売れれば何でも良い?“ダークパターン”の誘惑とリスク<ネット時代に必要な企業防衛の極意 vol.39>

昨今のサイバー攻撃強化で改めて注目度が高まっているセキュリティ対策。2022年4月に施行された改正個人情報保護法でも、個人情報の利用や提供に関する規制が強化されています。一方で、ネット上の情報漏洩や誹謗中傷といった事例も近年、急増しています。当コラムでは、こうしたネット上のリスクや対応策について詳しく解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.143(2025.9)に掲載されたものです。
弁護士法人戸田総合法律事務所 代表
中澤 佑一 先生
「ダークパターン」という単語を聞いたことはありますか?簡単に言うと、ウェブサイトやアプリにおいて消費者を騙したり、望まない行動に誘導するために設計されたデザインのことです。一例としては、ソフトの更新手続きの際に特定の商品が自動的にカートへ加算されたり、サブスクリプションの解約を困難にするために電話のみの対応にしたり、また、ECサイトで「期間限定」「残りわずか」といった表示で消費者を急かすようなものです。
現状、日本ではダークパターンそのものを明確に定義して規制するという対応はなされていません。また、ダークパターン的なユーザーインターフェースが広く利用されている現実があります。実際、広告というものは消費者に影響を及ぼし購買意思を形成させるものにほかなりませんから、ダークパターンかどうかというのは程度の問題なのかもしれません。もっとも、現在の日本の法令でも以下のような場合には、法令に違反する可能性があります。
- ① 電気通信事業法: ウェブで契約したサービスなのにウェブで解約できないようにするような解約阻害
- ② 特定商取引法: 誇大広告や、顧客の意に反して申込みをさせようとするような行為
- ③ 景品表示法: 消費者を誤認させるような不当な表示
- ④ 個人情報保護法: 欺瞞的な方法による個人情報の収集
また、外国ではダークパターンに対する規制の議論が進んでおり、日本でも将来的に規制が強化される可能性は高そうです。例えば、EUのデジタルサービス法(DSA)は、「サービスの利用者が自律的かつ十分な情報に基づいた選択または決定を行う能力を、意図的または効果的に実質的に歪める、または損なう慣行」とダークパターンを定義し、解約手続きを加入時よりも困難にすることを禁止行為として明記しました。
ダークパターンは法令で規制されているかどうかとは別に、不誠実な商売であるとの印象を消費者に与え、企業に対するイメージを悪化させます。年々消費者の目も厳しくなっており、新たな規制を待って対応するのではなく、今の段階から自主的に対応を進める必要があります。数年前にステルスマーケティングが景品表示法上の不当表示として禁止されましたが、禁止される少し前から、ステルスマーケティングを行っている企業や関与した芸能人等に対して厳しい非難がありました。ダークパターンについても同様に、法規制よりも先に消費者からのNGが突きつけられるはずで、売れれば何でも良いという考えは危険です。
自社の販売サイト等を再チェックし、解約手続が分かりにくければ、明確かつ容易にすること、特にウェブで契約できるようなものはウェブで解約もできるようにすること、価格表示や割引の条件なども消費者を誤認させて購入へ動機づけるような工夫はやめ正確かつ分かりやすい表示にする、といったことに取り組んでください。
ダークパターンは、一時的な売上増に繋がるかもしれませんが、その先には法的なリスクやブランドイメージの失墜という大きな代償が待っています。誠実さを重視したデジタルデザインこそが結局は企業を成長させるのではないでしょうか。

中澤 佑一
なかざわ・ゆういち/東京学芸大学環境教育課程文化財科学専攻卒業。 上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。2010 年弁護士登録。2011 年戸田総合法律事務所設立。 埼玉弁護士会所属。著書に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(単著、中央経済社)、 『「ブラック企業」と呼ばせない! 労務管理・風評対策Q&A』(編著、中央経済社)など。