知らなかったでは済まされない! ニュース記事の著作権と社内利用<ネット時代に必要な企業防衛の極意 vol.37>

昨今のサイバー攻撃強化で改めて注目度が高まっているセキュリティ対策。2022年4月に施行された改正個人情報保護法でも、個人情報の利用や提供に関する規制が強化されています。一方で、ネット上の情報漏洩や誹謗中傷といった事例も近年、急増しています。当コラムでは、こうしたネット上のリスクや対応策について詳しく解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.141(2025.7)に掲載されたものです。
弁護士法人戸田総合法律事務所 代表
中澤 佑一 先生
企業活動において、情報収集は不可欠です。競合の動向、業界の最新ニュース、社会のトレンドなど、新聞や雑誌、Webメディアの記事から有益な情報を得る機会は多いでしょう。自社に関係するニュースを社内で情報共有することもあると思います。しかし、共有方法によっては、実は著作権法に違反しているかもしれません。
最近、あるコンサルティング会社の役員らが、新聞記事などを無断でコピーし、社内の従業員に共有したとして、著作権法違反の疑いで書類送検されるというニュースもありましたので注意点を解説いたします。
まず、新聞や雑誌、Webメディアに掲載されている記事や写真は、メディアや執筆者に著作権のある著作物です。著作物を、著作権者に無断でコピーしたり、インターネットなどを通じて送信することは著作権法で禁止されています。
書類送検された件のように、記事をスキャンしてPDF化し、メールや共有フォルダで社内共有する行為は、著作権の侵害にあたる可能性が極めて高いです。社内だけで共有しており外部に公開するものではないということは、著作権侵害を否定する理由にはなりません。
著作権侵害を行ってしまうと、権利者からの損害賠償請求や刑事罰といったペナルティを受ける可能性があります。また今回のニュースのように著作権侵害の事実が報道されれば、企業のコンプライアンス意識の低さが露呈し、社会的な信用を大きく損なうことにもなります。
では、どのようにニュース記事を利用すればよいのでしょうか。適法な利用方法としては、次のようなものが挙げられます。
1.著作権者の許諾を得る
記事を発行している新聞社や出版社に直接連絡を取り、利用許諾を得る方法です。利用目的や範囲に応じて、個別に許諾を得ます。大手のメディアであれば、利用許諾の申請を受け付けるフォームや窓口が用意されていますので、そこから連絡をとりましょう。営業用の提案資料に自社が取り上げられた新聞記事を掲載する場合などは、この方法で許諾を得ることになります。
2.クリッピングサービスを利用する
情報共有目的でのニュース記事の利用を行うクリッピングサービスというものがあります。これらのサービスは、新聞社や出版社など各著作権者と契約を結んでおり、顧客企業はサービスを通じて適法に記事を収集・共有することができます。
3.記事のURLを共有する
Webサイトに掲載されている記事であれば、その記事のURLを共有する方法は、原則として著作権侵害にはあたりません。ただし、URLとともに記事の全文をコピー&ペーストして共有してしまうと著作権侵害になってしまいます。あくまでリンクとして共有をしてください。
情報社会になり、企業活動の多くの場面で著作権が問題となります。うっかりといいますか悪意なく著作物侵害を行ってしまっている場合も珍しくありません。著作権に関する正しい知識を基に、社内の著作物利用について今一度見直していただければと思います。

中澤 佑一
なかざわ・ゆういち/東京学芸大学環境教育課程文化財科学専攻卒業。 上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。2010 年弁護士登録。2011 年戸田総合法律事務所設立。 埼玉弁護士会所属。著書に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(単著、中央経済社)、 『「ブラック企業」と呼ばせない! 労務管理・風評対策Q&A』(編著、中央経済社)など。