関税交渉を早急に決着させよ(小宮一慶先生 経営コラムVol.92)

本コラムでは、『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座』等の著書を持ち、日経セミナーにも登壇する小宮一慶先生が、経営コンサルタントとしての心得やノウハウを惜しみなくお伝えします。
※本記事は、会報誌『BIZUP Accounting Office Management Report』vol.142(2025.8)に掲載されたものです。


株式会社小宮コンサルタンツ 代表取締役CEO
小宮 一慶 先生

4月にトランプ大統領から発せられた「相互関税」の当初の90日間の猶予期限は7月9日まででしたが、期日前にトランプ大統領は8月1日までの猶予付きで25%の相互関税を課すとの表明をしました。さらには、それとは違う枠組みで自動車には25%の「追加関税」が課されています。鉄製品には50%です。残念ながら米国との関税交渉はなかなか決着せず、担当の赤澤大臣は7月初時点ですでに7回訪米し、石破首相も6月半ばのカナダでのサミット時にトランプ大統領と会談しましたが、関税交渉については何の進展もありませんでした。

しかし、関税交渉が長引けば長引くほど、日本の自動車業界は不利な状況に置かれることを認識していなければなりません。

トランプ政権の1期目では、関税を上げるという「脅し」により、米国に有利な条件を引き出そうとしました。つまり、交渉が長引いても関税は上がっていないので、影響は小さかったのです。今回は先に米国は関税を上げてしまっています。ですから、関税交渉が長引けば長引くだけ、日本の自動車メーカーや部品メーカーには大きな影響が出続けるのです。自動車メーカーあるいは部品メーカーの負担増となっていることに違いはなく、米国での値上げをいずれは余儀なくされます。これは価格競争力を失わせることにつながります。それを回避するために値上げを行わなければ利益の減少につながります。結局、関税がかかったままの状態が長引けば、生産拠点などの戦略を国内あるいは他国から米国に移すなど、大きな戦略変更を余儀なくされるところも出てきます。日本での雇用が失われる可能性もあります。

トランプ大統領は、今のところ自動車では全く譲る気配を見せていません。コメでも譲歩を求めるような話もしていますが、JAや農家への配慮もあり、参議院選挙前にはコメでの大幅な譲歩はできないでしょう。

英国が早々に関税交渉を決着させ、自動車の関税からもうまく切り抜けたのは、英国は米国にとって貿易黒字国だからです。一方、日本は毎年700億ドル程度の米国から見た貿易赤字があります。中国ほどではありませんが膨大な額です。

日本政府としては、覚悟を決めて交渉の決定打となるものを示さなければ、だらだらと交渉が長引き、自動車業界に不利な状況が続くだけです。解決できないなら交渉チームを変えるなどのことが必要です。農水大臣を江藤氏から小泉氏に変えてコメの価格問題はある程度進展しました。

いずれにしても、このままではらちが明かないので早急な関税交渉の進展を求めます。

小宮 一慶

こみや・かずよし/京都大学法学部卒業。 米国ダートマス大学タック経営大学院留学(MBA)、東京銀行、岡本アソシエイツ、 日本福祉サービス(現: セントケア)を経て独立。名古屋大学客員教授。 企業規模、業種を超えた「経営の原理原則」をもとに幅広く経営コンサルティング活動を 展開する一方で、年100回以上講演を行っている。 『稲盛和夫の遺した教訓』(致知出版社)など著書は150冊以上で、経済紙等にも連載を抱える。

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