“心の健康”が数字を変える!会計事務所にメンタルヘルス研修が必要な理由

働く人の心の健康は、企業の成長や職場の雰囲気にも大きく影響します。特に会計事務所のように専門性と正確さが求められる職場では、ストレス管理が欠かせません。そのため、メンタルヘルス研修の活用が求められます。本記事では、会計事務所におけるメンタルヘルス研修の必要性について、企業の人材育成やメンタルヘルス対策に長年取り組んできた、株式会社MCブランディング代表取締役・宮本実果先生にお話をうかがいました。

宮本 実果
株式会社MCブランディング代表取締役 産業能率大学/自由が丘産能短期大学 兼任教員(主査) JR北海道広報、フリーアナウンサー、人材開発コンサルタントを経て独立。2019年に株式会社MCブランディングを設立し、上場企業の産業保健や健康経営のプロジェクトに専門家として従事。管理職のメンタルヘルス、コミュニケーション教育、女性の健康課題、高ストレス者面談などを手がける。また、産業能率大学・自由が丘産能短期大学の兼任教員も務める。主な著書に「仕事は人間関係が9割」(クロスメディア・パブリッシング)。
― 会計事務所にとって、メンタルヘルス研修が必要な理由は何でしょうか?
会計事務所の業務は専門性が高く、一人で完結することが多いのが特徴です。そのため、職場でのコミュニケーションが不足しがちで、悩みや不安が周囲に伝わりにくい傾向があります。テレワークなど働き方の変化も加わり、いっそうストレスが蓄積しやすく、心身の不調につながりやすい状況となっています。
リスク軽減のために、研修でのメンタルヘルスに関する正しい知識の習得が有効です。具体的には、対面コミュニケーションの重要性を知り、相談しやすい環境づくりを意識することなどが挙げられます。研修が個々のコンディションを整え、チーム全体の働きやすさやパフォーマンス向上にもつながります。
― メンタルヘルス研修では、どのような内容を取り扱いますか?
メンタルヘルスの正しい知識習得に加え、不調の要因となる「コミュニケーション」の課題解決も重視しています。人との関わり方やハラスメント防止、セルフケア、管理職向けのマネジメントなど、幅広いテーマを取り上げ、実践的な対策を学んでいきます。
私のような産業カウンセラーによる研修は、ケアよりも「予防」に焦点を当て、不調を未然に防ぎ、働く人々の状態を向上させることを目指しています。結果として、従業員が安定して力を発揮できる環境が整い、企業全体のパフォーマンスが向上するのです。
― 会計事務所の職場環境においては、どのようなメンタルヘルスに関する問題が考えられますか?
税務や会計業務では、正確性や期限厳守が常に求められ、大きなプレッシャーとなります。さらに、顧客との認識をすり合わせる難しさもストレスの一因です。顧客の求めるゴールを正しく理解し、それに沿った業務を行う必要がある場面もあれば、逆に顧客を説得しなければならない場面もあります。
業務の難航は長時間労働につながり、さらなるストレスを引き起こすことも少なくありません。その結果、仕事だけでなくプライベートにも悪影響を及ぼし、不眠やモチベーションの低下などの健康に関する問題を引き起こすことがあります。
― メンタルヘルスの不調が業務に及ぼすリスクにはどのようなものがありますか?
代表的なものは、集中力の欠如による生産性の低下です。メンタルヘルス不調に陥ると、普段当たり前にできていることができなくなります。例えば、不眠に悩まされる、ぼんやりとする、ミスが増える、服装や髪型が乱れる(関心がなくなる)、といったことが起り得ます。
これらの症状が続いたら、長時間労働、過重労働が起きてないか注意が必要です。とくに正確性が求められる会計や税務の仕事では、心身の健康をしっかりと保っておかねばなりません。
― 企業によるメンタルヘルスへの過度な介入は逆効果にもなり得ます。適切な関与とはどのようなものでしょうか?
企業がメンタルヘルス対策を進めるうえで、現実的な対応としては「外部支援の活用」と「社内でのコミュニケーション強化」が挙げられます。
まず、外部のカウンセラーや産業医と連携し、従業員が定期的に相談できる環境を整えることが重要です。一部の人向けではなく、誰もが気軽に利用できる仕組みを作ることで、必要なときに適切なサポートを受けられるようになります。
また、社内においても、定期的な1on1ミーティング実施など、日頃からコミュニケーションをとることが有効です。上司が部下の状態を把握することで、問題を早期に察知しやすくなります。 ポイントは、問題が深刻化する前に適切なサポート体制を整えること。事前の対策によって、メンタルヘルス不調による休職や退職を防ぎやすくなります。
― 実際にメンタルヘルス研修を受けた会計事務所や企業で、どのような変化がありましたか?
まず、従業員のメンタルヘルスへの理解が深まりました。これまで「メンタルヘルス=病気の有無」と捉えられがちでしたが、実際には「健康的で気持ちよく働ける精神状態」を指します。病気でなくても、不満やモヤモヤを抱えている状態は理想的とは言えません。研修を通じて、従業員が不調を感じた際は早めに助けを求める重要性を理解し、職場の環境改善について話し合う機会が増えました。
また、従業員の健康を経営戦略の一環として考える「健康経営」への意識が高まることも挙げられます。実際に取り組みを進めたことで企業の「働きやすさ」が認識され、求職者にとって魅力的な企業となり、採用力の向上につながりました。
― 会計事務所や企業のメンタルヘルス研修で、特に効果的だった取り組みがあれば教えてください。
ひとつは、管理職や経営層向けのメンタルマネジメント研修です。立場上、周囲に相談しづらいことが多い管理職にとって、同じ境遇の仲間と悩みを共有できる機会は貴重です。研修を通じて、話すことで気持ちが軽くなる「カタルシス効果」が得られたり、新たな課題を発見したりできました。 また、高ストレス環境で働く管理職への個別面談も有効でした。面談を重ねることで職場の課題が明確になり、労働環境の改善につながったのです。結果として、従業員全体の働きやすさが向上し、メンタルヘルスの改善にも寄与しました。
― メンタルヘルス研修に関する最新のトレンドや、今後の方向性について教えてください。
最近のメンタルヘルス研修は、単なるケアにとどまらず、予防の観点を重視する傾向が強まっています。パワーハラスメント(パワハラ)やカスタマーハラスメント(カスハラ)といったハラスメントに関する知識に加え、セルフマネジメント(セルフケア)を取り入れた研修が増えているのもその一例です。
また、人的資本経営が注目される中で、企業のウェルビーイングへの意識が高まり、多様な研修が展開されています。例えば、ダイバーシティに特化したコミュニケーション研修を実施し、メンタルヘルス不調者を減らすことに積極的に取り組む企業が増えてきました。
さらに、女性の社会進出が進む中で、「女性の健康課題」に関する研修の需要が高まっています。生理痛やPMS、更年期、不妊治療などについて正しい知識を共有し、働きやすい環境を整える企業が増えているのです。こうした取り組みは、メンタルヘルスの改善や生産性向上にもつながると期待されています。