年金制度改正法の趣旨(知って得する法律相談所 第27回)

弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英

2022/6/13

0.年金制度改正法の趣旨

今年の4月から年金制度が新しく改正されました(以下、「令和2年度改正」とします)。厚生労働省によると、この趣旨は多様な形で働く社会への変化に対応し、長期化する高齢期の経済基盤を充実させるため、となっています。

①多様な形で働く社会への変化に対応する
②長期化する高齢期の経済基盤の充実
(出典:厚生労働省「年金制度改正法の概要」)

今回のコラムでは、今回の年金制度の改正ポイントについて、弁護士がわかりやすく解説します。

1.年金制度とは
ここで改めて、年金制度の仕組みを確認してみましょう。
 
1-1.公的年金制度
公的年金は、3種類の制度があります。
公的年金制度は、国内に住所を有するすべての人に加入が義務付けられています。
そして、それぞれ、働き方に応じて加入する公的年金制度が異なります。
 
(1)国民年金
国民年金は、国内に住む20歳から60歳未満にあるすべての人が加入します。
加入により、基礎年金を受給することができます。
 
そして、国民年金に加入すると、「第1号被保険者」となります。
第1号被保険者の対象は、自営業、学生、フリーター、無職の方などが対象です。
 
(2)厚生年金
厚生年金は、厚生年金保険の適用を受ける会社に勤務する人が加入します。
この加入により、「基礎年金」に合わせて「厚生年金」を受給できます。
厚生年金に加入すると「第2号被保険者」となります。
 
なお、第2号被保険者に扶養される人のことを「第3号被保険者」といいます。
主に、第2号被保険者の配偶者や子が該当します。
加入するためには、年収が130万円以下であることといった条件があります(60歳以上で障害年金受給者は180万円まで)ので、注意が必要です。
 
(3)共済年金
共済年金は、国家公務員(国家公務員共済組合)、地方公務員(地方公務員等共済組合)、私立学校の教員(私立学校教職員共済組合)などが加入し、常勤の職員は、各組合の組合員となります。
 
共済組合では、短期給付と長期給付があり、前者は健康保険、後者は年金給付と同じ給付がされます。
 
1-2.私的年金制度
私的年金は、公的年金と相まって、特に高齢期の所得確保を支援するための制度です。
主な種類として、「確定給付型」と「確定拠出年金」があります。
 
確定給付型は、加入していた期間などに基づき、事前に定められている給付額が支給される制度です。
一方で、確定拠出金は、拠出した掛け金と収益の合計額を算出し、これをもとに給付額が決まる制度です。
 
このように、公的・私的な年金制度を用いて生活設計を支援する仕組みが備えられているのです。
年金の種類や年金の受け取り方法など、詳しい解説は下記をご参照ください。

厚生労働省:年金制度の仕組み
https://www.mhlw.go.jp/stf/nenkin_shikumi.html

2.年金制度のここが変わる!5つのポイント

それでは、令和2年度改正によって、年金制度のどのような点が改正されたのか、見ていきましょう。
 
2-1.被用者保険の適用拡大
被用者とは、会社に雇用されて労働に従事する人のことをいいますが、今回の改正により、その適用範囲が拡大されました。拡大された範囲は下記の通りです。

①事業所の企業規模要件を段階的に引き下げる(短時間労働者)
②個人事業所(5人以上)の適用業種に弁護士、税理士に係る事業を追加
③国・自治体で勤務する短時間労働者に公務員共済の短期給付を適用

現行制度の企業規模要件(短時間労働者)は、500人超とされており、500人以下の企業では保険の適用対象とならないため、被用者保険に加入できない短時間労働者がいました。
 
しかし、令和2年度改正により、企業規模要件を段階的に引き下げることになりました。
引き下げは、2022年10月に100人超を対象に、2024年10月には50人超の企業まで適用対象となります。
 
非適用業種の適用範囲も見直され、弁護士、税理士などが行う法律・会計事務を取り扱う士業は適用業種として追加されました。
 
そして、国や自治体で働く短時間労働者についても、公務員共済に基づく短期給付(健康保険と同様)が行われることとなりました。
 
2-2.年金受給の見直し(在職中)
高齢期の就労が拡大する社会的背景を考慮して、年金受給の見直しが行われました。
主に、下記の点が改正されました。

①在職定時改定の導入
②在職老齢年金制度の見直し

これまで、老齢厚生年金の受給権の取得後に就労した場合、資格喪失時(退職時または70歳到達時)に受給権取得後の被保険者期間を加えて、老齢厚生年金の給付額を改定(退職改定)していました。
 
この点、今回の改正では、65歳以上の者は、在職中でも年金額の改定を定時(毎年1回・10月分から)に行われることとなりました。
これにより、65歳以降に厚生年金に加入し、加入後1年間勤務して在職時改定が行われた場合(報酬月額20万円)、年間で約13,000円増額されることになります。
 
また、60歳から64歳の在職老齢年金制度(低在老)の支給停止基準額が、現行の28万円から47万円に引き上げられ、65歳以上の在職老齢年金制度(高在老)と同等になりました。
なお、支給停止額の計算方法については、下記をご参照ください。

日本年金機構:在職老齢年金の支給停止の仕組み
https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/LK39.pdf

2-3.受給開始時期の拡大
3つ目のポイントは、公的年金の受給開始時期の選択肢が拡大された点です。
具体的には、下記の通り、選択肢が拡大されました。

①繰り下げ受給の上限年齢の引き上げ
②70歳以降に請求する際に5年前時点での繰り下げ制度の新設

これまで、60歳から70歳の間で受給開始時期を自由に選ぶことができました。
 
65歳より前に受給した場合を「繰上げ受給」、65歳より後に受給開始した場合を「繰下げ受給」といいますが、この内、繰下げ受給の上限年齢が75歳となり、公的年金の受給開始時期が60歳から75歳の間で選択可能になりました。

2-4.確定拠出年金の加入できる要件の見直し
私的年金制度の内、確定拠出年金の「企業型確定拠出年金(企業型DC)」と「個人型確定拠出年金(個人型DC(iDeCo))」の加入可能年齢の引き上げおよび受給開始時期の選択肢が拡大されました。
 
企業型DCについては、現行では、厚生年金被保険者の65歳未満の者を加入することができるとされていましたが、改正後は70歳未満と引き上げられました。
そして、受給開始時期の上限年齢は75歳までとなりました。
 
次に、iDeCoの加入可能年齢は、これまで60歳未満で国民年金被保険者が該当するとされていましたが、この年齢上限が撤廃され、国民年金被保険者であれば加入できるとされました。
そして、企業型DC同様に、受給開始時期の上限年齢が75歳まで引き上げられました。
 
また、確定給付企業年金(DB)についても、支給開始時期の上限年齢が現行の60歳~65歳から70歳までと引き上げられました。
いずれの改正も、高齢者雇用の拡大と柔軟な運営を行うことを、その狙いとしています。
 
2-5.その他
この他にも、令和2年度改正により、下記の点が変更されています。

①国民年金手帳から基礎年金番号通知書への切替え
②未婚のひとり親等の申請全額免除基準への追加
③脱退一時金制度の見直し
④所得・世帯情報の照会対象者の見直し(年金生活者支援給付金制度)
⑤児童扶養手当と障害年金の併合調整の見直し
⑥被用者保険の早期加入措置(2カ月を超えて雇用が見込まれる者)
⑦厚生年金保険法における日本年金機構の調査権限の整備
⑧年金担保貸付事業等の廃止

いずれの改正点も、社会的背景や多様な働き方などを反映しながら、より柔軟に年金制度を活用できるよう改正されています。
詳しい解説については、下記もご覧ください。

年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律の概要
https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/000636611.pdf

3.まとめ

令和2年度改正は、多くの人が多様な形で就労することが見込まれ、さらに、長期化する高齢期の経済状況をより充実したものとするために改正されました。
今後も、社会や経済状況の変化に合わせて、改正されていくことと考えられます。
 
今回のコラムでは、令和2年度改正によって改正されたポイントを解説しましたが、改正に伴う業務を行うためには、個別具体的な状況を考慮しながら、適切な対応が求められます。
 
企業の人事担当者の皆さまなど、少しでも対応に不安なことがありましたら、税理士、社会保険労務士、弁護士などの詳しい専門家にご相談ください。


※4月より、事務所名が弁護士法人プロテクトスタンスに変更となりました。

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