AI時代にこそ必須の「ロジカルライティング」
文章力が会計事務所の経営改善につながるわけ

複雑なビジネス環境において、論理的思考と正確な文章力は必須の能力です。特に、顧客とのやり取りや事務所内での情報共有がメールやチャットで行われることが増えた今、「読み手に正確に伝わる文章」の重要性は、会計事務所にとってさらに高まっています。
本記事では、ロジカルライティングの本質から組織にもたらすメリット、そして具体的な研修内容まで、コミュニケーションの専門家・唐沢明先生にお話を伺いました。

唐沢 明
コミュニケーションアドバイザー、大学講師、ビジネス作家 2010年より、企業・大学でビジネスマナー、コミュニケーション、言葉遣い、面接、キャリアのアドバイスに従事。実践的で分かりやすい講義を展開し、多くの新入社員・大学生からの人気を集めている。 著書に、10万部ベストセラー『さすが!と言われる話し方・聞き方のビジネスマナー』『敬語すらすらBOOK』など。また、TBSテレビ「クイズ!日本語王」「マツコの知らない世界」日本テレビ「シューイチ」などTV番組にも出演。学食研究家、トマト博士としても活動中。
― はじめに、ロジカルライティングとは何か教えてください。
ロジカルライティングとは、情報を筋道立てて整理し、相手に正しく伝わる形で文章化する技術です。
ロジカルシンキングが「物事を論理的に考える力」であるのに対し、ロジカルライティングはその考えを「文章でわかりやすく表現する力」といえます。
重要なのは、曖昧さを排除し、結論を明確に示し、文章を構造的に展開すること。SNSや日記のように書き手の自己表現を目的とするものではなく、ビジネスの場面で誰が読んでも誤解のない文章を作るための基本スキルです。
― 研修ではどのようなことを学ぶのでしょうか?
研修では、実務に直結する「読み手に伝わる文章の作り方」を学びます。具体的には、結論から書き始める構成、情報をリスト化・グループ化して整理する方法、冗長な表現をそぎ落として簡潔にまとめる技術などです。
また、グループワークでは作成した文章を相互に確認し、他者の視点からフィードバックを受けるプロセスを通じて自分では気づきにくい改善点を見つけます。こうした学びを積み重ねることで、日常のメールや報告書、企画書などにすぐ活かせる文章力が身につくのです。
― 会計事務所でロジカルライティングの能力が求められる場面を教えてください。
会計事務所の業務では、顧客に対し税制や数字を「正確に、かつ簡潔に」伝える力が不可欠です。たとえ難解な内容でも、筋道を立てて説明すれば、顧客も理解しやすくなります。
さらに、事務所内向けの文書でも同じ力が必要です。要点が整理されていないと伝達ミスにつながり、業務に支障をきたす恐れがあります。そのため、内容が論理的か、誤解を招く表現になっていないかを確認する姿勢が欠かせません。
― ChatGPTやGeminiなどの生成AIにより、文書作成は容易になりました。今後、人にロジカルライティングのスキルは不要になりませんか?
生成AIは便利ですが、文章作成をすべて任せるべきではありません。AIが誤った内容を出力した場合、その責任を負うのは利用者であり、AIではないからです。
大切なのは、人間が自ら論理を組み立てて文章を設計し、AIは補助的に活用するという位置づけです。AIが進化しても、情報を整理し、正確に伝える力といった人間のスキルの重要性はなくなることはありません。むしろ情報があふれる時代だからこそ、筋道を立てて必要な情報を取捨選択し、相手に分かりやすく伝える力の重要性は増しています。AIをうまく使いこなすためにも、文章の論理性や表現の適切さを判断できるロジカルライティングの力は今後も欠かせないのです。
― 研修はどのように進められますか?
研修は大きく分けて3つのステップで進行します。最初に、ロジカルライティングやロジカルシンキングの基本を学ぶインプットの時間を設け、論理的な思考や文章表現の基礎を理解します。
次に、参加者同士がお互いに書いた報告書や企画書を見せ合い、議論する実践的な「グループワーク」を通じて、自身の文章を客観的に見る力を養います。世代の異なるメンバーが混ざることで、多様な視点からの学びを得られます。
最後に、講師からの総評とフィードバックを受け、翌日から実践できる課題に取り組みます。
研修で学んだことを日々の業務で実践し、習慣化するためには継続が重要です。研修は2~3か月に一度のペースで実施し、メンバーや課題を変えながらスキルを高めていくことを推奨しています。
― 研修の受講者にはどのような変化がありますか?
受講後にまず見られるのは、自己流で書いていた文章が「自分目線」から「相手目線」へと切り替わることです。結論から明確に伝える習慣がつき、情報を整理して簡潔にまとめられるようになります。その結果、報告書やメールなどの文章が読みやすく、意図が伝わりやすくなるのです。
また、グループワークで他者からのフィードバックを受けることで、自分では気づけなかった癖や改善点が認識でき、表現の幅が広がります。
文章力の改善によって、仕事のスピードや正確性が高まり、チーム内のコミュニケーションがスムーズになることも大きな変化です。結果として、受講者自身の自信や成長実感にもつながっていきます。
― 研修導入によって、会計事務所をはじめとした組織にはどのようなメリットがありますか?
導入の最大の効果は、事務所全体に共通の「文章の基準」が根づくことです。誰が書いても一定水準でわかりやすい報告書やメールが作成されるようになり、情報伝達の食い違いや属人化が減ります。結果として、業務プロセスがスムーズになり、部署や拠点をまたいだ協働がしやすくなります。
また、文章力の底上げは外部に対する発信力の強化にもつながり、顧客や取引先からの信頼度向上に直結します。組織全体の生産性とブランド力を高める効果が期待できるのです。
― 研修の導入を考えている会計事務所に向けて、ひとことお願いします。
文章力の強化は即効性のある経営施策のひとつです。所長や管理職にとっても、職員から上がってくる文書の精度が上がれば、意思決定にかかる時間が短縮され、確認や修正に費やしていた労力を戦略的な業務に振り向けられるようになります。
さらに、若手や新人の育成の一環として導入すれば、教育コストの削減にもつながります。短期的には業務効率の改善、長期的には人材育成と組織基盤の強化につながる研修ですので、検討されることをおすすめします。