法務局が始めた遺言書保管制度とは(知って得する法律相談所 第4回)

弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英

2021/7/16

第4回 無効にならない遺言書とは~残された家族・事業承継者への最後のメッセージ~

7月10日から法務局で自筆証書遺言を保管するサービスが始まりました。「終活」という言葉が話題になっている通り、残された家族に対する最後のメッセ―ジとして 遺言書への関心が高まっています。

そこで今回は、新たに始まった自筆証書遺言の保管サービスの概要と、無効にならない自筆証書遺言の作成方法について、弁護士が解説します。

(1)法務局が始めた遺言書保管制度とは
実は、遺言書には何種類かあります。中でも、自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)は、作成自体に特別な手続きが必要ないため、簡単に作成できます。

しかし、簡単に作れるという便利な反面、遺言書作成者が亡くなり、相続が発生した際に、改ざんされたり、紛失・破棄されるといった不安や、実際にトラブルとな り裁判で争われたりするケースが相次いで発生しています。

そこで、新たに遺言書保管法が制定され、遺言書を巡る紛争防止のため、7月10日から自筆証書遺言を法務局で保管するというサービスが開始されました。このサービスの主な特徴は次の3点です。

① 法務局が遺言書を保管することにより、改ざんや紛失が防げる
本サービスは、法務局が遺言書作成者の代わりに、遺言書本体あるいは遺言書の画像を保管しておくサービスです。これにより、遺言書の改ざんや紛失などを防ぐこ とが可能になります。

※ 自筆証書遺言は、法律上の要件ではありませんが、改ざんなどを防ぐため、作成後、封筒に入れて封をするのが一般的です。しかし、このサービスを利用した場合 、法務局が遺言書の保管を行いますから、封印の作業は必要ありません。

② 家庭裁判所への手続が不要になり、相続に関する迅速な手続きが可能になる
自筆証書遺言は、効力が発生したとき、つまり遺言書作成者が亡くなったとき、家庭裁判所による「検認」という手続きの申し立てを行わなければなりません。これ は、遺言書の改ざんを防ぐため、家庭裁判所が相続人の目前で、遺言書の開封・確認作業を行う手続きです。

ところが、この検認作業は、家庭裁判所に申し立てから手続きに1か月ほどの時間を要することがあります。その間、遺言書を利用した諸手続き、たとえば預貯金の解約や不動産登記手続きはお預けとなります。この点、改ざんの恐れがない法務局への保管サービスを利用すれば、検認手続きは不要となりますので、相続の迅速な手 続きが可能になります。

③ 相続人が遺言書の閲覧を行うと、他の相続人へ通知がいく
法務局の保管サービスには、他の遺言書制度にはないメリットがあります。それは、相続人への通知制度です。

たとえば、相続人の一人が遺言書を発見した場合、自分に不利な内容が書かれていた場合、遺言書を破棄したり無視したりするおそれがあります。しかし、この制度 では、相続人の一部が法務局に対して遺言書の閲覧を行った場合、残る相続人にも通知がいく仕組みになっています。この仕組みにより、相続人が遺言書の存在を無 視したり破棄するといった問題を防ぐことが可能になります。※1、2

※1 遺言書作成者の生存中は、遺言書の閲覧ができるのは作成者本人のみです。
※2 遺言者作成者が亡くなった際、自動的に相続人へ通知が行くわけではありません。

(2)無効とならないための自筆証書遺言のポイント
自筆証書遺言が無効とならないためには、預貯金の名義や不動産の表記など財産目録に関する部分以外はすべて自筆で作成する必要があります。しかし、それ以外に も大切なポイントがあります。次に、よく相談される事柄について見ていきましょう。

① 遺言書の全文や日付、氏名の自書が必要
自筆証書遺言は、第三者の立ち合いなどが不要ですから、実際に本人が作成したものであるかを確認するために、自書する必要があります。そのため、パソコンなど で作成した遺言は自筆証書遺言としては認められません。また、条文上「自書」と明記されているため(民法第968条1項)、いわゆる動画形式の遺言書では要件を満 たしません。

また、「自書」とは、遺言書作成者本人のことを指します。ただし、高齢のため手が震え、うまく字が書けないなどの事情がある場合には、家族などの第三者が添え 手をする程度であれば問題ありません。

② 遺言書を作成した日付の自書が必要
遺言書作成時に遺言能力があったかの判断や、複数の遺言が見つかった場合、どちらが有効であるかの判断材料となるためです。なお、日付については、たとえば、 「東京オリンピック開会式の日」といった第三者が特定できる記載であれば構いません。

③ 氏名の自書および押印も必要
必ずしも戸籍上の氏名である必要はなく、本人の特定ができればペンネームなどでも有効になるとされています。また、押印についても、実印でなくとも、認印や拇 印による押印も有効です。

④ 夫婦共同遺言の禁止
注意しなければならないのが、1つの遺言書にはひとり分の意思しか反映されないということです。法律相談の現場において、夫婦が併せて1通の遺言書を作成し、
・夫が先に死亡した場合は、全財産を妻に相続する
・妻が先に死亡した場合は、全財産を夫に相続する
といった内容の遺言書を見かけることがあります。

しかし、このような夫婦の二人の意思が1通の遺言書で反映されている遺言書は認められません。

その他、自筆証書遺言のポイントについては、法務局のホームページなどにも記載例がありますので、作成前に確認してみるのもよいでしょう。

(3)事業承継を考えている方は気をつけましょう
遺言書を作成・保管するにあたり、法務局の保管制度を利用したり、ホームページの記載例などを参考すれば、漏れのない遺言書を作成することはできます。しかし 、これはあくまで形式的に有効であるにすぎません。

たとえば、会社経営者が事業を相続人以外の誰かに承継させたいと考えている場合、会社の株をできるだけその承継人に保有させた方が、会社の経営上スムーズな運 営が可能になります。

一方で、相続人以外の第三者に財産を相続させたり、特定の法定相続人にだけ、法定相続分以上の財産を相続させる遺言書を残した場合、相続が「争続」になるよう な危険性があります。

遺言書を残す目的は、本人の最後の意思を明らかにするとともに、相続問題を未然に防ぐことにあります。

現時点では、法務省は自筆証書遺言の保管自体は行いますが、遺言書作成に関する相談などの業務は行なわない方針です。残された家族への最後のメッセージをきち んと残すためにも、弁護士などの専門家に相談することも検討してみてください。

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