企業ブランドの知的財産管理
<ネット時代に必要な企業防衛の極意 vol.41>
昨今のサイバー攻撃強化で改めて注目度が高まっているセキュリティ対策。2022年4月に施行された改正個人情報保護法でも、個人情報の利用や提供に関する規制が強化されています。一方で、ネット上の情報漏洩や誹謗中傷といった事例も近年、急増しています。当コラムでは、こうしたネット上のリスクや対応策について詳しく解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.145(2025.11)に掲載されたものです。
弁護士法人戸田総合法律事務所 代表
中澤 佑一 先生
先日、「ほっかほっか亭」が、創業時の独特なフォントをデザインした50数年前のアルバイト学生を探しているというニュースがありました。長年活用されてきたロゴですが、年月の経過で作成者が不明になってしまっていたようです。
企業のロゴやキャラクターは、現代のブランディングに不可欠な「信用」の源泉です。社内で従業員がブランドロゴを作成するような事例も多いと思いますが、永続的に活用してゆくためには著作権をはじめとする知的財産権の帰属や活用範囲を明確にしてゆくことが必要となります。
ロゴや社名を独創的に表現する書体は、著作物として著作権の保護対象となります。著作権の保護期間は、著作者の死後70年もしくは法人著作物の場合は公表後70年です。かなりの長期間持続することになります。著作者本人との関係では口頭で合意ができていたとしても、将来的にその相続人が名乗り出て、その使用に対して正式な許諾や対価を求める可能性もあり、明確な取り決めをしておく必要性は高いです。
企業としては、制作時や発注時に契約等で著作権の帰属を明確にしておくこと、現在利用しているロゴ等の著作物について著作権の帰属が明確になっていなければ事後的にでも契約を締結するなどして明確にしておくことが望ましい対応になります。
まず、著作権の帰属についてですが、外部の第三者にデザイン制作を依頼した場合、契約で定めない限り、著作権は創作者である外注先に帰属します。よって、外部にデザイン制作を依頼した際は、著作権が譲渡されるもしくは著作物に関して自由に利用できることを明記した契約を締結するようにしてください。また、従業員に制作を行わせる場合、法人に著作権が帰属するように職務著作※が成立するように注意するか、従業員と別途契約を締結して著作権の帰属を明確化しておきましょう。
また、著作権とは別の観点として、ブランドの永続的な活用のためには、ロゴや名称を商標登録することも重要です。商標は基本的には早い者勝ちですので、他社に似たような名称を利用して商標を取られてしまうと、先に使用していたとしても使用できなくなってしまうリスクがあります。商標登録はブランドをビジネス上の「顔」として長期的に守るための必須の防御策です。
あなたの企業が現在も使用しているロゴ、キャラクター、書体などの知的財産の中にも、権利関係や制作者が不明確なものがあるかもしれません。機会があれば、制作時の契約書や発注書を確認し、著作権の帰属がどのようになっているのか、どこまでの改変や活用ができるのかの棚卸をしてみてはいかがでしょうか。
※ 「法人その他使用者の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物」のこと。著作者が法人となり、著作権も法人に帰属します。職務著作の成立が認められるための具体的な注意点は専門家にご相談ください。
中澤 佑一
なかざわ・ゆういち/東京学芸大学環境教育課程文化財科学専攻卒業。 上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。2010 年弁護士登録。2011 年戸田総合法律事務所設立。 埼玉弁護士会所属。著書に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(単著、中央経済社)、 『「ブラック企業」と呼ばせない! 労務管理・風評対策Q&A』(編著、中央経済社)など。
