PULLマーケティングと企業事例について<中小・中堅企業のためのSDGs入門 Vol.8>
金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎
2022/1/21
このコラムでは、SDGsビジネスの第一人者である平本督太郎先生が、国際社会の共通目標である「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」について中小・中堅企業の【実践編】として戦略策定の考え方や事例をわかりやすくご説明します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.99(2022.1)に掲載されたものです。
「社会変化で機会を掴む」ための企業戦略で既存事業を拡張する④
今回も「②既存事業の拡張」アプローチのチャネルのアップデートについてお伝えします。今回は、PULLマーケティングと企業事例について紹介いたします。
PUSHマーケティングにより、顧客やステークホルダーが一体どこにいるのか、何を求めているのかがわかったら、次はその人達が普段接点を持っているメディアや組織を通じて、自分しか有していない情報を定期的に発信しましょう。例えば、自分が実際に行っている活動のプロセスや結果として起きた変化を具体的に、時にはデータを用いて定量的に発信します。そうすると、いつの間にか自分の取り組みに興味を持った人・組織や、他の誰でもなく自分と一緒に活動したいと思ってくれる人、そうした人々が近寄ってきてくれるようになります。こうした状況が発生し始めると、自分たちが活動しやすい環境で物事を進めていけるような案件が増えていきます。資金的に余力がある組織の場合は、好条件での取引を提示してくれるようになるでしょう。
PUSH戦略で始めから自分だけが儲かるように動いていくと、最終的には自分よりも大きな力を有している組織から買い叩かれ、厳しい条件のプロジェクトしか生じなくなっていきます。しかし、逆に社会が求めていることに真摯に向き合い、あとでPULL戦略により結果として利益が上がるような状況を作り上げていくと、競合との苛烈な競争をしなくてもよくなり、利益率の高い事業が創出されるようになります。
以前紹介した廃棄瓦をリサイクルし道路舗装材事業を展開しているエコシステムは、まさに前述のような非常に良い事業環境にたどり着いている企業だと言えるでしょう。エコシステムの高田社長は地球規模課題の解決に真摯に向き合い、自分が現地現物で得た情報を積極的に情報発信し共有しています。そして、それを国内だけではなく、海外に対しても行っています。実際に海外に行き、日本から情報を発信していても情報が届かないような人も積極的にアプローチしています。そうした活動によって、日本政府や海外政府、大学、国際機関等、様々な人がエコシステムの取り組みに関心を持ち、高田社長の代わりに、世界に誇る日本の中小企業の素晴らしい挑戦だと情報発信してくれるようになりました。例えば、経済産業省の「日本企業による適応グッドプラクティス事例集」といったような日本企業の取り組みを日本国内や海外にPRしていく冊子にも掲載されるようになりました。そして、そうした取り組みが活発になることで、日本政府等が進める企業の事業活動の支援制度等でも採択がなされるようになっています。エコシステムはいま日本政府とともにベトナム、ボリビアで事業展開の可能性の調査を行っています。直に各国の日本大使館の大使が日本の素晴らしい取り組みだとPRするようになっていくことでしょう。従来は地方の建設事業者や地元の自治体が主要顧客であった中小企業がいまや世界中から注目されるようになってきているのです。
エコシステムのように既存事業を拡張し機会を掴むことは簡単なことではありません。しかしながら、本稿で紹介したように事業目的・社会インパクト・チャネルの3つのアップデートを愚直に取り組むことで、誰もが実現可能な変化でもあるのです。