『経営力向上計画』は中小企業のパスポート<税理士のヒヤリ・ハット体験談 第17回>
税理士法人 古田土会計 社員税理士
土田大輝
2021/9/30
第17回 『経営力向上計画』は中小企業のパスポートです
「経営力向上計画は、中小企業のパスポートです。」
これをキャッチフレーズに、多くのお客様へ経営力向上計画を作っていただいています。また作成のお手伝いもさせていただいています。
経営力向上計画を強くお勧めするようになったのは平成29年度税制改正で『中小企業経営強化税制』がスタートした時からです。
【設備投資減税からスタート】
この税制は、製造業などの設備投資を応援する制度で、この税制以前の中小企業向けの設備投資減税は、取得価額の30%の特別償却 又は 7%の税額控除(資本金3000万円以下の場合)の制度(中小企業投資促進税制)でしたが、この中小企業経営強化税制の要件に合致した場合、取得価額の100%の特別償却 又は 10%の税額控除(資本金3000万円以下の場合)と大きな償却や税額控除を受けることができ、当時大きな話題になりました。資産の内容等の要件は異なりますが、設備投資に対する新たな税制として当初注目されました。
今でもこの二つの税制は中小企業に対する投資を支援する税制として、非常に良く採用されています。
【金融支援の活用】
税理士の立場として経営力向上計画の作成を推奨するのは、まだ理由があります。
それは、金融支援です。お客様からの資金繰りのご相談も、我々に対していただく相談の一つです。
経営力向上計画が認定された事業者は、政策金融機関の融資、民間金融機関の融資に対する通常とは別枠での信用保証、債務保証等の資金調達に関する支援などを受けることができます。
それによって、お客様の調達に関する選択肢が増えて、余力が生まれることと思います。
更に、ものづくり補助金の申請にあたっての加点要素の一つになっていた(現在は除外されています)ことから、これらを狙うお客様にとっては身近な制度でしょう。
【認定状況と申請様式・申請方法】
このように良いとこばかりの『経営力向上計画』ですが、その認定状況はどうなっているでしょうか。
中小企業庁HPによると、令和3年6月30日現在で、124,553件の認定とのこと。私の感覚値でもそうでしたが、あまり浸透していないと言えます。
では、この『経営力向上計画』は、どのような様式なのでしょうか。
詳細は中小企業庁のHPをご参照いただきたいのですが、自社の経営状況の現状分析と計画を記載し、その他設備投資の内容などを記載するといったもの。
記載する箇所はさほど多くないという印象を受けます。
また提出すると事務局とのやり取りにより、不足箇所等の修正をすることができ、そして認定へと進みます。我々のお客様で今までお手伝いしたお客様における認定率は、100%です。
私見ですが、国の考えとして「中小企業における経営計画・事業計画の作成割合をもっと上げたい。そしてもっと中小企業にもっと頑張ってもらいたい」という意図を感じます。
【近年の制度拡充!】
経営力向上計画は、更に活躍します。
Ⅰ、所得拡大税制の上乗せ
所得拡大促進税制による税額控除額に付き、上乗せ措置に該当する場合、経営力向上計画に基づき経営力向上が確実に行われたことにつき証明がされることにより、税額控除に上乗せがされます。
Ⅱ、テレワーク等推進設備
また、近年のコロナ禍をうけて、中小企業のテレワーク等のための設備投資を後押しするため、中小企業経営強化税制の新たな類型として、
遠隔操作・可視化・自動制御化のいずれかを可能にする一定の設備に対して、枠が広がりました。
Ⅲ、M&Aを後押しする制度の創設
そして、令和3年度税制改正の目玉の一つでもある『経営資源集約化税制』においても、この経営力向上計画が使われることとなりました。
経営資源集約化税制は、経営力向上計画に基づいてM&Aを実施した場合、上記の①『設備投資』と②『雇用確保促進』に加え
③『準備金※の積立て』による支援を受けることができます。
※事業承継等事前調査に関する事項を記載した経営力向上計画の認定を受けた上で、計画に沿ってM&Aを実施した際に、M&A実施後に発生し得るリスク(簿外債務等)
に備えるため、投資額(10億円が限度)の70%以下の金額を、準備金として積み立て可能(積み立てた金額は損金算入)。
なお、その後実際の損失があった際にこの準備金を充てる(益金に計上し損失補てんする)ことができるほか、据置期間の5年を経過した後は、その準備金を6年目以降5年にわたり1/5ずつ取崩し(益金計上)する制度です。
今まではM&Aで買収先株式を取得した場合に、その株式は資産計上されるのみであったのですが、その期において損金を計上することができるようになりました。
この制度は課税の繰り延べには変わりありませんが、M&Aを検討されているお客様には、是非ご紹介していきたい制度です。
このように、経営力向上計画によって、税制をはじめとしてとても幅広い支援を受けることができます。
“計画”とありますので、原則としてお客様の設備投資の前にこの計画の認定を受けないといけないなど、スケジュールについては慎重に確認する必要があります。
実際に使える制度と分かっていても、そのタイミングを逸してしまい、折角の制度ですがお客様に十分な支援を受けていただけないと、思わぬクレームにも発展しかねません。
中小企業庁の制度案内においても、このスケジュールについて強調していますので、下記リンクをご確認ください。
経営資源集約化税制(中小企業事業再編投資損失準備金)の活用について
税理士は、これらの支援制度の策定や提出をサポートする『認定支援機関』になることができます。
税理士に対して求められる社会的役割の一つとして、『経営力向上計画』をたくさんの中小企業に浸透させ、”元気”になっていただきましょう。
私はその想いをもって、今回のコラムを書かせていただきました。皆さんと一緒に、もっともっと日本中の中小企業を元気にしていきたいです。