騒音トラブルの対策は記録と相談から(知って得する法律相談所 第17回)

弁護士法人アドバンス 代表弁護士・税理士
五十部 紀英

2021/10/20

0. コロナ禍で増えたお家時間、近隣の騒音トラブルも増加傾向に

長引くコロナ禍でニューノーマルな生活様式が広がる今。おうち時間が増え、家族との時間が増えたり趣味に費やす時間が増やせたり、今までと違った時間の使い方を楽しまれている方は多くいらっしゃるでしょう。
 
その一方で増加しているのが、近隣との騒音トラブルです。
警視庁の公式発表でも、コロナ禍以降の騒音による110番通報の増加が認められています。隣近所の騒音が原因で、殺傷事件にまで発展した痛ましい事例も記憶に新しいことでしょう。
もしかしたら、あなた自身、隣人の騒音に悩んでいるのではないでしょうか。また、あなた自身は気にならない生活音が、実は隣人の逆鱗に触れているかもしれません。

そこで今回は、騒音トラブルの対策や解決方法について弁護士が解説します。

1.そもそも「騒音トラブル」って何?

騒音トラブルは、大きく2つに分類することができます。

まず、道路工事や建設工事などで発生する騒音のトラブルです。この場合、工事は区切られた期間かつ一時的なことが多いため、よほどの場合を除き大きな問題に発展するケースはあまりありません。
もう一つは、アパートやマンションなどの集合住宅で、住民間で起こる生活音に対するトラブルです。
こちらの場合は冒頭でも述べたとおり、刑事事件にまで発展してしまうこともあるため、被害者・加害者ともに慎重な対応を行う必要があります。

今回の記事では、この後者のケースについて解説していきます。

2.騒音トラブルの対策は記録と相談から【感情的にならない】

騒音トラブルの対策と解決策には、次の2点が重要になります。

・問題の騒音を記録する
・しかるべき相手に相談する

 隣近所の騒音に悩んでいる場合、つい感情的になり直接クレームを入れに行ってしまう方も多いと思います。
しかし、そのような対応は場合によっては非常に危険なこともあり、得策ではありません。上記の通り、「記録」と「相談」がポイントになりますので、順番にご説明します。

(1)問題の騒音を記録する
まず、第三者にきちんと客観性を持って騒音被害を説明できるように、記録しておく必要があります。
ICレコーダーやスマホで、音声や動画が記録できればベストです。
しかし、生活音に起因する騒音はいつ発生するのか予測が困難であったり、耳では聞こえるものの録音録画では聞こえにくかったり、困難である場合が多いのです。
そのような場合は、メモで詳細に記録するようにしましょう。何年何月の何時ころ、どのような音がどこからどのくらいの時間聞こえたのか、詳細と合わせ記録してください。
一度だけでなく複数回分を記録すると、より証拠として信ぴょう性が高いものとなります。

(2)しかるべき相手に相談する
騒音の記録を取りつつ、しかるべき相手に相談をします。
あなたの住まいが分譲マンションの場合は施工会社や管理組合、賃貸物件であれば大家や管理会社、戸建て住宅なら地域の自治会などに相談します。 
こういった第三者より、騒音の苦情が出ていることを伝えてもらいます。騒音トラブルの初動対策には、他者から注意してもらうことが重要です。
それに加えて、他者にそのような依頼を行った事実があることで、後々有利になることもあります。
 
(3)改善が見られない場合は警察や弁護士へ
第三者から注意してもらっても改善の見込みがない場合は、警察や弁護士に相談しましょう。
しかし、警察は民事不介入の原則があるため、なかなか込み入った対応をしてくれないことも多くあります。
そのため、騒音トラブルを早急かつ確実に解決したい場合、弁護士に依頼することをおすすめします。その際に、上記で説明したような記録や相談の経緯などは大きな武器となります。

3.こんな音も注意?巣ごもり騒音トラブルの原因や種類とは

外出自粛や在宅ワークなどでおうち時間が増えると、今までは想像もしていなかった生活音が騒音となってしまうこともあります。

・家電製品や家庭用機器:目覚まし音、掃除機や洗濯機などの稼働音
・住宅設備の使用:トイレやお風呂、ドアの開け閉めに室外機の稼働音
・在宅ワークでの業務:Web会議の話し声や電話の会話音
・趣味など:映画鑑賞、ラジオ、楽器演奏などで生じる音全般
・子育てやペット:子どもの生活音やペットの鳴き声など


今までであれば、家の外にいて気が付かなかった、気にならなかったこういった生活音が、おうち時間の増加で気になりはじめることがあります。
そのため、ある日急に隣近所がうるさいと感じたり、自分は今までと何も生活を変えていないのに、ある日第三者から騒音のクレームが来たり、という事態が起こるのです。

4.慰謝料などの損害賠償請求はありえる?騒音トラブルの法的な見解

それでは、騒音トラブルで慰謝料などの損害賠償を請求するという事態はあり得るのでしょうか。
結論からいうと、あり得るものの、かかった時間・手間・お金に見合った慰謝料などの賠償金は取りにくいのが実情です。

(1)慰謝料などの損害賠償が請求できるケースや請求先
騒音が原因で何らかの健康被害が生じた場合は、慰謝料などの損害賠償を請求できる可能性があります(民法第709条)。
この場合は、騒音の発信源である住人に対して請求を行います。認められるためには、社会通念上「受忍限度」を超えていたかが論点となります。
これは、騒音が社会通念上「我慢できるレベルの話かどうか」という基準に基づいて判断されます。
また、大家や管理会社など、物件の管理義務のある責任者に対して請求を行う場合もあります。
これは、騒音トラブルを相談したにも関わらずなんら対応をしてくれなかった場合や、建物の構造上の問題から騒音が生じていた場合などに有効な対応です。損害賠償請求をはじめ、契約解除の申し込みなどが可能です(民法第415条および第541条、第543条)。

(2)騒音トラブルで請求可能な金額はいくら?
次に、慰謝料などの損害賠償の金額についてご説明します。
結論から言うと、個別のケースにより幅があるものの、おおよそ数十万円程度となる傾向にあります。
認められる慰謝料などの損害賠償額はそれほど大きくないというのが、騒音トラブルにおける実情です。

(3)お金だけの問題ではないので、騒音トラブルは我慢せずに相談しよう

以上のことから、騒音トラブルはかけた時間・手間・お金に見合った慰謝料などの賠償金が取りにくい傾向にあるといえます。

しかし、これはあくまでも金銭に限った結論であるため、根本的に騒音トラブルを解決したい場合はこの限りではありません。
警察や弁護士の力を借りることで相手方の騒音がやむということは十分考えられますので、泣き寝入りで我慢をする必要はありません。
まずは弁護士に相談し、解決に向けてどのように行動することがベストであるかアドバイスを受けましょう。

5.【まとめ】隣近所との騒音トラブルの対策や解決

今回は、おうち時間が増えたことで増加傾向にある「隣近所との騒音トラブル」について解説しました。ポイントをまとめると次の通りとなります。
・騒音を客観的に記録し、しかるべき相手に相談する
・騒音トラブルの原因や種類を把握する
・慰謝料など金銭面だけで結果を考えない

「音」は個人の主観による感じ方の差もあるため、騒音トラブルは客観的な証明がしづらい傾向にあります。
悩まれているケースによって最適な対応も変わってくるので、こじれてしまう前に警察や弁護士にきちんと相談し、個人の裁量だけで問題解決を図ることのないようにしましょう。

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