立体的形状からなる商標<経営戦略のための知財Vol.23>

特許業務法人 浅村特許事務所
会長・弁理士 金井 建

2022/3/11

M&A、経営戦略、融資判断などで知的財産の占める割合が高まる中、その経済的価値を把握することは企業にとって必須です。そこで、業務に最適な知的財産価値評価サービスを提供している浅村特許事務所の金井建先生が、経営に役立つ知財の活用法について解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.100(2022.2)に掲載されたものです。

知財におけるマーケティング戦略⑧


ブランド戦略 8
【立体的形状からなる商標 1 】
立体商標でも、ハウスマークや商品名等がついていない容器などのシンプルな立体的形状からなる商標は、登録が非常に難しくなります。立体的形状のみで識別力を有しなければならないからです。

一般に、立体的形状からなる商標を登録するためには、その立体的形状のみで需要者に特定の会社の特定の商品と認識される必要があります。そのためには、長年にわたりその立体的形状からなる商品を生産販売し、使用し、広告し続ける等の膨大な出費を伴う企業努力が必要になります。



上図①の醤油瓶も自社名等の情報が容器に付いていません。どうでしょうか? この図からキッコーマンの卓上醤油瓶と分かりますね。

この醤油瓶で商標登録するためには、需要者がこの立体的形状からキッコーマンの卓上醤油瓶だと識別できることが必要となります。

キッコーマンも先述の企業努力を行った結果、需要者は容器を見ただけでキッコーマンの卓上醤油瓶であると分かり、他社の卓上醤油瓶と識別できるようになりました。

登録に際しては、識別力を有するとしたアンケート結果の提出が必要になる場合があります。不特定の人に立体的形状のみの図や写真、実物を見せ、その大多数の人が特定の会社の特定の商品であると認識するか否か、この醤油瓶の場合であれば、キッコーマンの卓上醤油瓶と認識できるか否かを客観的に調査します。

そして、ほぼ大多数の方が特定の会社の商品と認識したアンケート結果をもって、立体形状からなる商標に識別力があることを立証します。

なお、この卓上醤油瓶は立体商標として登録されています(この卓上醤油瓶の立体商標の出願代理は、浅村特許事務所が行いました)。

図②の容器はどうでしょう? ヤクルトのプラスチック容器と分かりますね。

しかし、プラスチック容器のみで出願した1997年当時は、立体的形状を保護する制度の運用が開始されたばかりで、特許庁は立体的形状のみからなる容器商標については登録を認めていませんでした。

そのため、この立体的形状からなる容器は、審査では商標登録が認められず、最高裁まで争いました。しかし、識別力は認められませんでした。

なお、容器に「ヤクルト」の名称が入った図③の容器の立体商標は、あっさりと登録されています。ヤクルトの文字自体が識別力を有する結合商標として認められたためです。

ヤクルトは、プラスチック容器のみで再度出願を行いました。しかし、今回も特許庁では登録を認めませんでしたが、知財高裁でついにプラスチック容器形状のみで識別力があると判断され、その結果登録になりました。図④のコカ・コーラのボトルの立体的形状が約6年かかった末に知財高裁で初めて識別力があると判断され、商標登録できたこともこの判断に影響したものと思われます。

当時、ヤクルトプラスチック容器に似た容器を用いた他社製乳酸菌飲料が市場に多く出回っていたため、このプラスチック容器だけではヤクルト容器であると判断しづらく、一方ヤクルト側からすれば、何としてでも立体的形状のみで商標登録をしておく必要があったことが、この事件の背景にあります。

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