うちの会社の“株価”は、いくらなの?<税理士のヒヤリ・ハット体験談 第16回>
税理士法人 古田土会計 社員税理士
土田大輝
2021/9/30
第16回 うちの会社の“株価”は、いくらなの?
例年この時期になると、国税庁HPより
① 『令和3年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について』(6月)
② 『令和3年分の路線価図・評価倍率表』(7月)
がそれぞれ公開されます。
この2つの指標は、言わずもがな、非上場株式の財産評価などに用いるものです。今年はいつになく自社株式の承継について、お客様の興味関心が高いと感じています。というのも、コロナ禍により思うような業績を上げることができなかった会社は、例年に比べ評価額が低くなる可能性があるからです。業績悪化の産物というのが不本意かもしれませんが、この機会に自社株式の評価をして、贈与などで自社株式を承継していくことも、時流なのかもしれません。
今回は、この自社株式の評価にあたって、その取扱いの複雑さを皆さんで共感しましょう。
~税法?施行令?通達?国税庁HP?どこに正解が???~
ヒヤリハットを考えていると、その発生の原因の一つが、課税上の取扱いが法律だけでなく、色々な所に示されていることから、一般に分かりづらさを感じてしまうことにあると思っています。(あくまで原因の一つですが)
【評価を難解にさせる要因の一例】
①そもそもどの税法?
今回とりあげた自社株式の評価についても、その対象が
・個人の贈与や相続?(相続税法)
・個人から法人への譲渡?あるいは法人間の取引?(所得税法・法人税法)
によって、当たる税法が違ってきます。入口から違うということもあります。
②評価通達だけで完結しない計算
また、評価の具体的なやり方は『財産評価基本通達』に載っていますが、この通達にもかなり細かい取扱いまで載っていますが、それで全てでないということが厄介です。そもそも通達は税法や政令でカバーできない取扱いを「通達」という形で法解釈を助ける役割を担っていますが、さらに場合により国税庁HPの質疑応答などで補っているのが現状です。
③税法につきものの「税法改正・通達改正」
税法はその時と場合により、過去幾度となく改正がされてきました。「昔勉強した時は違ったのに」は、むしろ危険です。常に情報のアップデートが求められます。
④会社の状況は年々変化していく
過去の仕事を疑うということです。以前評価した際の会社の状況と、今とは違っている可能性が高いです。必ず今の会社の状況を見つめることです。
【事例検証】ある会社の株式評価において発生したトラップ
①会社の業種選択を誤るな
ある会社の贈与税の評価額の計算を依頼されたときの事例です。その会社は製造業を行うほか、それに関連する商材を卸売りする事業部がある、兼業の会社です。
前回評価した時は製造業としての評価額が出されていました。しかし、このところの会社の業績は、卸売り事業がけん引しており、社名こそ「〇〇工業株式会社」となっていますが、現在は商社の色が濃くなっています。法人税申告書の別表一には、製造業が業種目に記載されていました。
この会社の評価をするにあたって、正しく『卸売業』の業種を選択することが、肝心です。
②最近は組織再編がトレンド
この会社、実は卸売業が伸びた要因は、他社と合併したことによるものでした。ある書籍に、合併が直近にあった場合、類似業種比準価額が”原則として”採用できないという記述があります。財産評価通達にも国税庁HPにも載っていない取扱いなのですが、大手実務参考書籍において、その考え方も含めて載っています。
これは非常に曖昧で、かつ裁判例・裁決例がないため、悩ましいです。
③製造業特有の特別償却で、帳簿価額が大幅圧縮
製造業は設備投資が多い業種と言えます。最近の税制では、一定の要件・手続きを経た場合、その償却を『即時償却』、つまり初年度に100%償却できる制度があります。一般的にその対象資産は多額になる傾向があり、製造業にとって、制度の恩恵を受けていると言えます。
この場合この会社の貸借対照表は、一見すると機械などの固定資産の額が少なくなっていますが、即時償却によるものがあれば、それを通常の償却に引き直して評価する必要があります。
④業績の良い会社は、営業権の検討を!
会社の財産を評価する場合、貸借対照表に載っている資産以外にも、いくつかの財産の有無を検討しなければいけません。
その一つが(財産評価通達上の)営業権です。つまり、その会社の超過収益力を評価します。通達に計算方法が示されていますので、業績の良い会社は営業権が発生するか検討する必要があるでしょう。以前評価した時には計上されなかった場合でも、計上する必要があるかもしません。
【結び】調査では名義株主の認定が中心
まだまだたくさん評価上留意する点はあります。非上場株式の評価は奥が深く、そしてトラップも豊富です。是非社内の研修などで、皆さんのヒヤリハットの共有をして、経験値を高めていってほしいです。
なお、これで算定される金額は、主に相続税・贈与税の課税のための評価額です。『株価』とよく言いますが、値段(プライス=この金額でなければ取引できないもの)ではないことを、私はよく現場でお客様にお伝えしています。その立場、状況、相手関係等によって色々な評価があるので、さらに奥が深いことがわかります。
最後に、税務調査では会社の株主名簿や法人税申告書別表二を、はなから疑って調査されます。いわゆる“名義株主”を判断し、真実の所有者を認定したところで、申告漏れを指摘してきます。評価の話以前の問題です。実は、これが一番の『ヒヤリハット』なのかもしれません。