不動産に関するご相談対応は、慎重に…!<税理士のヒヤリ・ハット体験談 第9回>

税理士法人 古田土会計 社員税理士
土田大輝

2021/7/16

第9回 不動産に関するご相談対応は、慎重に…!

今年2020年も残すところあと僅かとなりました。読者の皆様におかれましては、4月から始まったこのコラムにお付き合い頂きまして、誠にありがとうございます。

今回の題は、我々の税理士業務において、非常に大きなお金が動く取引であり、普段なかなか話題にならないところから、違う筋肉を使うような仕事だと思います。 不動産に関するご相談対応のお話です。

エピソード:「息子がこの度マイホームを持ちたいと言い、それに少しでも応援したい

このようなご質問は、比較的多くいただくのではないでしょうか。古くからお付き合いをしているお客様であれば、家庭環境をよく知る仲であり、マイホームという 人生の新たなステージに向かうことに「あの小さかった息子さんが、もうこんなに大きく…」と、つい勘定ではなく感情が入ってしまう話題です。

ここで我々がお話しできることは、資金援助をするのが良いのか、名義を親が持って子が住むことをご提案することが良いのか、二世帯住宅など多世帯での生活での ご提案をするのが良いのか、等々。これはお客様が不動産業者の方と、どこまで話が詰めていらっしゃるかによって変わることと思います。

Ⅰ、資金援助の場合 ~貸付?贈与?~
 親から子に資金を援助することは、貸付なのか贈与なのかを検討します。
 貸付は、返してもらうことが前提になっています。ところが、親子の甘え故に、この返済が疎かになりがちです。貸したきりで返済が無く利息の支払いも無い場合 、このお金の動きを『贈与』とすると、国税庁HPの質疑応答に記載されています。いわゆる「ある時払いの催促なし」や「出世払い」という表現で示されています。

実は、当初から贈与と当事者間で認識をしたうえで、その贈与につき税法の優遇である『住宅取得資金贈与の非課税』を申告した場合は、いくつか要件がありますが その贈与のうち一定額が非課税になる制度があります。しかし、上記の事例のように後々に貸付が贈与と認定された場合には、この非課税のための申告期限が過ぎて いる場合がほとんどですので、まるまる贈与税の課税対象となります。

その資金援助が貸付であるならば、確実に

①親子間とは言えども、契約書でその事実・返済条件を示す。さらに、社会通念上相当の条件であるべきでしょう。
②この契約書に沿って、確実に返済・利払いをしていく。

ことが肝要です。

その反対に、その資金援助を贈与とするのであれば、これも同様に契約書でその事実を示しましょう。そして然るべき税務申告を行いましょう。

Ⅱ、親名義で不動産を購入
子に対する援助であるのに、親名義で不動産を購入するのは、有効なのでしょうか?答えは、『税』の領域だけで考えれば、有効になります。
親の相続税の対策ということを考えてのことですが、親のお金を不動産に運用することで、先月のコラムでもお伝えしましたが、お金よりも一般的に評価が低くなる 不動産に財産が置き換えられます。親の総財産の価額が減ることとなるため、将来の相続税の減額につながることとなります。
この親所有の不動産に子が住むことについては、家賃の授受がないことが多いです。このケースは、『使用貸借』という契約形態になります。親子間の使用貸借で住 んでいても、これは贈与税の課税対象にならないとされています。そして、将来の相続の際にこの家を子が承継するのが、このスキームです。
一つ注意したいことは、使用貸借の契約は、親の死亡により解消されるということです。よって、例えば子が二人いる場合には、確実にこの家に住んでいる子が承継 できるように、親は遺言等で備えておくべきです。

Ⅲ、親が多世帯住宅の建築
多世帯住宅は、物理的・精神的ハードルが高いと、個人的には感じています。
しかし、税制面で考えると、優遇が用意されています。
上記Ⅱのように親の財産がお金から不動産に転換されることにより、財産総額が下がることが、まずあります。さらに、多世帯住宅の場合は、その親の居住部分も含めて『同居』していたものとして取り扱われ、相続税最大の優遇制度『小規模宅地等の特例』が適用されます。小規模宅地等の特例は、その土地の使用・承継者等の要 件をクリアする必要がありますが、居住用宅地等の場合、330㎡までその評価が8割減額されます。
細かい要件は割愛しますが、多世帯住宅の場合、この優遇制度により大きな相続税の軽減が見込めます。注意点を挙げますと、この多世帯住宅の建物につき、区分所 有登記をすると、この制度でいう『同居』にならないとされています。制度適用にあたっては、注意してください。

このところのコラムは相続税・贈与税を中心にとりあげてきました。
まだまだ奥が深い税法の世界。今後もいろいろな切り口で、『ヒヤリハット』をお伝えしていきます。

来年2021年のコラムもどうぞご期待ください!

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