危機感で企業を変化させる<中小・中堅企業のためのSDGs入門 Vol.12>
金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎
2022/5/20
このコラムでは、SDGsビジネスの第一人者である平本督太郎先生が、国際社会の共通目標である「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」について中小・中堅企業の【実践編】として戦略策定の考え方や事例をわかりやすくご説明します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.103(2022.5)に掲載されたものです。
「危機感で企業を変化させる」ために、社内風土を改善する
さて、今回から、「危機感で企業を変化させる」ための企業戦略について説明します。まず、今回はSDGs視点による社内風土の改善に注目します。
気候変動やパンデミックのような文字通り地球規模の課題、またそれに伴い行われる世界レベルでのルール変更によって、これから多くの中小・中堅企業が存続の危機にさらされることになります。
中小・中堅企業の経営者には、こうした危機を企業が更なる発展を遂げるための一つの原動力とする必要があります。組織全体で危機に正しく向き合えれば、次から次へと新しいアイデアが生み出されていくような組織へと成長できます。
危機に正しく向き合い、従業員のやる気やアイデアを引き出していくために取るべきステップは3つあります。それは、
①組織の透明性を高める、②危機感を養う、③変化を実感する、です。
まず、全社員に匿名でのヒアリング調査を行う等をし、その抽出された意見の中ですぐにできるものは実行します。それによって、「自分たちの会社も変わるかもしれない」と感じてくれる従業員を増やし、「組織の透明性を高めます」。
次に、今後SDGs等に明記された社会課題が世界・日本・業界・企業に与える影響について、様々な情報収集や整理、共有を繰り返します。そして、視野を広げることで、「危機感を養」い、危機を乗り越えた末にたどり着きたい個人・組織双方の理想像を描きます。
最後に、理想の未来の実現に向けて、いま自分たちが個人的に一番取り組みたくて、かつ3か月で少しでも成果が出て変化が感じられる取り組みを考え、実行することを通じて「変化を実感」します。
この3つのステップを行うことで、「危機に正しく向き合うと、企業が成長し、自分たちの取り組みたいことも実現していく」といった風土を企業内に根付かせます。それが成功すると、従業員が自ら、様々な危機をチャンスに捉え、次から次へと新しいアイデアを生み出していくことができる組織へと成長できます。
実際に取り組みに成功した中小企業として第2回ジャパンSDGsアワード外務大臣賞を受賞した会宝産業があります。会宝産業は自動車リサイクルを主事業としている石川県の中小企業です。2018年から「会宝2030」という若手・中堅を中心とした次世代経営チームを立ち上げ、2030年における会宝産業の理想の姿や、理想の働き方・暮らし方を描き、その実現に向けたアクションを実施しています。当初、3か月で成果を上げることを目標に行っていた活動は、その後、飛躍的に進化を遂げ、自治体や日本政府から高く評価される活動へと発展していきました。
トップダウンになりがちだった経営も、全員経営として従業員全員がそれぞれに問題意識を持ちながら自発的に考え行動する組織へと進化しています。
来るかもしれないと言われている危機をなかったことにするのではなく、危機を直視し、正しく恐れながら、企業を進化させる原動力にする、そうした活動がいま経営者に求められています。
次回は、「社内資源の組み換え」について説明します。