の対価の支払調書です。

金地金等を保有している個人が、金地金等の売買を業として行う者に対して、金地金等を売却し、金銭の支払いを受ける際に、その額が200万円超となる時は、取引業者は、「金地金等の譲渡の対価の支払調書」を作成したうえで、税務署に提出することが義務付けられています。この制度は、税務調査で金地金やプラチナ地金の譲渡所得の申告漏れが多数確認されたことを受けて、2012年(平成24年)から導入されました。

なお、「金地金等の譲渡の対価の支払調書」の提出が義務付けられるのは、個人が金地金等を取引業者に売却する場合であり、株式会社等の法人が金地金等を取引業者に売却する場合は対象となっていません。

まとめ

令和6年4月1日以後は、金又は白金の地金等の一回当たりの取引額を1,000万円未満に抑える形で調整したとしても、年間で200万円以上となっている場合は、事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を制限する措置を回避することができなくなりました。

通常の取引には、特に影響はありませんが、金又は白金の地金の取引を利用した消費税の節税は難しくなるため、顧問先がそのようなテクニックを利用している場合は、周知する必要があります。

税理士.ch 編集部

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