プロバイダ責任制限法を活用(知って得する法律相談所 第6回②)

弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英

2021/7/16

第6回-② インターネット上に自分の悪口が!どうすればいいの?~後半~

前回は、インターネット上での書き込みをめぐるトラブルのうち、書かれた内容を管理会社と任意の交渉により、削除してもらう方法についてお伝えしました。

しかし、インターネットをめぐるトラブルはこれで解決するとは限りません。管理会社が削除に応じてくれるとも限りません。また、書かれた悪口のせいで何らかの 損害が発生した場合、書き込みをした相手を特定し、損害賠償の請求や謝罪をさせたい場合もあります。

そこで今回は、
・裁判で削除を求める
・相手を特定したい場合(裁判外の手続き)
・相手を特定したい場合(裁判上の手続き)
について、お伝えしたいと思います。

(1)裁判で削除を求める場合
こちらからの削除の請求に対して、管理会社が応じない場合もあります。その場合は、管理会社に対して裁判を起こし、削除の請求をしていくことになります。

通常、裁判による解決には、数か月から数年間以上の時間を要し、その間にも書かれた悪口が拡散されてしまったり、噂が広まってしまい、収拾がつかなくなる、あ るいは取返しのつかない被害が発生してしまうおそれがあります。

このような場合に使用されるのが、「仮処分」という裁判手続きです。

仮処分とは、通常の裁判を行っていては遅すぎる場合などに、仮の判断を裁判所にしてもらう手続きのことをいいます。

仮とはいえ、裁判所が一定の判断基準を示すわけですから、仮処分が認められるには、それなりの理由や法務局に納付する担保金などが必要になります。
しかし、早ければ数週間程度で仮の結論がくだされます。

そして、あくまで、裁判上では仮の結論になりますが、被害者の請求が認められれば、ほとんど全ての業者が対象の情報を削除し、その後、争ってくることはないた め、比較的よく用いられる解決の手段です。

(2)相手を特定したい場合(裁判外の手続き)
インターネット上に書かれた悪口などの情報が原因で、何らかの損害、たとえば、お店が潰れた場合など、損害賠償の請求をしたいと思う人は少なくありません。

損害賠償を請求したい場合、最初に行うことは、実際に書き込みした人を特定する作業です。しかし、インターネットの世界は、そもそも、匿名性という特徴があり ますので、誰もが簡単に書き込みをした人を特定できるわけではありません。

そこで行われる方法が、「発信者情報開示請求」と呼ばれる手段です。

具体的には、まず、運営管理会社に対して、対象となる情報(書き込みなど)が書き込まれた日時や、IPアドレス(数桁の数字で構成されるインターネット上の住 所のような情報)とよばれる情報の開示を求めます。

次に、運営管理会社から情報が開示されればIPアドレスから通信会社(携帯電話や接続プロバイダ)が分かるので、その通信会社に対し、上記IPアドレスを保有 する契約者の情報の開示請求を求めます。通信会社から契約者が開示されたら、契約者≒被害対象となる情報の書き込みをした人物の特定がされます。

つまり、
①運営管理会社に対し、対象となる情報を書いた人物のIPアドレスや日時の開示を求める
②通信会社に対し、①で開示された情報に基づき、契約者の情報の開示を求める
という2段階の手続を踏む必要があります。

この方法は、「プロバイダ責任制限法(正式名称:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)」という法律や総務省令に基 づき行われる正当な方法です。

(3)相手を特定したい場合(裁判上の手続き)
しかし、運営管理会社や通信会社は、安易に情報を開示することにより、個人情報の管理の緩さを指摘されて評判を落とすことを恐れ、開示に消極的であるケースも 少なくありません。

また、インターネットの運営管理会社は、海外に本社があるケースも多く、日本の法律による規制を受けないことや、仮に日本法人が存在したとしても「権限が海外 の本社から与えられていない」との理由で、任意での開示請求に非協力的なこともあります。

運営管理会社や通信会社が、任意での開示請求に応じない場合には、削除のときと同様、裁判を起こして開示の請求を求めていくことになります。

通常、裁判を起こすとなると数か月以上の時間を要し、運営管理会社が、被害者が欲しい情報のデータを削除してしまっていることもあります。
そこで、相手方を特定したい場合にも、削除のときと同様、迅速な手続きが可能な仮処分の手段を用います。

そして、裁判外や裁判上の手続きで、書き込みをした張本人を特定できたならば、その相手方に対し、裁判を起こしたり、内容証明郵便などを送り、損害賠償の請求 を求めていきます。

(4)迅速な救済を求め、政府が動き出すも・・・
このコラムでは、前回と今回の2回に分けて、インターネット上に悪口などの誹謗中傷が書かれた場合、
・削除請求(任意での交渉)
・削除請求(裁判上の手続き)
・相手を特定して損害賠償の請求を求める(任意での交渉)
・相手を特定して損害賠償の請求を求める(裁判上の手続き)
などの方法があることをお伝えしました。

インターネットをめぐる問題は、芸能人などの有名人にとどまらず、小学生や中学生の間でもネットいじめが問題になり、自殺者が出てしまうなどの深刻な社会問題 が発生しています。
総務省が設置した「違法・有害情報相談センター」によれば、インターネットで誹謗中傷されたといった苦情や相談の件数は、右肩上がりで、2010年が1,337件であった件数が、2017年には5,598件と、4倍近く増加しています。

また、今回ご紹介した仮処分という手続きについても、インターネット関連問題以外にも様々な場面で使用されます。

たとえば、不動産の所有者が誰かという点で争っている場合に、第三者に売られてしまうのを防ぐために、結論が出るまで対象不動産の売買を防ぐ、不動産仮処分な どです。

しかし、東京地方裁判所の仮処分関連の事件の内、6割以上をインターネット関連の問題が占めているとの調査結果が出ています。

政府はこれらの問題に鑑み、迅速・簡易な手続きで被害者が救済されるように、様々な制度改革を進めています。しかし、運用開始の時期すら決まっていません。

そのため、インターネットの誹謗中傷などのトラブルに遭遇した場合は、弁護士に相談するのが解決の一番の近道といえそうです。

ただし、インターネットを巡る諸問題については、法律の知識だけではなく、インターネットに関する知識や、「どの会社は裁判をしなければならない」などの実務 的な情報が必要になります。
これらの問題や知識に精通した弁護士に依頼をしないと、解決が長引いたり、複雑化したりすることもあります。

弁護士に相談する場合は、費用面だけではなく、インターネット問題に関して豊富な知識や経験があるかをきちんと確認することも忘れないでください。

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