SDGs時代の価値観<中小・中堅企業のためのSDGs入門 Vol.12>
金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎
2021/7/17
Vol.12 SDGs時代の価値観「安定よりも変化を優先」
前回お伝えしたとおり、経営者自身がSDGs時代に適した成長・変化をするためにはまず優先順位の変更が必要です。今回は、3種類の優先順位の変更のうち、「安定よりも変化を優先」に焦点を当てて解説をしたいと思います。
企業経営者であれば安定的な経営が行われることが望ましいと考えている方は多いと思います。しかし、変化せずに安定的な経営ができる状況は少なくなってきてい ます。なぜならば、市場環境が激変しているからです。例えば、新型コロナウイルス感染拡大によって多くの企業が変化を求められました。大きな打撃を受けた旅行 業界、飲食業界で何も変化をせずに安定的な経営が行えた企業があったでしょうか? 残念ながら私が知る限りでは存在しません。
他方で、上手く変化したことで結果として新型コロナウイルス感染拡大前以上に良い業績を上げた企業は多く存在します。そうした企業は外から見ると大きな変化を しているように見えますが、中の動きを知ると実に丁寧な積み重ねによる変化を実現しています。例えば、他がこういう新しいことをやっているから自分たちもやろ う、という考えでは決して動いていないのです。世の中がザワつき、色々な新たな動きが始まる中で、本当に人々が困っていることはなんだろうか? と立ち止まって考えています。その一方で、考えすぎることなく、自社の理念や行動原則に沿った行動かどうかを判断軸とし、行動できることはすぐに行動します。そして、その行 動の結果として得た新しい情報をもとに改めて本当に人々が困っていることが何かを考え直すというサイクルを実現しています。結果として、気づいたころには大き な変化がなされ、業績が急速に向上するのです。
社会が大きく変化する際に、自社が大きく変化をすることで業績を伸ばすといった手法は、ビジネスチャンスをつかむ王道の手段として確立しつつあります。実際に 、2020年9月にジャパンSDGsアワード受賞組織に行ったアンケート・インタビュー調査でも、SDGsを先進的に取り組んでいる組織は、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け困っている人々に短期的な利益を度外視して真摯に向き合い支援していることが分かりました。こうした企業は、コロナ禍において新たに発生した課題や人 々の価値観の変化を即座に把握し、新たなニーズに対応する取り組みを迅速に生み出すことに成功しています。
分かりやすいところで言うと、教育×ITの分野の例があげられます。2020年3月に全国での一斉休校が決まり学びが止まる危機が生じた時、関係企業はすぐに無償での 支援を開始しました。そして、行動しながら改善を繰り返した結果として顧客がサービスの良さを実感し、学校が再開された後、有償顧客の数が急増したのです。ま た、こうした変化に社会が追いつき、いまでは文部科学省のGIGAスクール構想の前倒し実施による大きな追い風が吹いています。
変化の時代における経営者は、安定を求めると逆に不安定となり、変化を求めることにより安定が得られるという新しいルールを意識することが必要なのです。
次回は、「競争よりも共創を優先」について説明いたします。