高市経済政策の懸念(小宮一慶先生 経営コラムVol.95)

本コラムでは、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が、経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.145(2025.11)に掲載されたものです。


株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO
小宮 一慶 先生

高市早苗氏が自民党総裁に選ばれました。この原稿を書いている時点では、連立での困難もあり、首相にはなっていませんが、高い確率で首相に就任するものと考えられます。

高市氏の総裁就任で株価は一時大きく上げましたが、円は150円を超える円安となりました。私が懸念していることは、積極財政を標榜していることと、「財政と金融は政府が決定権を持つ」としていることです。

現状の日本経済を冷静に見ると、インフレ率が3%を切ったものの8月で2.7%と高い状態が続いています。そして最も問題なのが、インフレを勘案した実質賃金がマイナスの状態が続いていることです。それも8か月連続です。この春、結構な賃上げが行われたのですが、それでは物価上昇に勝てていないのです。

実質賃金がマイナスということは、昨年と同じものを同じ数量買えないということです。数量を減らすか、あるいは、以前より安いものを買うかということです。つまり、国民の生活が貧しくなっているのです。実質賃金をプラスにするには、実額である名目賃金を上げるか、あるいはインフレ率を下げるかしかありません。

派遣やパートの人たちの賃金はその時点での需給で動きますが、正社員の給与は日本では賃上げの大筋は春に決まることが多く、この秋での日本全体での大幅な賃金改定は考えにくい状況です。また、雇用はまだ不足感が強いですが、その中で、8月には、有効求人倍率(求職者数÷求人数)、さらには、失業率が悪化しました。まだ、安全水域ですが、そろそろ雇用のピークは越えた感があります。賃金上昇圧力が収まることも見え始めています。賃上げ圧力が低下しているのです。

そうなれば、実質賃金を上げるには、インフレの抑制しかありません。しかし、高市氏が採ろうとしている政策は、インフレに逆効果のものが少なくありません。財政拡大は直接的にインフレを助長します。さらには、意図している円安かどうかは分かりませんが、輸入物価の上昇をもたらします。

インフレを抑制するには、日銀が政策金利を上げるのが本筋だと考えますが、先にも触れたように、高市氏は金融政策に関して責任を持つとして日銀の利上げを強くけん制しています。これではインフレ抑制に効果がある短期金利を上昇させられません。一方、財政悪化を懸念して、長期金利(10年国債利回り)は1.7%近くまで急上昇しています。

高市氏は、英国のサッチャー元首相を理想としているようですが、英国金融をめちゃくちゃにして短期間で退陣したトラス元首相のようにならないことを願うばかりです。

小宮 一慶

こみや・かずよし/京都大学法学部卒業。 米国ダートマス大学タック経営大学院留学(MBA)、東京銀行、岡本アソシエイツ、 日本福祉サービス(現: セントケア)を経て独立。名古屋大学客員教授。 企業規模、業種を超えた「経営の原理原則」をもとに幅広く経営コンサルティング活動を 展開する一方で、年100回以上講演を行っている。 『稲盛和夫の遺した教訓』(致知出版社)など著書は150冊以上で、経済紙等にも連載を抱える。

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