少額訴訟の活用【前編】<企業経営者へのアプローチに役立つ法律講座 第7回>
鳥飼総合法律事務所 弁護士
佐藤香織
2021/10/20
第7回 少額訴訟の活用【前編】
1 裁判は大変!?
例えば、ある会社で、「うちの会社の商品を売った先が、代金30万円をなかなか支払ってくれない。回収したいけど、それほど大きな金額でもないしなあ・・・」というようなことが起きたとします。
こういうときに法的に何かできないか、というのが今回のテーマです。
売買代金の回収をしようというときは、まず内容証明郵便で請求して、それでも支払ってもらえないときは裁判を起こす、という方法が典型的です。
ただ、裁判は時間もかかるし、弁護士に依頼すると費用もかかるし、結果として回収できなければ費用を払う分だけ会社が赤字になってしまう・・・、などを考えて、躊躇する場合もあるかもしれません。
そういうときに検討してみたい制度が、「少額訴訟」という手続きです。
2 少額訴訟とは
まず、少額訴訟は、「60万円以下の金銭の支払」を求める場合に限って利用することができます。つまり、60万円を超える金額を請求したいときは、少額訴訟は使えません。
この訴訟は、各地の簡易裁判所に、訴状を出して提起します。
少額訴訟は、簡易迅速に紛争を処理することを目的とするものです。
そのため、通常の民事訴訟手続とは異なる点があります。
まず、1つ目の異なる点は以下です。
(1)裁判所は、原則として、1回の期日で審理を終えて、即日、判決する
このように、少額訴訟は、原則として1回の裁判期日で終了する、という特徴があります。
一方、通常の訴訟は、1回では終わらず、数回の期日を重ねます。当事者双方が期日ごとに交互に主張や証拠を出し合いますし、皆さんもテレビなどで見たことがあるかもしれませんが、当事者や関係者が、裁判所で裁判官の前に立って「尋問」の期日を行うこともあります。
こうなると、判決が出るまで何か月もかかります。事案によっては、判決まで1年以上かかることもあります。
それに比べて、「少額訴訟は原則1回」ということなので、いかに早いかがわかります。
訴える人(原告)からすれば少額訴訟はいい方法なのですが、訴えられた人(被告)にとっては、1回で簡単に結論がでる話ではなく、反論はしっかりしたいし、もっといろいろな証拠も出したい、という場合もあるでしょう。
そういうときのために、通常の民事訴訟と異なる点の2つ目として、以下があります。
(2)少額訴訟で訴えられた人(被告)は、訴えられたことがわかってから、最初の第1回目の期日で自分の言い分を主張するまでの間に、「少額訴訟手続ではなく、通常の訴訟手続で審理してほしい」と裁判所に求めることができる
少額訴訟は、先ほど説明したように、「簡易迅速な紛争処理」が目的です。
ただ、簡易迅速が適さない事案もあります。そのため、訴えられた人(被告)は、通常の訴訟を選択できることになっています。
次に、通常の訴訟と異なる点の3つ目です。
(3)少額訴訟手続によって裁判所がした判決に対して不服がある人は、判決又は判決の調書の送達を受けてから2週間以内に、裁判所に対して「異議」を申し立てることができる
↓
「異議」があったときは、裁判所は、通常の訴訟手続によって、引き続き原告の請求について審理を行い、判決をする
↓
この判決に対して控訴(地方裁判所に対する不服申立て)はできない
通常の訴訟は、①地方裁判所の判決→②判決に不服があれば高等裁判所へ控訴して高等裁判所の判決→③判決に不服があれば最高裁に上告・上告受理申立て、という手続きになります。
しかし、少額訴訟は、判決に不服がある場合の手続も簡便にしているという特徴があります。
次回は、少額訴訟の活用【後編】として、自分で少額訴訟を起こすときについて説明いたします。