BitTorrentを使うと(ほぼ)訴えられます
<ネット時代に必要な企業防衛の極意 vol.42>
昨今のサイバー攻撃強化で改めて注目度が高まっているセキュリティ対策。2022年4月に施行された改正個人情報保護法でも、個人情報の利用や提供に関する規制が強化されています。一方で、ネット上の情報漏洩や誹謗中傷といった事例も近年、急増しています。当コラムでは、こうしたネット上のリスクや対応策について詳しく解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.146(2025.12)に掲載されたものです。
弁護士法人戸田総合法律事務所 代表
中澤 佑一 先生
現在、プロバイダ界隈の実務においてBitTorrent(ビットトレント)利用による著作権侵害とそれに伴う発信者情報開示が多発しているのをご存じでしょうか。
BitTorrentは、ファイル共有のためのプロトコルおよびそれを稼働するソフトウエアの名称ですが、簡単に利用でき、インターネットを介して第三者とファイルのやり取りが可能になります。BitTorrent自体に違法性はありませんが、BitTorrentを利用してやり取りされるファイルは、映画の海賊版ファイルなど著作権者が許諾していないものが大半であり、これらの違法ファイルをやり取りすることは著作権侵害となります。
そして、BitTorrentでの著作権侵害に関しては、技術上および法律上の発信者を特定する手法が確立されたことから、著作権者が非常に厳しく対応しており、極めて大量の損害賠償請求がなされています。どのくらい大量かといいますと、著作権侵害者を特定する過程で行われるプロバイダに対する発信者情報開示請求が大量になされすぎてプロバイダの業務を圧迫しており、総務省やプロバイダ協会からも異例のアナウンスが出る事態に至っています。私は仕事柄、情報開示に対応しているプロバイダの方とお話しする機会も多いのですが、毎回のようにBitTorrent事案が多すぎる、大変だという悲鳴を聞きます。
そもそもBitTorrentは、その仕組みとして、自分が意図してやり取りをしようとしているファイル以外のファイルのやり取りが不可避的に発生することから、合法的なファイルだけを利用することはできません。BitTorrentは、自分が意図してダウンロードするファイル以外も多数のファイルのダウンロードおよびアップロードがなされる仕様です。このため、ソフトウエアを立ち上げてダウンロードをしようとした時点で、同時に不特定多数への公衆送信が行われ公衆送信権侵害も開始されます。安全なファイルのダウンロードだけといった合法的な利用が、現在のネットワーク上でやり取りされているファイルを見るとそもそも不可能なのです。
そして、誰がアップロードしたかの記録は容易に確認することができ、この記録をもとにプロバイダに発信者情報開示請求を行えば、著作権侵害者を特定することは難しくありません。プロバイダが悲鳴を上げるほど開示請求がなされており、実際に損害賠償請求まで発展しているのは先ほど説明した通りです。
正確さを横におき、あえて断言してしまいますが、“BitTorrentを使えば確実に著作権侵害で訴えられる”という状況が続いており、見逃されることはありません。ある日突然、プロバイダからの意見照会や著作権者からの損害賠償請求が届くことになります。ちなみに、アダルトビデオメーカーが特にこの問題に力を入れて対応をしており、損害賠償請求の書面には権利侵害の対象として、なかなかに生々しい作品名が記載されて届きます。自分が意図して利用したファイルではない場合も多いのですが、たまたま家族等が見てしまうと衝撃を受けるのではないかと思います。身に覚えがない作品ということで、架空請求や詐欺と思い無視して事態を悪化させてしまう方もいるようですが、そうではないことは説明の通りです。
中澤 佑一
なかざわ・ゆういち/東京学芸大学環境教育課程文化財科学専攻卒業。 上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。2010 年弁護士登録。2011 年戸田総合法律事務所設立。 埼玉弁護士会所属。著書に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(単著、中央経済社)、 『「ブラック企業」と呼ばせない! 労務管理・風評対策Q&A』(編著、中央経済社)など。
