「AIスロップ」が組織を壊す!?
「中身のない成果物」を生まないための新・AI活用戦略

同僚が作った、質の低いAI製のアウトプット。その修正に時間を取られ、イラっとした経験はありませんか?実はいま、多くの方が同じような経験をしているという興味深い“データ”があります。今回は、そんな最新データとともに、質の低いコンテンツを生まないAIの上手な活用法を、コンサルティングファーム出身で、多数のAI活用研修にも登壇しているビズアップ総研の選任講師に詳しく教えてもらいました。
― 4割の人は、AI製の質の低いコンテンツに”困っている”
――生成AIが急速に普及しています。多くの方は「生成AIの導入は効率化につながる」と考えており、これを疑う人は少ないと思います。しかし、海外では少し気になる調査結果が公表されていますね。
はい。これまで生成AIの活用に関する議論は、主に「活用が進んでいるか、いないか」に集中してきました。導入率や活用事例の多さがニュースになり、「AIをどう取り入れるか」が最大の関心事だったのです。しかしいま、次の段階に入りつつあります。生成AIの活用が進んだ結果、職場や人間関係にどのような変化が起きているのか。この点に関する調査や研究結果が、少しずつ出てきています。その一つが「AIスロップ」に関する調査です。
――あまり聞きなれない言葉ですが、それはどのようなものですか?
「AIスロップ」とは、AIが生成した修正が必要な質の低いコンテンツ、または、コンテンツをチェック・修正するために発生する“見えない仕事”のこと。ワークスロップということもあるようです。スタンフォード大学(スタンフォード・ソーシャルメディア・ラボ)とアメリカのHRテック企業「Better Up」の研究チームの調査では、このAIスロップに関して、次のような問題が明らかになりました。
- 約40%の人がAIスロップを受け取った経験があり、その修正には平均で約2時間を要した。
- これは、社員1人あたり月186ドル、1万人規模の企業では年間約 900万ドルものコストに相当する。
この調査結果は、「AIで効率化したつもりが、むしろ新しい“無駄な仕事”が生まれている」ことを表しています。さらに、この調査では、コストの問題だけでなく、AIスロップが人間関係にネガティブな影響を与えることも浮き彫りになりました。
- AIスロップを受け取った人の53%が苛立ちを感じた。
- そのうち、およそ半数は送信者の能力・創造性・信頼性を疑った。25〜30%は「知的でない」とすら感じた。
- 34%が、AIスロップを上司やチームに報告しており、信頼関係が損なわれる可能性がある。
- 32%は「今後、その送信者と仕事をしたくない」と回答した。
つまり、AIスロップは職場の信頼関係や心理的安全性を脅かすリスクを内包しているのです。AI活用はもはや単なるツールの話ではなく、マネジメントの課題でもあります。
― 「AIスロップ」を生まない、上手なAI活用術
――では、どうすればAIスロップを避けられるのでしょうか。
まず、AIを単なる「答えを出すための検索エンジン」ではなく、対話を通じてアウトプットを磨き上げる「ビジネスパートナー」と捉えることが大切です。その上で、いきなりAIに案を出させるのではなく、人間が主体となって以下の4要件を定義し、AIに提供します。この4要件は、主に企画を立てるときに活用されてきたものですが、AI活用でもそのまま使えるので、ぜひ覚えておいてください。
【AIを上手に活用するための4要件】

この4要件に加え、関連する一次資料などをAIに読み込ませることで、AIはようやく「あなたの意図を踏まえた、実効性の高いアウトプット」を出せるようになります。
――その4要件について、実際のシーンを例にわかりやすく教えてください。
たとえば、自社で開催する採用イベントの企画を立てる場面を考えてみましょう。この場合、目的は「企業の採用方針に合った人材を獲得すること」、対象は「特定のスキルやキャリアを持つ新卒・中途人材」、前提として「自社の採用基準」を添付し、制約は「予算1,000万円以内・会場キャパシティ100名」となります。さらに、過去に行った同様のイベントの企画書、採用に関する様々オープンデータや一次資料、たとえば採用に関連する統計データ、国の政策関連の資料などをAIに与えます。
【実践例:採用のためのイベント】

逆に言えば、このような準備をせず、AIに「採用イベントの企画を出して」と投げてしまうと、誰にでも当てはまるような汎用的な案しか返ってきません。そして、それを修正する手間こそが、まさにAIスロップの発生源になるわけです。
――つまり、AIに渡す前の「人間の仕事」が肝心ということですね。
その通りです。AIは構造化や文章化を助けてくれますが、「何を作るべきか」「誰に向けて何を伝えるか」を決める仕事は、依然として人間にしかできません。ここを省略してしまうと、どれだけ高性能なAIを使っても、中身のないアウトプットが量産されるだけです。準備8割、AI2割――このくらいの意識で使うと、AIスロップは大幅に減らせると思います。
それから、AIのアウトプットに対して、人間がチェックし、内容を修正する“最後の一手間“を惜しまないでください。どれだけ準備をしても、ハルシネーションを起こしてしまうリスクは残りますし、違和感のある文章を出力することは普通にあります。そして何より、そうしたひと手間が、AIのアウトプットに人の「判断」と「熱量」を加えることにつながるのです。
――AIスロップが「マネジメントの課題」とのことですが、では、組織のマネージャーはこれに関して、どのようなことに気をつけ、部下に対してどのようなアドバイスをすれば良いでしょうか。
まず、マネージャーは「AIの使い方を指導する立場にある」ことを認識しなければなりません。先ほどもお話しした通り、AIスロップは、個人の問題ではなく組織の問題です。部下が質の低いアウトプットを出してしまうのは、その人の能力や意識の問題だけではなく、「使い方を教えてもらっていない」という側面も大きい。ここを見落とすと、個人を責めるだけで何も改善されません。その上で、部下がひとりでAIを使い始める前に、マネージャーの皆さまから先に「4要件」をしっかりと教えてください。
同時に、AIの限界とリスクを周知することも欠かせません。「AIのアウトプットには誤情報が含まれることがある」「事実確認なしで対外的な資料に使うと信頼を損なうリスクがある」ということを、部下が肌感覚として持てるよう働きかけてください。「いい加減なものを作ることが周囲に与える影響を、チーム全体で共有する機会」を、意識的に設けることが重要です。
そして最も大切なのは、AIの使い方をチーム内で共有することです。AIの活用を個人任せにしておくと、チームの中でバラバラな品質のアウトプットが混在することになります。共通のルール、共通の言語ができて初めて、「このやり方では足りない」「ここを直そう」という会話が生まれる。組織の課題は、結局のところ人と人とのコミュニケーションに起因します。AIの使い方を共有することは、単なるツールの話ではなく、チームの共通言語をつくることであり、それが組織を円滑に動かす基盤になっていくのです。
― エントリーレベルの仕事はなくなる?
――さて、ここまでに教えていただいた通り、AIは賢く使えばビジネスパートナーになってくれます。これはとても良いことですが、一方で「AIがエントリーレベルの仕事を奪う」という議論も活発になってきました。
特にアメリカの経営者によるそうした発言が相次いでいますね。Anthropicのダリオ・アモデイCEOは「1〜5年以内にエントリーレベルのホワイトカラー職の約50%が消滅し、失業率が10〜20%に達する可能性がある」と発言しています。また、Microsoft AI のムスタファ・スレイマンCEOも「弁護士、会計士、プロジェクトマネジャー、マーケターなど、コンピュータの前に座って行うホワイトカラーの仕事のほとんどは、今後12〜18か月以内にAIによって完全に自動化される」と発言しています。
【表①】AIによる雇用代替——主要人物の発言一覧

【表②】AIを理由に採用を縮小・凍結していると明言した企業

こうした動きは、まだ日本ではハッキリと現れてはいません。ただ、ファクトベースで見ていくと、AIが雇用にも少しずつ影響していることが見えてきます。
日本全体で見ると大企業、中小企業を全て含め、2025年には4〜5%程度の賃上げが進みました(大企業5.25%、中小企業(300人未満)4.65%:2025春季生活闘争 第7回(最終)回答集計結果)。
一方で、企業の所定外労働時間は、昨年1月からずっと下がり続けています。残業を減らすことで生産性を上げているわけです。つまり、企業経営者の頭の中には「1人当たりの名目賃金は上げる。その代わり、効率化して総人件費を減らす」という考えが出てきているのではないかと推測されます。そして、ここにAIが何らかの形で絡んでいることは否定できません。幸い、現状では「残業を減らす」という影響に留まっているのですが、AIエージェントの進化・普及によって、いずれは「採用を控える」「人を減らす」という行動につながっていくのではないかと懸念しています。
― 30〜40代のビジネスパーソンに大きなチャンスが到来
――この先、エントリージョブが奪われるとすれば、実務経験の浅い若手の人材ほど不利なのではないかと考えますが、いかがでしょうか。
個人的にはその通りだと考えていますが、若い人材ほどデジタルツールに明るい=AIを使いこなせる可能性も大きいので、この先どうなっていくのか、非常に気になるところですね。一方で、現在の30代、40代のビジネスパーソンにとっては「大きなチャンスが到来したな」という印象を持っています。
――それはなぜですか?
過去、デジタル化には大きく3つの波がありました。
第一の波は、Windows 95が登場した頃。このとき、すでに社会に出ていた世代は、WordやExcelを「使えない」まま管理職になっているケースが少なくありません。
第二の波が、GUI(Graphical User Interface)が当たり前になり、クラウドやモバイルが浸透した時代です。この波を、ちょうど若手・中堅として経験したのが、いまの35歳から45歳くらいの層です。この世代は、クラウドにも強く、生成AIへの親和性も決して低くない。そして、これからまさに、部長・マネージャーとして組織の中枢を担う時期に入っていきます。
第三の波は、クラウドネイティブの時代、いわゆるZ世代以降です。この世代はクラウド上の操作には長けていますが、逆に言えばそれ以外の世界を経験していません。
つまり、三つの波すべてを現場で経験してきたのが、いまの30代・40代なのです。この世代は、AIが存在しなかった時代に、資料の構成を自分で考え、下書きまでしていました。そうやって「構造化」や「言語化」のスキル、個々の業務スキルを習得してきたのです。生成AIという強力なツールが登場したとき、その使い方を判断できる「思考のベース」がすでに備わっている世代とも言えます。
一方で若い世代については、少し懸念があります。AIがあまりにも便利なため、思考のプロセスそのものをAIに委ねてしまいやすい。「フレームワークの形だけは整っているけれど、中身に自分の考えがないアウトプット」が増えているのは、研修の現場でも実感します。思考力を鍛える本が売れているというのも、おそらくそうした危機感の表れではないでしょうか。
AIはあくまで手段であって、目的ではありません。イレギュラーな事態が起きたとき、あるいは誰も正解を知らない問題に直面したとき、最後に頼りになるのは自分の知恵や経験です。エントリーレベルの仕事がAIに置き換わっていくとすれば、若い世代に今後求められるのは、AIを使いこなすスキルと同時に、AIに頼らずに考え抜く力を意識的に鍛えていくことではないかと思います。
| 【用語解説】 AIスロップ(ワークスロップ): AIによって生成された、品質が低く、人間による修正や選別を必要とする不要なコンテンツや、それによって生じる非効率な作業状態を指す。 ハルシネーション(Hallucination): 生成AIが事実に基づかない情報や、文脈的に誤った内容を、あたかも真実であるかのように堂々と出力してしまう現象のこと。 心理的安全性: 組織やチームにおいて、他者からの拒絶や批判を恐れることなく、誰もが安心して自分の考えや懸念を共有できる状態を意味する。 AIエージェント: 特定の目的を達成するために、自律的に判断を行いながら、タスクの実行や他システムとの連携を自動で進めるAIソフトウェアのこと。 所定外労働時間: 労働契約や就業規則で定められた所定労働時間を超えて行われる労働のことで、一般的には「残業時間」として認識されている。 GUI(Graphical User Interface): コンピュータの操作を、文字入力だけでなくアイコンやマウスなどを用いて直感的に画面上で行えるようにした仕組みのこと。 |
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ビズアップ総研専任講師
大学卒業後、組織変革・人材開発コンサルティング会社に入社。約10年間にわたり、組織変革や意識変革、業務効率化に課題を抱える1,000社以上に対し、「モチベーションコントロール」、「コミュニケーション」、「リーダーシップ・フォロワーシップ」、「ITスキル(Office系)」など様々な研修を企画・実施。 その後、業務改革を推進するコンサル会社の立ち上げメンバー・業務プロセスコンサルタントとして、「属人化」や「人手不足」、「DX」に課題を抱える企業に対し、現状業務の可視化(AS-IS)から現状分析・課題抽出、課題解決のための提案、TOBE業務フローの作成に携わる。これらの豊富な経験を活かし、現在はビズアップ総研にて専任講師として企業の人材育成に取り組む。 研修実績:大手金融業界、大手証券会社、建築業会社、小売業、飲食業、製造業 など
