税理士賠償責任保険の事故事例を見て＜税理士のヒヤリ・ハット体験談 第20回＞

税理士法人 古田土会計 社員税理士
土田大輝

2021/11/29

第２０回　税理士賠償責任保険の事故事例を見て

今月は、税理士賠償責任保険から届いた年度報告と事故事例集を拝見したところを、記事にします。

自動車に任意保険があるのと同じように、事故が起こったときにそれを補償する保険が、税理士業務においてもあります。ご存じの方も多いのではないでしょうか。日本税理士会連合会とその傘下法人の株式会社日税連保険サービスから、毎事業年度（6月が各期の締めになっています）ごとに、保険金支払い状況や事故事例が冊子になって届きます。我々の税理士法人は、この届いた冊子を全員回覧して、事故事例つまりはヒヤリハットを共有しています。まずは、保険にご加入の方におかれましては、事務員さんを含めた全員での共有を強く推奨します。
 
保険金支払い状況の分析
保険金支払いについて、支払件数と支払金額は推移で年度ごとに、支払件数についての金額内訳については当年度（2020年度）の件数が報告されます。
支払件数は2015年度から示されていますが、2015年425件が2017年に527件となり、その後年間500件台で推移しています。
支払金額については2015年が16億8,000万円（425件）であるのに対して、2020年度は22億5,600万円（503件）でした。
件数・金額ともに増加しているとともに、1件当たりの平均額も増加していることがわかります。2020年度の金額内訳をみると圧倒的に500万円以下の支払いが多い（408件：全体件数の81%）ですが、1件で2億8,900万円の大型支払もあり、単純に平均的に支払金額が増えたとは言い切れないです。
この冊子は2015年からのデータが示されているのですが、インターネットで検索すると、それ以前のデータも見ることができました。2013年は261件で支払金額7億4,600万円ということですから、一気に近年増加していることがわかります。

保険は大きな事故があったときに、取り返しのつかない状況になるリスクをヘッジするもの。税理士業務が大きなリスクを背負いながら行われているということですが、ここ数年はその金額も多額化しており、この保険の存在意義はどんどん高まっていると思います。
 
事故事例を分析　～やはり消費税が圧倒的多数！～
保険金の支払われたのは、どの税目が最も多かったのでしょうか。皆さんの察しはついているかと思いますが、他の税目の群を抜いて『消費税』でした。
さらに見てみると、消費税の各種届出書の提出失念によるものがその多くを占めます。届出書には提出期限があるので、法律解釈など介入する余地もなく、期日を徒過したら即アウトというものになります。

個別事例を見ると、
・税理士が関与をした直後のケース
・新規設立法人のケース
・一度事業を廃止した個人の新規事業開始のケース

といった、普段の状態ではないケースにおいて、ミスが多く発生しています。このような局面では、より一層注意していきましょう。
お客様は消費税の複雑な課税関係に明るいといえませんので、この消費税の問題は税理士がしっかりとサポートして差し上げなければいけません。
 

消費税について、今回の事例ではありませんですが、こういうケースも考えられますので、ご確認下さい。
 
【みなし譲渡による消費税申告漏れ】
個人が事業をしていたところX1年において廃業をされました。X1の消費税の申告において、この廃業に伴う不動産の自己使用化での『みなし譲渡』が漏れていることが発覚しました。このような事例は新聞の記事によると、会計検査院の指摘があり公になっているもので、2015～17年に廃業した約800事業主のうち、約300事業主において該当があったとのことです。
この事例を聞いたときに、みなし課税は恐ろしいと鳥肌が立ちました。
 
なぜ売ってもいないのに課税されるのかは、
「消費税は個人に対しては“事業”に関するものに限定して課税しているが、廃業後に譲渡することによる課税逃れを防止するため」が立法趣旨と解釈しています。
とはいえ、その水際の出口で課税されるわけですから、知っておかなければ怖いです。
 
まとめ
やはり消費税のヒヤリハットが一番多く、恐ろしい税法であることが再認識できました。
しかしこのミスによって保険が“受け取れる”・“受け取れない”は別にして、お客様に大きな金額と精神的な打撃を与えてしまうことになります。
我々顧問している税理士においては、お客様との信頼関係に傷がつくことにもなります。
この事例をしっかり勉強して、事前に事故を防げるように研鑽と情報共有をしていかなければいけないです。


出典：
税理士職業賠償責任保険　事故事例
2020年7月1日～2021年6月30日
～株式会社日税連保険サービス～