専門性だけでは信頼は築けない。会計事務所が知っておくべきビジネスマナーの本質

会計事務所

会計事務所で働くうえで、ビジネスマナーはなぜ必要なのでしょうか。職員一人ひとりの振る舞いが、顧客との信頼関係に与える影響は決して小さくありません。ビジネスマナーを通じて身につくのは、単なる作法ではなく、社会人としての「佇まい」や「思いやりの気持ち」を表現する力です。
本記事では、マナー研修の意義や実際の変化、若手職員へのアプローチについて、企業研修やコーチングの現場で多様な人材育成に携わる市野賀子先生にお話を伺いました。

市野賀子

研修講師・コーチ・心理学分析士。 20年以上にわたり、住宅関連各社の営業・インサイドセールスに従事。営業先のクライアントから信頼を得、顧客からのプライベートな相談を受けるようになる。2007年コーチングに出会い、就業のかたわら、2010年より建築業、服飾メーカー、飲食業、美容学校、介護施設・障がい者支援施設などにて企業研修実施。文化センター講師、名古屋市子育て支援拠点にて子育て支援講座講師。また経営者、税理士、薬剤師、教師、働く女性向けにコーチングを行う。愛知大学文学部卒業。 資格:(一財)生涯学習開発財団認定コーチ・心理学プロファイリング認定講師・福祉住環境コーディネーター

会計事務所において、ビジネスマナー研修が求められる背景とは何でしょうか。

会計事務所は、企業活動を専門的な知見で支える存在です。そのため、専門性に加えて「信頼される振る舞い」が求められます。ビジネスマナーは、その信頼を支える重要な要素のひとつ。たとえば、専門用語をわかりやすく伝える姿勢も、思いやりというマナーの一部です。
マナー研修は、単なる形式的な訓練ではなく、「相手を思いやる意識」を育てるマインドセットの機会でもあります。主な対象は、新人や中途入社の若手職員です。

ビジネスマナー研修によって、職員や事務所にはどのような変化が見られますか。

丁寧な言葉遣いや所作は顧客に安心感を与えます。一方で対応が雑では、どれほど業務に精通していても「信頼できない」と見られてしまうケースも。研修によって「社会人としての佇まい」を整えることは、結果的に事務所全体の印象を底上げします。
また、受講を通じて自分の振る舞いを客観的に見直すようになり、意識が変化する職員も多くいます。ビジネスマナーの習得は、仕事への自覚を深めるきっかけにもなるのです。

研修の構成について教えてください。

研修内容は大きく分けて二つ。「基本マナー」と「社会人としてのマインドセット」です。
基本マナーでは、挨拶、名刺交換、電話応対、メールの書き方などを扱います。メールでは、文面の配慮や個人情報の取り扱いにも踏み込みます。
マインドセットでは、「働くとはどういうことか」「サービスを提供するとはどういう意識か」といった社会人としての姿勢や業務への取り組み方に関する本質的な問いに向き合ってもらいます。

「社会人としてのマインド」とは、どのような考え方を指すのでしょうか。

端的に言えば、「自分の時間や労力を使って価値を提供し、その対価として報酬を得ている」という自覚です。
マナーとは、状況や相手に応じて変化する「常識」に沿った振る舞いのこと。常に正解が定まっているわけではありません。
だからこそ、相手の気持ちを想像して表現を変えるなど、自分の言動を適切に調整できる柔軟さが必要です。研修では、そうした力を育てていきます。

研修で特に重視しているスキルはありますか?

対面での会話力を特に重視しています。メールなどの文字コミュニケーションは修正が効きますが、対面はその場での判断と反応が問われます。
重要なのは、完璧な敬語よりも誠意を持って伝えようとする姿勢。多少ぎこちなくても誠実さは伝わるものです。加えて、目を見て話す、丁寧なお辞儀をするなど、基本的な所作の積み重ねが信頼につながります。

印象に残っている受講者のエピソードはありますか?

名刺交換の実践で「相手より低く出す」ことを意識しすぎて、相手とどんどん低くなり合った末に腰が曲がってしまい、笑いが起きて場が和んだという話がありました。
形式だけを追うのではなく、場の空気を読み、柔軟に対応する力もマナーの一環だと実感できたエピソードでした。

若手職員に見られる傾向と、研修での対応方法について教えてください。

Z世代を含む若手は正解を求める姿勢が強く、状況によって変化するマナーに戸惑うこともあります。だからこそ、型だけでなく「なぜそうするのか」という背景を丁寧に伝えるようにしています。
また、電話応対に苦手意識を持つ新人が多いのも最近の傾向です。しかし電話応対は顧客対応の第一歩。声だけのやりとりだからこそ、相手への配慮や伝え方の基本が問われます。研修では、まず簡単なロールプレイなどで場慣れを促し、不安を小さな成功体験に変えていくことを大切にしています。

研修では実践的なワークも行うのですね。

はい。電話応対のロールプレイでは、「お客様役」「応対役」に分かれ、実際の現場を想定したやりとりを行います。予行演習になるのはもちろん、「対応の難しいお客様」役を経験することで、相手の心理や背景を理解しやすくなり、マナーの本質を体感できる仕掛けとなっています。

会計事務所を含む士業事務所にとって、ビジネスマナーはなぜ重要なのでしょうか。

士業は「信頼」で成り立つ仕事です。専門性が高いからこそ、サービス業としての意識が後回しになる傾向がありますが、顧客の立場からすると「説明は正確でも対応がそっけない」といった印象は残ります。
ビジネスマナーは単なる気遣いではなく、実務の土台として機能します。所内の雰囲気にも影響するため、業務には無関係として切り捨てられない、大切な要素だと感じます。

最後に、導入を迷っている事務所へのメッセージをお願いします。

ビジネスマナーは事務所の「顔」です。時には名刺よりも言葉遣いや所作のほうが記憶に残ることもあります。少し意識するだけでも事務所の印象は大きく変わるので、その最初の一歩を後押しする存在として研修を活用していただければと思います。

「登録する」をクリックすると、認証用メールが送信されます。メール内のリンクにアクセスし、登録が正式に完了します。

売上アップの秘訣や事務所経営に役立つ情報が満載
税理士.chの最新記事をメールでお知らせ