訴訟の終わり方<ネット時代に必要な企業防衛の極意vol.30>
昨今のサイバー攻撃強化で改めて注目度が高まっているセキュリティ対策。2022年4月に施行された改正個人情報保護法でも、個人情報の利用や提供に関する規制が強化されています。一方で、ネット上の情報漏洩や誹謗中傷といった事例も近年、急増しています。当コラムでは、こうしたネット上のリスクや対応策について詳しく解説します。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.134(2024.12)に掲載されたものです。
弁護士法人戸田総合法律事務所 代表
中澤 佑一 先生
有名芸能人が週刊誌を訴えた訴訟について、訴えた側が訴訟を取り下げたとの報道がありました。
訴訟と言いますと、白黒つける、最後までやる、というイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、訴訟が最後までいかずに途中で終わることは最後まで行くケースより実際は割合としては多いところです。むしろ話し合いのための一つの“媒体”として訴訟を利用することも珍しくありません。柔軟かつ積極的に訴訟を利用していただけるよう、訴訟(民事訴訟)の終わり方について今回はご紹介したいと思います。
まず、訴訟とは、原告が被告に対して何かしらの法律上の請求を裁判所で行う手続きです。典型的な訴訟の決着としては判決があり、判決では法律上原告の主張する権利義務が認められるか、認められる場合にはどの範囲かを裁判所の判断が示されます。被告は原告に対して100万円を支払え、といったものが判決の一例です。なお、判決に対しては、控訴や上告が可能で、上級の裁判所でさらに審理をしてもらうこともできます。判決が下され、不服申し立てをしないか、制度上最上級の裁判所の判断が示されたタイミングで最終的に権利義務関係が確定されます。
また、判決前に和解という手続きもあります。和解は、仲直りのような印象を受ける単語ですが、実際は本当の意味で仲直りのケースはほとんどありません。和解は裁判所の判断ではなく、あくまで当事者間の合意より成立します。このため判決で命じることができる内容を超えて、謝罪や将来的な関係性についての合意も可能です。いやいや、そんな合意ができるなら訴訟しませんよ、話し合いなんて無理ですよ、と思うかもしれませんが、訴訟前の交渉段階では全く話し合いの余地がなかった案件でも、訴訟提起後に裁判所も交えて話し合いをしますと案外和解でまとまる案件もあります。判決で命じることができない内容も含めて合意するのが和解ですが、裁判所での和解は、裁判所による法律上の判断の見通しを前提に行いますので、共通の土俵に立て建設的な話し合いがやりやすくなるメリットがあります。交渉段階でうまくいかない場合には、訴訟に踏み切って裁判所で話し合いをするほうが、結果的に早期解決が図れる場合もあります。話し合いを狙って訴訟を提起するというのは、弁護士的にはよくある話です。
判決、訴訟以外の訴訟の終了として、訴えの取下げ、請求の放棄というものがあります。いずれも原告の側が訴訟で請求している内容についてもう判断も求めないという意思表示です。訴えの取下げについては、原告側が“今回はここらでやめとくわ”という意思表示であり、改めて訴訟を提起することも可能です。しかし、相手が訴訟に一定の対応をした後は同意が必要になります。訴訟の防御のために準備をした相手からすると、また訴えられたらたまらない、ここで明確に判決をもらっておきたいという要望があり得るからです。請求の放棄は、主に相手の同意が得られない場合に原告側が選択する手段で、相手方の同意は不要な反面、自らが主張する請求権が存在しないことを法律上も確定させる効果があり、再度の訴訟提起もできなくなります。
このように訴訟提起後の紛争の終わらせ方にはいろいろなものがあります。統計によりますと和解による終了率は約6割とも言われており、白黒つけるだけが訴訟ではありません。紛争解決のための一つの手段として、過度に拒否感を持たずに積極的に利用していただければと思います。
中澤 佑一
なかざわ・ゆういち/東京学芸大学環境教育課程文化財科学専攻卒業。 上智大学大学院法学研究科法曹養成専攻修了。2010 年弁護士登録。2011 年戸田総合法律事務所設立。 埼玉弁護士会所属。著書に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル』(単著、中央経済社)、 『「ブラック企業」と呼ばせない! 労務管理・風評対策Q&A』(編著、中央経済社)など。