臨場型リモート調査と税務調査の守秘義務<元国税調査官の告白 税務調査㊙ノートVol.29>

元国税調査官 税理士
松嶋 洋

2022/7/1

元国税調査官であり、現在は税務調査に特化したコンサルタントとして活躍する松嶋洋先生が、調査の論点となりやすい税法上の論点、税務調査への効果的な対応等について、法律、実務の両面から解説します。 
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.104(2022.6)に掲載されたものです。

臨場型リモート調査と税務調査の守秘義務


コロナ禍で従来と同様の税務調査が難しいこともあり、近年国税は臨場型リモート調査を積極的に行おうとしているようです。これは、調査法人の事務所等に臨場はするものの、感染のリスクを避け調査法人の担当者と対面はせず、調査官が会社の会議室などを借りた上で、実際のやり取りは会社のWEB会議システムを通じて行う、という調査です。

感染を避けるためにリモートの調査を行うのであれば、本来は会社に臨場すべきではないので、やるなら国税局や税務署の中で税務調査を行えばいい、と思いますが、国税としては情報漏えいを気にしている模様です。実際のところ、国税が行う臨場型リモート調査の要件として、とある税務雑誌によれば、「法人が通常業務で使用しているWEB会議システムを利用する」、「法人が管理・支配する場所等で、法人が使用する機器・接続環境を利用」といったことが挙げられています。システムにしても機器にしても、調査法人で使っているものを国税が使う訳ですから、万一税務調査の情報が漏えいしたとしても、国税には責任はない、といった状況を作ろうとしていることは間違いありません。

それにとどまらず、上記の要件のほか、臨場型リモート調査について、「税務調査では機密性の高い情報のやり取りが行われることや、システムの脆弱性に起因するリスクがあることを法人が理解」する、といった要件も挙げられているようです。コロナ禍で税務調査ができずに困っているのに、情報漏えい等の責任は一切負わない、と言っている訳で、どこまでも保守的な国税組織の本音がにじみ出ています。

しかし、そもそも国税の臨場型リモート調査は、国税職員の守秘義務に違反する可能性がある、違法性が高い調査です。このことは、税務調査の録音が禁止される理屈を考えればよく分かります。

税務調査の録音が禁止される理由として、国税は、「納税者がレコーダーに記録した税務調査の情報が仮に漏えいしてしまえば、税務調査情報を漏らしてはならないという国税職員の守秘義務の問題が生じるから。」といった趣旨の説明をしています。本来、守秘義務違反は機密情報を漏らした者を罰するものですが、国税の理解としては、守秘義務を漏らされる状況を作り出すことも、守秘義務違反としているのです。この点、第三者立会を否認した以下の判例があります。

東京高裁平成7年7月19日判決(Z213-7554)
取引先の秘密も保護されなければならないことはいうまでもなく、第三者である控訴人がこれを放棄することができないことも自明の理であるから、この点で税務職員に守秘義務があることは十分予測されるところである。本件において、税務職員が守秘義務を理由に立会人の退席を求めたことが違法な措置であつたとすることはできない

臨場型リモート調査は調査法人のシステムを使うものですので、やろうと思えばいくらでも税務調査の内容を記録することができます。こうなると、調査法人がその税務調査情報を漏えいする可能性がありますので、上記の解釈からすれば、国税職員の守秘義務違反になります。

このようなことを申し上げると、「納税者が、情報漏えいもあり得ることを承諾した上で臨場型リモート調査をすれば、守秘義務違法ではない」と国税は反論するでしょう。しかし、そうなると、失言防止の観点から、国税が絶対に禁止したい税務調査の録音を容認せざるを得ないことになります。

いずれにしても、税務調査は延期できればそれに越したことはありません。万一の情報漏えいのリスクまで含め、すべての責任を転嫁される臨場型リモート調査などに協力する必要は全くないと考えます。

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