リスクマネジメントとしての共進化について解説<中小・中堅企業のためのSDGs入門 Vol.11>
金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎
2022/4/15
このコラムでは、SDGsビジネスの第一人者である平本督太郎先生が、国際社会の共通目標である「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」について中小・中堅企業の【実践編】として戦略策定の考え方や事例をわかりやすくご説明します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.102(2022.4)に掲載されたものです。
「社会変化によって追い込まれない」ために
企業戦略でサプライチェーンを改善する③
今回は、リスクマネジメントとしての「共進化」について解説します。以前、お伝えしたリスクマネジメントの4つの内、③下げる、④チャンスに変換する、の2つには「対話」が有効です。
まず「③下げる」です。これは、サプライチェーンの構造を変えることにより、気候変動起因の災害のような地球規模課題に対する経営リスクを下げるということです。例えば、集中・効率化を重視し構築していたサプライチェーンを、分散化・多様化を重視する考え方で構築するとともに地球規模課題に対する強靭さを組み込んでいくという手法があげられます。
「共進化」というのは、経営学において、異なる組織がお互いの能力を高めあいともに発展することを指します。上記の例で行けば、サプライチェーンの再構築時に共進化を生み出すことが出来れば、ただ分散させるだけではなく、強靭化も可能になります。
例えば、世界的に有名なアメリカの製菓メーカーのマースは、1990年代半ば、ブラジル北東部にあるカカオ豆農園が気候変動の被害に遭い、チョコレートの生産量が4分の1にまで急減するという経験をしました。そこで、1998年ごろから安定供給のためにカカオ豆農園を世界中に分散させました。また、同時に、生産に適した生態系の改善や適切な栽培方法を学ぶ研修機会を設け、さらに、小規模なカカオ豆農家の生活水準の向上を目指す包括的な取り組みを行うことで、気候変動等の大きな変化にも対応できるサプライチェーンの強靭性を向上させました。小規模なカカオ豆農家に注目した取り組みには、米国の援助機関であるUSAIDや国際農業開発基金(IFAD)等の様々なパートナーの支援を受けることが出来、自社単独では推進できない規模での展開を可能としています。
次に、「④チャンスに変換する」です。これは、サプライチェーンのリスクを逆にチャンスに捉えることで、事業の成長を実現するということです。気候変動起因の災害のような地球規模課題は全人類にとってのリスクとなります。そのため、サプライチェーン上のリスクを軽減しようとあらゆる企業が活動します。こうした取り組みをビジネスチャンスととらえるのです。例えば、以前ご紹介したアップル社の例として、アップル社が自社のサプライチェーンを担う企業にサプライチェーン全体での再生可能エネルギー100%利用の実現を促した際に、迅速に対応した日本企業が高く評価され、競合企業が多くいる中で契約を締結することが出来たということをお伝えしました。
上記の例は2017年の出来事でしたが、いまや同様の取り組みは拡大をしており、日本の地銀を含めた金融機関でも、自社の投融資先の気候変動対策を管理することが金融機関自体の気候変動対策としての評価対象になるという状況になりつつあります。そのため、金融機関は率先して対策を進める企業に対して様々な優遇施策を打ち出すようになってきていますし、投融資先企業が気候変動対策を行いやすいように国や自治体の補助金を獲得するための支援等も行うようになってきています。
こうした動きは事業会社にとっては、事業を発展させるためのチャンスになってきています。自社のリスクにだけ注目するのではなく、他社のリスクに注目し、そのリスク軽減のために活動することこそが新たなビジネスチャンスの創出につながるのです。
これまで、「社会ニーズの変化がきっかけ」となる企業戦略の仕組みについて説明してきました。次回は、「社内の危機感の高まりがきっかけ」となる企業戦略の仕組みについて説明します。