アンラーニングによる常識の再構築<中小・中堅企業のためのSDGs入門 Vol.7>
金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎
2021/12/17
このコラムでは、SDGsビジネスの第一人者である平本督太郎先生が、国際社会の共通目標である「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」について中小・中堅企業の【実践編】として戦略策定の考え方や事例をわかりやすくご説明します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.98(2021.12)に掲載されたものです。
「社会変化で機会を掴む」ための企業戦略で既存事業を拡張する③
今回は「②既存事業の拡張」アプローチのチャネルのアップデートについてお伝えします。
いよいよ既存事業の拡張段階としてチャネルをアップデートします。このときに重要になってくるのが、アンラーニングによる常識の再構築と、PUSHマーケティングとPULLマーケティングの組み合わせによるチャネル開拓戦略です。
まずアンラーニングによる常識の再構築です。これまでの事業目的のアップデートと社会インパクトのアップデートにより、既存事業が拡張し、新たな社会インパクトを生み出せるようになりました。そして、それは同時に、自社が有する既存のネットワーク上には顧客やステークホルダーがいない可能性があることを意味します。そのため、既存の販売チャネルでの常識を一度忘れ、新しい顧客・ステークホルダーと出会い、そこでの常識を新たにインプットする必要があります。コミュニケーション上で用いる重要なキーワード、用語に込められた意味やその背景、交渉やビジネスの作法、意思決定の方法、各組織における優先順位等の行動原理、業界や業態が変わるとありとあらゆるものが、あなたの知っている常識とは異なる場合があります。そのため、今までの成功体験や常識をアンラーニングし、謙虚な姿勢で0(ゼロ)から学習することが出来るかどうかがチャネルのアップデートには欠かせません。
常識の再構築をする覚悟ができた上で、まっさらな気持ちでPUSHマーケティングとPULLマーケティングの組み合わせによるチャネル開拓戦略に取り組みます。PUSHマーケティングは自分からアプローチしていく方法で、PULLマーケティングは相手が近づきやすいような工夫をした上でアプローチを待つ方法であることです。
まず、PUSH戦略で顧客やステークホルダーが一体どこにいるのか、何を求めているのかを確認していきます。具体的には、展示会への出品、自社のソリューションを必要としていると思われる組織や組織の集まりへの訪問・対話・活動支援、専門家とのインタビューやディスカッション、関連するビジネスコンテストに出場・入賞等を繰り返し行います。ここで自社製品を売り込んではいけない点が重要です。どうしたら地球規模課題の解決のために自社の製品が役に立つのか、それを多くの方々にアドバイスしてもらうという姿勢が重要なのです。自分を評価して欲しい、自分が儲けたいと言っても誰も支援してくれません。しかし、人類共通の課題を解決したいと言えば連携して何か出来るかを考えてくれます。不思議なことにPUSHマーケティングで儲けようとせず、真摯に課題解決に向き合えるほど、PULLマーケティングで儲かるチャンスが増えていくのです。
SDGsはビジネスの常識を変えます。これまでの経済重視の社会では、良い人が損をする、ズルい人・強引な人が得をする、そんなことが多くあったかもしれません。それで悔しい思いをした人もいるでしょう。しかし、SDGsをきっかけに、良い人が得をする・良いことをしたほうが結果として自分が得をする、そうした社会がどんどんと拡大しつつあります。そうした社会の変化の追い風を受けられるかどうかはあなたの決断次第です。次回はPULLマーケティングと企業事例について紹介いたします。