第三者間の取引とは<深読み 最新税制レビューVol.3>
佐藤信祐事務所 所長 公認会計士・税理士 博士(法学)
佐藤 信祐 先生
2023/3/24
業界屈指の専門家である佐藤信祐先生が、さまざまな税制や組織再編等に関する新しい論点・最新情報、少しマニアックな税務トピック、判例裁決事例など、独自の視点で解説します。
租税法では、時価と異なる価額で取引がなされた場合の課税関係が問題となる。これに対し、M&Aのように、利害の対立する第三者間の取引であれば、租税法上も時価として認められることが一般的である。ただし、実務上、①本当に第三者間の取引と認められるかどうか、②第三者間の取引であれば、常に時価と認められるのかという点が問題になる。
上記①については、「血縁関係や資本関係がない」という理由だけで第三者間の取引であると主張しようとしても、取引関係や雇用関係があれば、合理的な譲渡価額の算定を歪める要素があり得るため、第三者間の取引と認定できないことも少なくない。すなわち、従業員、取引先、仕入先、提携先、下請先などは、純粋な第三者とはいえないため、純粋な第三者の範囲は極めて狭いと思ったほうが良いと考えられる。
次に上記②だが、これについて意外に思われる方もいるかもしれない。実際にあった事例としては、時価100の株式を10で購入しておきながら、残りの90を費用に計上する形で譲渡人に支払おうとした事案があった。租税法上の問題だけでなく、他の問題が大きすぎることから、結果的に実行されなかったが、第三者間であっても、容易に時価と異なる価額で取引がなされてしまうリスクを感じた事案であった。
また、会計監査の研修で取り上げられる事例として循環取引が挙げられるが、どんどん売掛金や在庫の金額が引き上げられていくため、その解消のために時価と異なる価額で不正な取引がなされることが考えられる。さらに、週刊誌に挙げられていたハコ企業の事例では、増資を引き受けた企業の関係者に増資資金が流れていたが、その増資資金の流れが不透明であれば、租税法上も純粋な第三者間取引とは認められず、損金の額に算入できないことも考えられる。
このように、時価と異なる価額で取引がなされる事案として、①贈与の意図がある場合、②不利な取引を許容せざるを得ない場合、③不正な取引がなされている場合の3つが挙げられる。
さらに、海外で取引がなされている場合には、日本で時価と異なる価額で取引を行いながら、海外でその補填がなされることも考えられる。外国企業が日本に進出する場合や外国人が日本でビジネスを行う場合には、日本の税理士に部分的な情報しか与えられないことが多いため、特に慎重な対応が必要になる。