新規事業創造を通じた社会変革のプロセス<中小中堅企業のためのSDGs実践編Vol.3>
金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長
情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎
2021/7/18
このコラムでは、SDGsビジネスの第一人者である平本督太郎先生が、国際社会の共通目標である「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」について中小・中堅企業の【実践編】として戦略策定の考え方や事例をわかりやすくご説明します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.94(2020.8)に掲載されたものです。
「社会変化で機会を掴む」ための企業戦略で新規事業を創造する②
前回、フロムファーイーストの阪口社長が各地域で潜在価値の高い素材を発掘しても、強引に製品化に取り組まないことまでお伝えしました。それでは、阪口社長はどうするのでしょうか?
阪口社長は、共通体験・共通価値を創出することを重視します。具体的には、まず発掘した素材に関わる地域の人々の仕事を手伝ったり、一緒に地域の中を歩きまわったり、共通して関心のある話題で盛り上がったりと、一緒に楽しい時間を過ごします。自分を温かく迎えてくれた地域の人達に素直に感謝を伝えます。そして、阪口社長からも、社会がどう変わっていくべきか、消費者が本当に関心を持っているのは何か、を伝えていきます。伝えているのは押し付けの机上論ではなく、地域の人々の思いを拡張していくためのメッセージです。逆に、地域の人たちの思いを確認した上で、改めて市場で社会ニーズを確認し直すこともよく行っています。自分が口ばっかりの人だけではないことを示すためにも、小さいことでも、すぐに、そして確実に成果が出るアクションを自分の責任で実行したりします。
こうしたプロセスを経る中で、自分と地域の人達の間にSDGsにも繋がる共通の新しい価値観を醸成していきます。共通価値が出来てくると、段々と地域の人達の意識や行動が変容していきます。自分たちから主体的に行動をし、阪口社長と一緒に新規事業を進めるための準備を始めたり、「こんなのもあるんだけど、なにかに使えない?」と地域に眠る素材を持ってきたり、「こんな人がこんなことをやっているんだけど」と地域内で既に活動をしている人を紹介してくれます。時には、「前に必要だと言っていた機械を設置しておいたよ」と新規事業に必要で地域には不足している要素を自発的に導入している場合もあります。なぜ、そんなことが起きるのか? それは共通の価値観が醸成されたことで、新規事業の立ち上げが「自分ごと・我が事」になっているからです。(下図参照)
結果として、新規事業が円滑に立ち上がることとなり、しかも地域の人達の自発的な力で成長が促されていくことになります。阪口社長が頻繁に地域に足を運べなくなっても、訪問できない期間でも物事が進んでいくようになるのです。農業と同じく、田起こしをし、新鮮な空気をたっぷりと土壌に含めれば、その後蒔かれた種はしっかりと成長していきます。初期段階に焦って物事を進めようとするのではなく、ステークホルダーと交流しながら、人々の意識や行動の変容をしっかりと見守る。それが指数関数的成長を生み、結果として社会の変容と自社の利益の両立を生み出すのです。
なお、客観的に見ると、この指数関数的成長を実現することの最も難しい点は、いつ種を蒔いてよいのか、いつ芽が出るのかが、読めない点にあります。それを阪口社長はどうしているのでしょうか? 次回お伝えしたいと思います。