競争よりも共創を優先<中小・中堅企業のためのSDGs入門 Vol.13>
金沢工業大学 地方創生研究所 SDGs推進センター長 情報フロンティア学部 経営情報学科 准教授
平本 督太郎
2021/7/17
Vol.13 SDGs時代の価値観②「競争よりも共創を優先」
経営者自身がSDGs時代に適した成長・変化をするためにはまず優先順位の変更が必要です。3種類の優先順位の変更のうち、「競争よりも共創を優先」に焦点を当てて解説をしたいと思います。
社会が変化するときは競争よりも共創が重要となります。なぜならば、社会の変化によって生まれた新たな市場は分け合えるほど大きくないことがほとんどだからで す。競合であろうとも潰し合わず、まずは共に協力しあって市場を創造していくことが必要なのです。
前回も紹介したジャパンSDGsアワード受賞組織に対して行ったアンケートにおいても、SDGsを進める際に構築・拡大したネットワークがコロナ禍において新たな事業 や市場を創造する際に役に立ったという回答が多くみられました。自社の利益を上げるために競合他社の顔ばかりみて事業を行うのではなく、支援を必要としている 人の顔を見ながら、自社では不足している部分は他社に協力を仰ぐことで支援を成立させることこそが、大きな変化が起こる時代に企業が成長を実現できる取り組み なのです。
例えば、教育に関わる問題をITによって解決しようとしているEdTech(エドテック)企業はコロナ禍で小中高が休校になったときに、素晴らしい連携プレーを見せま した。様々な種類の教育コンテンツが休校期間に無料で提供され、経済産業省等がそのまとめサイトを作りました。個別企業が無償でコンテンツ提供をしても必要と している人には必ずしも届きません。しかし、経済産業省のような信頼のおける組織がハブとなり、複数のEdTech企業の無償サービスを種類別に情報提供することで 、EdTechの利用者は急増しました。
SDGsビジネスアワードの受賞企業である、すららネットもそうしたEdTech企業のうちの一つです。すららネットはゲーム感覚で学習できる対話型アニメーション教材 を提供しています。そして、すららネットは休校期間において無償ID提供の呼びかけを行い、全国で約15万人の児童・生徒に学習機会を提供しました。すららネット が2020年12月に発表した研究結果によると、2018年度から2020年度の期間「すらら」を継続利用している47校13,138名の中高生を対象に学習時間を比較したところ、 前年度の同時期と比較し3倍を超える学習を行っていたという事もわかりました。EdTech企業のサービスは休校期間中に学びが止まってしまうという危機を乗り越えるのに役に立ったと考えられるでしょう。また、すららネットの顧客(有償ID数)は2020年3月末の約7万人から2020年6月末に約11万人へと3ヶ月で57%増という大幅な
伸びを見せています。さらに、休校時にITを用いた教育サービスの有効性が示されたことにより、文部科学省は5年間かけて行う予定であった小学校・中学校へのITの全面導入施策を前倒しに行うことになり、現在EdTech企業は揃って強い追い風を受け、急速な成長を実現しています。EdTech企業が市場を共創したからこそ、市場全 体の急成長、そして各企業の成長が実現したのです。
次回は、「優れたオペレーションノウハウ・技術よりも独自の付加価値を優先」について説明いたします。