最近の租税回避に関連する裁決例について<深読み 最新税制レビューVol.13>

佐藤信祐事務所 所長 公認会計士・税理士 博士(法学)
佐藤 信祐 先生

2024/1/26
業界屈指の専門家である佐藤信祐先生が、さまざまな税制や組織再編等に関する新しい論点・最新情報、少しマニアックな税務トピック、判例裁決事例など、独自の視点で解説します。

現在、東京地裁及び大阪地裁において、3つの事件が争われている。すなわち、東京国税不服審判所裁決令和2年11月2日TAINSコード:F0-2-1034(東裁(法)令2第30号)、大阪国税不服審判所裁決令和4年8月19日判例集未登載(大裁(法・諸)令4第5号)、東京国税不服審判所裁決令和5年3月23日判例集未登載(東裁(法)令4第101号)である。

これらの事件は、TPR事件(東京高判令和元年12月11日TAINSコード:Z269-13354)に類似していることから、もし、納税者がTPR事件の判旨が正しいものと認識したのであれば、事業目的と税負担の減少目的のいずれが主目的で行われた組織再編成であるかどうかだけが争いになるため、1つか2つが地方裁判所に提訴されることはあっても、3つとも提訴されることはないはずである。それにもかかわらず、3つとも地方裁判所に提訴されているのは、TPR事件の判旨が平成22年度税制改正後の事件にまで射程が及ばないとする見解が少なくないからであると推察される。

とりわけ大阪国税不服審判所裁決令和4年8月19日では、事業の移転及び継続が必要か否かを検討せずに、「法人税法第57条第2項は、合併の前後を通じた経理方法の一貫した同一性を認めることができることを前提に欠損金額の繰越控除の特典の承継を認めた規定であると解される。」「法人税法第57条第2項は、例えば、適格合併が企業グループ内の法人の有する未処理欠損金額の企業グループ内の他の法人への付替えと同視できるものであるなど上記適格合併の場合に未処理欠損金額の引継ぎを認めることとした前提を欠くような場合にまで、未処理欠損金額の引継ぎを認めることを想定した規定ではないと解するのが相当である。」と判示された。

今後、このような争いが生じないようにするためには、完全支配関係内の組織再編成であっても事業の移転及び継続が必要である旨の税制改正を行うことで、立法的な解決を図ることが望ましい。ただし、税制適格要件の判定において、完全支配関係内の組織再編成であっても事業の移転及び継続が必要であるとするのは、グループ法人税制が導入された現行法には馴染まないという問題がある。

上記の事件で問題とされている租税回避に対応する立法的な解決としては、法人税法57条2項に規定されている繰越欠損金の引継ぎにおいて、適格合併の場合に限り、事業の移転及び継続が必要である旨を追記すれば足りることから、そのような改正を行うべきであると考えられる。

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