オービスは無断撮影の犯罪行為?(知って得する法律相談所 第13回)

弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英

2021/7/16

第13回 防犯カメラやオービスってプライバシーを侵害しないの?

最近では、ご家庭でも、防犯カメラを設置する家庭が増えてきました。また、今や店舗内だけでなく、ほとんどの商店街において、あらゆる所に防犯カメラが設置さ れており、防犯に一役買っています。

また、高速道路を中心に、速度超過を取り締まるためのオービス(速度違反自動取締装置)が主要道路に設置されています。

これら防犯カメラの映像や、オービスの画像記録は、私たちの事前同意なく取得していることになるのですが、プライバシーの侵害にはならないのでしょうか。

そこで今回は、防犯カメラやオービスとプライバシーの関係について、最高裁の判例も踏まえながら、弁護士が分かりやすく説明します。

1.二つの最高裁判所判例
私たちが、被写体に無断で写真を撮ると、肖像権などプライバシー権の侵害になる可能性があります。最高裁判所は、この問題につき、二つの見解を示しています。

1-1.無断の写真撮影がプライバシーの侵害にあたらないと判断した裁判例
有名な事例として、最高裁昭和44年12月24日判決/京都府学連デモ事件があります。事案としては、デモ行進の形態が交通の妨げになっているとし、条例に違反していると判断した警察官が、本人の同意なく写真を撮影し、プライバシー権を侵害していないか争われた事例です。

最高裁判所は、
①「憲法第13条により、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する」とし、
②「警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法第13条の趣旨に反して許されない」
としました。

一方で、
③「現に犯罪が行われるなどして、証拠保全の必要性および緊急性があり、撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法であれば、本人の同意なく撮影することは認められる」
と結論づけました。

つまり、警察官のデモ参加者に対する写真撮影について、捜査上必要不可欠などの理由があれば、プライバシーの侵害にあたらず適法であると判断しました。

1-2.無断の写真撮影がプライバシーの侵害にあたると判断した裁判例
一方で、被写体の同意なしに写真撮影を行い、プライバシーの侵害を認めた最高裁判所判例があります。それが、最高裁平成17年11月10日判決/和歌山カレー毒物混入事件法廷写真・イラスト訴訟です。

事件の概要としては、週刊誌のカメラマンが、裁判所および本人の同意なく、法廷で被告の撮影(隠し撮り等)を行い、週刊誌に掲載されたことに対し、プライバシ ーの侵害が争われた事例です。

刑事・民事事件を問わず、裁判所の法廷内では、裁判官の許可を得ずに事件当事者や証人などを写した写真撮影や録音は禁止されます。

なぜならば、自由に法廷内で写真撮影や録音が認められると、当事者や証人が萎縮し、自由な発言機会が奪われてしまい、不当な圧力やプレッシャーをかけることに なり兼ねないと言われているからです。

今回の事例においては、裁判は一般人も傍聴が許される公開裁判とはいえ、隠し撮りという方法が、社会生活上受忍すべき限度を超えていると判断し、プライバシー に違反しているとの判断を下しました。

現在の裁判所の運用では、従来通り、写真や録音は禁止とされています。例外的に、注目度の高い事件については、審理が始まる前に、裁判官が入廷してから、裁判 官全員が着席し、法廷の開廷を宣告するまでの間の2分間のみ撮影が許されます。
この場面は、ニュースなどでも放映されることがありますので、何度かご覧になった方もいらっしゃると思います。

2.オービスの前の警告看板の設置は何の為?
では、高速道路のオービス(速度違反自動取締装置)の手前で設置されている警告看板は何の為に設置されているのでしょうか。警告看板を設置することにより、車 を撮影することを事前に告知し、プライバシー違反として訴えられるリスクを避ける為でしょうか。

警察庁等によれば、高速道路のオービスの警告看板設置は、明確に法律で定められている訳ではないとしています。目的としてはプライバシーの遵守というより、運 転者の自発的な速度制限の遵守を主な目的としています。

つまり、オービスの手前に警告看板を設置することにより、運転手は「このスピードだと、速度オーバーで捕まってしまうから、スピードを緩めなければ!!」と感 じ、(警察が取り締まりを行わなくても)速度を緩めることを期待しているという訳です。

また、過去の裁判例を見てみても、オービスによる撮影を適法とするための要件として、撮影の予告は必ずしも必要とされていません。事実、可動式のオービスには 、警告看板は設置されていません。

オービスについては、仮に警告看板が設置されていなくても、速度超過の瞬間を保存・記録しておかないと、速度超過の取り締まりは困難です。従って、プライバシ ーは侵害されないという意見が有力です。

3.街中で設置されてある「防犯カメラ作動中」は何のため?
今は、高速道路以外でも、街中で「防犯カメラ作動中」のような看板を見かけます。これについては、プライバシー権を侵害しないように設置されているのでしょう か。

一般的には、オービス同様、犯罪を抑止するための警告であることが多いと思われます。

但し、街中での防犯カメラについては、撮影の目的の相当性、必要性、方法の相当性などを考慮して違法性を判断することになります。
裁判例では、「防犯カメラの作動中」との看板がなく、隠し撮りだと方法の相当性がなく、違法と判断された例もあります。

従って、街中の「防犯カメラ作動中」の看板は、オービスとは異なり、犯罪の抑止力効果だけではなく、プライバシー保護を配慮し、設置されたものと説明すること ができます。

4.まとめ
では、街中などで防犯カメラを設置する際に、撮影を行っていることを警告する警告看板を設置しない場合は、無断で写真を撮っていることになり、プライバシーの 侵害になるのでしょうか。

前述の通り、街中の防犯カメラも、防犯や取り締まりを目的としているため、直ちに違法となる訳ではありません。街中の防犯カメラは、撮影の目的や方法の相当性 などを考慮して違法性を判断します。

プライバシーという視点から考えた場合、警告看板の設置の有無を問わず、カメラの設置場所や台数などが明らかに防犯目的を超えていると疑われる場合(例えば、 他人の家をのぞき込める角度に配置されているなど)には、プライバシーを侵害している可能性があります。

自宅や職場に防犯カメラを設置しようと考えている方は、設置場所や設置角度などに気をつけてください。

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