インフルエンサーマーケティングのリスク<ネット時代に必要な企業防衛の極意vol.32>

昨今のサイバー攻撃強化で改めて注目度が高まっているセキュリティ対策。2022年4月に施行された改正個人情報保護法でも、個人情報の利用や提供に関する規制が強化されています。一方で、ネット上の情報漏洩や誹謗中傷といった事例も近年、急増しています。当コラムでは、こうしたネット上のリスクや対応策について詳しく解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.136(2025.2)に掲載されたものです。


弁護士法人戸田総合法律事務所 代表
中澤 佑一 先生

“インフルエンサー”とは、世間に対する高い発信力を有し、その発信力をビジネスとして活用する人物のことを言います。SNSの普及とともに、インフルエンサーを利用した広告手法=インフルエンサーマーケティングを利用する企業も増えています。なお、一昔前は、インフルエンサーに好意的な商品レビューを発信してもらうといったことも広く行われていましたが、現在はステルスマーケティング(広告であることが消費者から判別できないような広告)は景表法上の不当表示として禁止されており、インフルエンサーの発信力を利用した“コラボ商品“といった活用が多くなっている印象です。

インフルエンサーマーケティングでは、インフルエンサー個人が保持する発信力やブランドイメージが重要になりますが、このようなSNS的な価値は不祥事や炎上によって崩壊しやすいものです。インフルエンサーマーケティングを行う場合、インフルエンサーのイメージに企業や商品も乗っかることになりますので、インフルエンサー個人の問題が企業に波及するリスクが生じます。特に、コラボ商品の場合、商品開発やプロモーションにコストを投下する必要があります。インフルエンサー側、企業側双方が失敗時のリスクをあらかじめ想定し、備える必要があるでしょう。

この観点で、注目の裁判例として、2024年12月、インフルエンサーマーケティングの失敗をめぐり、インフルエンサーに対して3億8,000万円という巨額の損害賠償の支払いを命じる判決が東京地裁で下されました。インフルエンサーが豊胸手術を受けていたことを秘匿したまま、バストアップ効果をうたったナイトブラをプロデュースし、大きな売り上げを上げたところ、その後豊胸手術の事実が発覚して商品購入者に対する返金対応などに至った事例です。重要事実をめぐる説明義務違反による損害や返金をめぐる費用負担などが、商品製造元の企業とインフルエンサーとの間で裁判になりました。

この東京地裁の事例では、結果としてインフルエンサー側の説明義務違反が認められ、多額の賠償が命じられたようです。企業側としては勝訴したと言ってよいと思いますが、実際のところインフルエンサー個人の賠償能力にも限界があり、自己破産されてしまえば回収もおぼつきません。事後的に損害賠償請求訴訟で勝てばよいということではないでしょう。

M&A事案では重要事項について契約上双方が表明保障することが一般的に行われています。インフルエンサーマーケティングの分野でも、発注側として契約段階でプロジェクトの前提となる重要事項を双方共有し、場合によっては契約上明記するなどの対応が必要かもしれません。また、インフルエンサーの立場からしますと、自分が前面に立って自分の社会的信用でビジネスを展開することになりますので、もし何かしら問題が発生した場合には、自己のブランドを守るために積極的な対応が必要になります。このような対応費用については、法律上の義務を超えた範囲で行うほうがベターな場合も多く、仮に相手企業の責任によるプロジェクト失敗であっても、必ずしも相手に請求できるとは限りません。失敗時にどこまでの対応を、どの程度の費用を支出して行うかを契約上明確に定めておくのが安全だと思われます。

中澤 佑一

なかざわ・ゆういち/東京学芸大学環境教育課程文化財科学専攻卒業。 上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。2010 年弁護士登録。2011 年戸田総合法律事務所設立。 埼玉弁護士会所属。著書に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(単著、中央経済社)、 『「ブラック企業」と呼ばせない! 労務管理・風評対策Q&A』(編著、中央経済社)など。

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